北京・天津・河北の三地域が一体となって進める科学技術イノベーションが、2025年末に向けて新たな段階に入っています。北京の中関村を中心に育ってきた研究開発力が、先端製造業の拠点である天津や産業受け皿として成長する河北へと広がり、中国本土全体の成長エンジンをつくろうとする動きです。最近の中央経済工作会議では、北京国際科学技術イノベーションセンターの範囲を北京・天津・河北全域へ拡大する方針も打ち出されました。数字の裏側には、どのような戦略と構図が見えてくるのでしょうか。
中関村:都市面積の4%でGRPの約3分の1
北京市の北西部に位置する中関村は、「中国本土のシリコンバレー」とも呼ばれてきました。市の面積の4%に満たない地域が、北京の地域総生産(GRP)の約3分の1を生み出しているとされ、2025年も高品質な発展の象徴として注目を集めています。
急成長するAIと量子科学
中関村では、量子科学や人工知能(AI)などの先端分野で成果が加速しています。特に注目されるのが、大規模言語モデル(LLM)の集積です。ここで育成された国産の大規模言語モデルは200以上にのぼり、中国本土全体の約3割を占めるとされています。こうした技術が、都市の産業構造を押し上げる原動力になりつつあります。
90社超のユニコーンと10兆元の売上高
イノベーション主体の多様さも特徴です。中関村からは、評価額10億ドル以上の未上場企業を指すユニコーン企業が90社以上生まれ、新しい産業分野の主役となっています。2025年には、中関村に拠点を置く企業の売上高合計が初めて10兆元の大台を超える見込みで、北京経済をけん引する「イノベーション高地」としての役割を鮮明にしています。
習近平総書記が示した「待たない」開発路線
現在の中関村の姿は、習近平総書記(国家主席)が早い段階から科学技術イノベーションを重視してきた流れの延長線上にあります。2013年9月、中国共産党中央政治局は中南海の外で初めての集団学習会を中関村で開き、習総書記はイノベーション主導の発展は逆らえない潮流だと強調しました。
この際、習総書記は中関村に対し、「待っていてはならない、傍観してはならない、緩んではならない」という趣旨の3つの要請を示したとされています。北京市科学技術委員会兼中関村管理委員会の楊朴・副主任は、これが新たな技術革命と産業変革の機会をつかみ取るための強いメッセージであり、北京と中関村の科学技術イノベーションの方向性を指し示したと振り返ります。
第14次五カ年計画期に進む北京・天津・河北の連携
第14次五カ年計画期間に入ってから、習総書記は北京・天津・河北の協調発展の中核として、科学技術イノベーションの役割を繰り返し強調しています。北京の研究開発力とイノベーション資源を、天津の先端製造や研究開発の強み、河北の産業受け入れ能力と結びつけることで、三地域が共に「科学技術イノベーション高地」を築く実践的な道筋を描こうという構想です。
懐柔科学城:大型施設が集積する研究拠点
北京市の懐柔科学城では、巨大な放射光施設である高エネルギーフォトン源の試運転開始が目前に迫っています。すでに29の大型科学装置・プラットフォームが研究段階に入り、このエリアは世界でも有数の国家レベル科学技術インフラの集積地となっています。
北京はまた、国家重点実験室145カ所と、新タイプの研究機関10カ所の配置を進めています。研究開発費の対GRP比(研究開発投資強度)はおおむね6%前後で推移しているとされ、基礎研究から応用研究まで厚みのある体制づくりが進みます。
今年公表された「2025国際科学技術イノベーションセンター指数」では、北京は「サイエンスセンター」の側面で世界首位となり、世界の科学拠点としての地位と、グローバルなイノベーション資源を引きつける高地としての存在感を示しました。
3つの1兆元クラスターと7つの千億元クラスター
科学技術イノベーションと産業イノベーションの深い統合も進みつつあります。北京では現在、次のような産業クラスターが形成されています。
- 次世代情報技術
- 科学技術サービス
- 医療・ヘルスケア
これら3分野では、それぞれの産業規模が1兆元クラスのクラスターに成長しています。さらに、インテリジェント製造・装備や人工知能など7つの千億元クラスターも形成されつつあります。
今年1〜11月には、一定規模以上の工業企業が生み出す戦略的新興産業の生産額が前年比16.5%増と、大きく伸びました。
「先頭のガチョウ」としての北京と1時間サプライチェーン
北京は「北京・天津・河北イノベーションマトリクス」の先頭を飛ぶガチョウとして、技術の波及効果と資源の放射効果を通じて周辺地域をけん引しています。河北省の雄安新区にある中関村科学園では、科学技術、金融、産業研究など11の北京発プラットフォームが一体化したワンストップサービス体制が整えられ、企業は新区の外へ出ることなく質の高いイノベーション資源にアクセスできるようになりました。
これまでに北京・天津・河北の三地域は、基礎研究の共同プロジェクトを220件以上立ち上げ、イノベーションコンソーシアム(連合体)を設けて協力体制を強化してきました。域内では、産業間・地域間の連携が深まり、「新たな生産力」(new productive forces)と呼ばれる成長分野が勢いを増しています。
象徴的なのが、知能化・ネットワーク化された自動車産業です。北京・天津・河北一帯では、300社を超える重要部品メーカーがサプライチェーン上で密接につながり、いわゆる1時間支援圏を形成しています。午前中に発注した自動車部品が午後には工場に届く、といった迅速な供給が日常の光景になりつつあります。
北京・天津・河北地域にある国家レベルの先進製造クラスターは現在7つまで増え、そのうち5つは三地域が共同で構築する形です。「研究開発は北京で、産業化・生産は天津と河北で」という役割分担が次第に固まりつつあります。
北京国際科学技術イノベーションセンター、三地域へ拡大
こうした流れを受け、今年開かれた中央経済工作会議では、イノベーション駆動型発展を堅持し、新たな成長エンジンの育成と拡大を加速するという方針が打ち出されました。その一環として、北京国際科学技術イノベーションセンターの対象範囲を北京単独から北京・天津・河北全域へと広げることが決定されました。
北京師範大学の万喆教授は、この拡大は習近平国家主席が自ら構想し、配置し、推進してきた重要な戦略であり、中国本土の科学技術イノベーション戦略が「単独の突破」から「地域一体の協働」へと進化する節目だと語ります。国家戦略のアップグレードとして、原始的なイノベーションの供給源を育て、世界的な科学技術強国づくりを支える戦略的柱を築く強い原動力になるという見方です。
原始イノベーションと人材の高地をめざして
習近平国家主席は、北京国際科学技術イノベーションセンターと高水準人材の高地の建設を加速し、独自イノベーションの重要な源泉、原始イノベーションの主要なハブへと育てていくべきだと指摘しています。
この方針のもとで、北京は科学技術イノベーションの源としての役割を一層発揮しつつ、天津や河北との連携とシナジーの強化に力を入れています。北京・天津・河北の三地域は、新たな歴史的出発点に立ち、国家戦略と歩調を合わせながら、協働を通じて力を束ね、科学技術イノベーションで新たな国際センター像を描こうとしている段階です。
急速な技術革新と産業転換が続くなかで、1つの都市から広域へと広がるイノベーションの枠組みづくりは、中国本土における発展モデルの変化を映す動きでもあります。北京・天津・河北で試みられている研究開発と製造の連携、都市部と新エリアの一体的発展が、今後どのような形で定着し、どのような新しいサービスや産業を生み出すのか。三地域が描くイノベーションの青写真は、これからも注目を集めそうです。
Reference(s):
Beijing-Tianjin-Hebei sci-tech innovation embarks on a new drive
cgtn.com








