上海で新刊シンポ:日本軍「慰安婦」制度の通史、30年調査を4巻に
先週(2025年12月下旬)、上海で日本軍「慰安婦」制度を扱う新刊『日本軍「慰安婦」制度の総合史(A Comprehensive History of the Japanese Military “Comfort Women” System)』の刊行を記念したシンポジウムが開かれ、長年研究に携わってきた歴史家・研究者が成果と課題を語りました。第二次世界大戦期の人権侵害を、学術的な検証としてどう積み上げ、社会の記憶とどう接続するのか――その問いを改めて可視化する場になった形です。
上海で開かれた刊行記念シンポ、研究者が「到達点」と位置づけ
シンポジウムでは、同書が「大きな学術的達成」であると同時に、戦時下の加害と被害を直視する必要性を思い起こさせるものだ、という趣旨の発言が相次いだとされています。長い時間をかけて集められた史資料と現地調査の蓄積が、研究の厚みを支える、という評価が中心でした。
4巻・216万字――「制度」を通史として描く試み
同書は、蘇智良(Su Zhiliang)氏と陳麗菲(Chen Lifei)氏による4巻本で、総文字数は216万字(中国語)に及ぶとされています。日本軍「慰安婦」制度について、断片的な出来事の集合としてではなく、より広い射程で「パノラマ的かつ体系的」に描くことを狙った構成だと紹介されました。
今回示された“本の骨格”(公表情報ベース)
- 著者:蘇智良氏、陳麗菲氏
- 分量:全4巻、計216万字(中国語)
- 主題:日本軍「慰安婦」制度の総合的・体系的な歴史叙述
多言語アーカイブと300回超の現地調査が支える
研究の方法として強調されたのが、国境と言語をまたぐ資料収集です。同書は、中国、韓国、日本、オランダ、フィリピン、マレーシア、インドネシア、ミャンマー、東ティモールのアーカイブ資料などを参照し、中国語・日本語・英語・韓国語・オランダ語の史料を用いたとされています。
さらに、過去30年間にわたって300回を超える現地調査を行い、その知見も組み込んだと説明されました。公文書や一次資料の読み込みに加え、現場の痕跡や地域の記憶を照合していく作業は、戦争史研究では特に重要になりやすい領域です。
「多言語化」がもたらす意味
単一言語の史料だけに依拠すると、記録の残り方や分類の仕方(何が文書化され、何が文書化されないか)に研究が引きずられがちです。複数言語・複数地域のアーカイブを突き合わせることは、出来事の輪郭をより立体的にし、見落としや偏りを減らす方向に働きます。
「主流の戦争叙述」からこぼれ落ちてきた歴史を、どう扱うか
シンポジウムでは、日本軍「慰安婦」制度の歴史が「長く見えにくくされ、主流の戦争叙述の中で周縁化されてきた」という問題意識も共有されたとされています。ここで問われるのは、史実の発掘にとどまらず、社会がその知見をどう受け止め、教育・メディア・記憶の場にどう位置づけるのか、という次の段階です。
戦時の性暴力や強制をめぐる議論は、当事者の尊厳、証言の扱い、国家や軍の責任の語り方など、複数の論点が絡み合います。だからこそ、感情的な断定に流れず、史料と検証の積み重ねで議論の足場を整える意義が、学術的にも社会的にも大きいと言えます。
いま(2025年末)このテーマが持つ“静かな切実さ”
2025年の終わりに改めて注目される背景には、戦争体験の継承が時間とともに難しくなる現実があります。証言・現地の痕跡・散逸しやすい資料は、放置すれば失われます。今回のように、長期調査と多言語史料を束ねて「総合史」として提示する作業は、研究の整理であると同時に、将来世代の検証可能性を確保する行為でもあります。
読者が押さえておきたい見取り図
- これは「事件の単発報告」ではなく、制度の全体像を描く通史の試みであること
- 多言語・多地域の資料を突合することで、叙述の確度を上げようとしていること
- 30年規模の現地調査が、文書資料だけでは拾いにくい部分を補っていること
歴史研究は、過去を裁くためだけにあるのではなく、いまの私たちが「何を事実として共有できるのか」を整える営みでもあります。上海での今回のシンポジウムは、その地道な作業がなお続いていることを示す出来事として、重く静かに受け止められました。
Reference(s):
cgtn.com








