中国本土のハイテク・イノベーションがどこで生まれ、どう広がっているのか——その縮図として、上海を核に江蘇・浙江・安徽へ広がる「長江デルタ(YRD)」の動きが、2025年末のいま改めて注目されています。
“銀色のドーナツ”が支える研究の基盤:上海SSRF
上海・張江(ジャンジャン)の象徴的な存在が、2009年に完成した上海放射光施設(SSRF、通称「上海ライトソース」)です。巨大な銀色のリング状施設は、完成以来2万件を超える実験プロジェクトを支えてきました。
中国メディアグループの報道によると、2024年の最初の11カ月にSSRFを利用した研究者のうち、約半数が長江デルタ地域からだったとされます。大型研究インフラが、都市単体の成果にとどまらず、広域の研究・産業連携を呼び込む拠点になっている構図が見えてきます。
上海の“知の密度”が上がっている:論文・人材・スタートアップ
研究力の伸びを示す指標として、2025年上半期に中国の研究者がトップクラスの国際学術誌に出した論文のうち、3本に1本が上海由来だった、という数字も紹介されています。
この知的な厚みを支えているのは、研究者だけではありません。報道によれば上海では、集積回路(半導体)・バイオ医薬・AI(人工知能)などの先端分野に、80万人超の専門人材が集中し、さらに1日平均320社というペースで新たなテック系スタートアップが生まれているといいます。
張江には、世界の大手製薬企業(トップ20のうち半数)のオープンイノベーション拠点が集まっているともされ、研究(アカデミア)と事業化(産業)の距離が近いことが、地域の特徴として語られています。
上海だけではない:G60科創回廊が“面”で押し上げる
長江デルタの現在地を語るうえで欠かせないのが、G60科学技術イノベーション回廊です。このネットワークには、中国本土のハイテク企業の約7分の1が集まり、さらに「中国版ナスダック」とも呼ばれるテック株市場の科創板(STAR Market)上場企業の2割超が含まれるとされています。
要点は、上海の強さが“点”として突出しているだけでなく、周辺都市との分業・連結によって“面”になっていることです。研究・試作・量産・調達が地域内で循環しやすくなり、イノベーションの速度が上がる——という発想が、数字の背景にあります。
3時間圏の“超クラスター”:航空宇宙で見える統合効果
統合の効率が分かりやすい例として挙げられるのが、上海・臨港特別エリアの「ビッグプレーンパーク」を中心とする航空宇宙分野です。メーカーから見ると、高速鉄道で3時間以内に部品サプライヤーの3分の1へ到達できるとされ、近接性がコスト低減と開発短縮を後押しする「ハイパー・クラスター」型の産業地図が描かれています。
政策連携から“法制度化”へ:2024年9月の決定
長江デルタのもう一つの特徴は、連携がスローガンにとどまらず、制度として固められている点です。報道では、2024年9月に「長江デルタ科学技術イノベーションの協同発展を促進する決定」が施行され、地域連携が制度化された法的枠組みへ移行する節目になったとされています。
2026年に向けた優先事項へ:中央経済工作会議の位置づけ
また、直近に開催された中央経済工作会議では、上海を国際的な科学技術イノベーションセンターへ育てる取り組みを、上海だけでなく長江デルタの4つの省級地域全体に広げる方針が示されたと伝えられています。会議は、上海(長江デルタ)国際科学技術イノベーションセンターを、京津冀(北京・天津・河北)や、広東・香港・マカオのグレーターベイエリアと並ぶ、来年(2026年)の重点の一つに位置づけたとされています。
国際指標でも存在感:WIPO 2025年GIIのクラスター順位
成果は国際ランキングにも表れている、というのが今回の語り口です。世界知的所有権機関(WIPO)の2025年グローバル・イノベーション・インデックス(GII)では、長江デルタのクラスターが上位に入り、上海–蘇州が6位、杭州が13位、南京が15位、合肥が39位と報じられました。
さらに、地域内で5万6000点の研究設備を省をまたいで共有し、世界200の大学と600の主要企業を結びつける取り組みが紹介されています。行政区分の壁を低くし、研究資源と産業資源を“つなぐ”ことが、新たな質の生産力(新質生産力)につながる——という発想が、ここに集約されています。
静かに効いてくる問い:イノベーションは「施設」より「接続」で伸びるのか
SSRFのような大型施設は分かりやすい象徴ですが、記事全体を貫くテーマはむしろ「接続」の設計です。研究インフラ、人材、スタートアップ、上場市場、交通、そして法制度。これらが同じ方向を向くとき、地域は“巨大な実験装置”のように機能するのかもしれません。
長江デルタの動きは、都市間競争というより、都市間の役割分担と往復の回路をどう作るか——その実務の積み重ねとして、2026年に向けても注目が集まりそうです。
Reference(s):
How China's Yangtze River Delta drives national high-tech innovation
cgtn.com








