中国本土で、3歳未満の子どもを対象とした保育サービスを体系的に整備する新たな法律案が、全国人民代表大会(全人代)常務委員会に初めて提出されました。出生率の低下と子育てコストの上昇が続く中、保育の安全と質をどう確保するかが大きな焦点になっています。
全人代常務委に初提出 8章76条の包括的な枠組み
今回審議されている保育サービス法案は、子どもの養育・教育をめぐる制度を「促進」と「規範」の両面から整えることを目的としています。具体的には、3歳未満の子どもへのサービスを対象に、保育機関の設置から運営、監督までを法律で定めるものです。
法案は8章76条で構成されており、担当する全人代教育・科学・文化・衛生委員会の羅曉剛主任によると、2023年に立法作業が始まりました。その後、北京、南部の広東省、東北部の黒竜江省、北部の内モンゴル自治区などで現地調査が行われ、地域ごとの保育サービスの実態を把握したうえで、課題を法律に反映させたとされています。
立法方針として掲げられているのは、「需要主導・問題志向」です。利用者側のニーズを出発点にしながら、サービスの質や事業者の資格、機関の監督・規制など、これまで指摘されてきた点を重点的に整理するねらいがあります。
「安全網」をどう張るか 厳格な基準とブラックリスト
草案の特徴の一つが、安全確保に関する規定の詳細さです。法案は、保育機関が満たすべき安全基準のリストを示し、子どもを守るための「安全網」を構築することを目指しています。
たとえば、保育機関はまず所管の衛生当局からの認可を受けなければならず、適切な人員配置、施設、設備、面積などが求められます。また、保育に携わる人材については、暴力犯罪や人身売買、性犯罪などの前科がある者を排除する「ブラックリスト」制度が導入されます。
こうした措置は、子どもの安全を最優先するだけでなく、保護者が安心して子どもを預けられる環境を整えることにもつながります。保育サービスの拡充と同時に、信頼をどのように高めるかが鍵になりそうです。
出生率低下と子育てコストという大きな背景
今回の法案審議の背景には、中国本土の出生率低下があります。2024年の出生率は人口1000人あたり6.77人、出生数は954万人にとどまりました。縁起が良いとされる「辰年」の効果で押し上げられた数字であるにもかかわらず、歴史的な低水準です。
10年前には、出生率は12.07‰、出生数は1655万人でした。わずか10年で大きく減少したことになります。要因の一つとして挙げられているのが、保育を含む子育て費用や生活コストの上昇であり、若い世代が子どもを持つことに慎重になりやすい環境です。
今回の保育サービス法案は、この「費用の重さ」を少しでも和らげるための仕組みづくりとも位置づけられます。質の高い保育を公的に整備し、手の届く価格で利用できるようにすることが目標とされています。
出産費用の実質無償化と現金給付 政策パッケージの一部として
中国本土ではすでに、出生率低下への対応として、出産や子育てを支える政策が段階的に打ち出されています。最近の国家医療保障会議では、2026年までに、国家医療保険制度のもとで出産費用を「実質無償」とする方針が示されました。
さらに、3歳未満の子ども1人あたり年間3600元(約511ドル)を標準とする補助も導入されています。今回の保育サービス法案は、こうした経済的支援と連動しながら、保育の「制度」と「現場」を整える役割を担います。
財政支援とサービス供給の両面から、出生と子育てを支える仕組みを重層的に作ることが、今後の人口構造を安定させるうえで重要な課題となっています。
今後の審議と、静かに広がる問い
今回の草案は、全人代常務委員会での初めての審議段階にあります。今後、複数回の審議や修正を経て、最終的な成立・施行に向かう見通しです。地域の実情に合わせながら、どこまで具体的な基準を示し、どこを地方政府や保育機関の判断に委ねるのかも注目点です。
少子化や子育ての負担感は、中国本土に限らず、多くの国や地域で共通するテーマになりつつあります。保育の安全と質をどう確保し、どこまで公的に支えるのか――今回の法案は、その問いに対する中国本土なりの一つの回答を形にしようとする試みとも言えます。
今後の立法過程と現場での実装の進み方は、アジアの人口動態や家族のあり方を考えるうえでも、静かに注目されることになりそうです。
Reference(s):
China's draft law on childcare services submitted for first reading
cgtn.com








