中国本土で「非共識」研究が始動――大胆な基礎研究で破壊的イノベ狙う
中国本土で今月、従来の評価軸では落ちやすい「大胆で非主流(非共識)」な研究に投資する新たな選抜が始まりました。半導体、AI、先端製造などの「チョークポイント(ボトルネック)」を意識しつつ、今後5年の研究戦略を“独創性”へ寄せる動きとして注目されています。
今月始まった「主要非共識プロジェクト」選抜とは
中国国家自然科学基金(NSFC)が今月、初めて「主要非共識プロジェクト」の選抜を実施しました。狙いは、短期の成果やすぐの事業化よりも、将来の大きな飛躍につながり得る基礎研究を後押しすることです。
背景には、中国本土が強みとしてきた「既存技術の改良・スケール化」に加え、“まだ名前のない新領域”を生み出す力が技術的自立にも直結する、という問題意識があります。
63件→6件→最終討論へ:疑いから始まる厳格な審査
推薦されたプロジェクトは63件。そのうち最終討論に進んだのは6件に絞られました。2日間の討論では、事前に選ばれた提案であっても、方法論や理論的根拠、国際的な懐疑論まで含めて、容赦なく問われたといいます。
象徴的なのが、核遷移で新粒子を検出するという提案です。発表開始から間もなく議論が割り込む形で始まり、予定30分の枠を大幅に超える2時間にわたり、専門家が徹底的に詰めたとされています。
支持の声として「成功すればノーベル賞級だ」という評価が出た一方で、すぐさま「それなら、なぜ長年誰もできなかったのか。問いの立て方自体が最初から誤っている可能性はないか」と反論が返る。称賛と疑念が同時に投げ込まれる場が、制度として意図されたことがうかがえます。
応募者側も、若手研究者として「高リスク・高コストで抑えてきたが、この枠組みでようやく機会が見えた」と語ったとされ、挑戦の“入口”を制度でつくる設計が透けます。
採択テーマは“SF級”。ただし「すぐ儲かる」前提ではない
最終的に選ばれたテーマは、いずれも伝統的な査読では慎重論が出やすいタイプでした。記事で紹介された「勝者」は次の3件です。
- 存在しないかもしれない粒子の探索
- 人工細胞をゼロから作る試み
- 太陽系で最初の固体がどう形成されたかを解き明かす研究
共通するのは、高リスクで論争的、しかし当たれば研究地図を書き換える可能性がある点です。そして、短期の経済リターンは必ずしも見込まれていないとされています。
量子研究者・潘建偉氏の言葉:「懐疑は珍しくない」
選抜の専門家パネルに参加した量子科学の研究者、潘建偉氏は、応募者の置かれた立場に理解を示したといいます。量子情報の研究が30年前には懐疑の目で見られ、自身もどこまで進むか確信がなかった、という振り返りが紹介されました。
その潘氏のチームは今週、次世代量子コンピューターの基盤になり得る量子誤り訂正の成果を学術誌『Physical Review Letters』の表紙論文として発表したとされます。潘氏は「国の革新力が高まる中で、重要分野では主導していく段階に来た」と述べ、従来のアプローチを超える非共識型の突破口を育てる必要性を強調しました。
2025年の評価指標が映す「研究重心の移動」
こうした枠組みは、昨年の中国共産党第20期中央委員会第3回全体会議で示された「高リスク・高価値の基礎研究を奨励する」方針の実装の一部だと位置づけられています。投資拡大や大型研究施設の整備、国際協力に開かれた運用も進める流れの中で、2025年は“成果の見え方”も変わってきました。
- 科学誌『Science』が2025年のブレークスルー10件として挙げたうち、4件が中国本土のチームによるもの(古代人類の頭蓋骨、耐熱性の高いコメ、動物からヒトへの臓器移植など)
- 英誌『Physics World』は、二次元金属の創成を含む中国本土の成果を2025年のトップ10に選出
- 今年6月公表の『Nature Index』では、中国本土が2年連続で米国を上回り首位に。編集責任者サイモン・ベイカー氏は「世界の研究地図の深い変化を示す」と述べ、継続投資が高品質な研究成果の持続的成長につながっていると説明しました
「失敗も価値」――不確実性を制度で抱えるという選択
潘氏は「科学の進歩は本質的に予測不能で、ある瞬間に突然変化が起き、失敗にも大きな価値がある」と語ったとされます。今回の「非共識」枠は、その不確実性を個人の勇気だけに委ねず、制度として引き受ける試みとも読めます。
厳しい問いが浴びせられた場面は、挑戦を萎縮させるためというより、挑戦が社会的な資源配分に耐えるだけの論理を持つかを測る、もう一つの“実験”だったのかもしれません。大胆なアイデアをどう育て、どう見極めるのか。研究の最前線だけでなく、評価の設計そのものが問われています。
Reference(s):
cgtn.com








