中国本土の初「宇宙救助」:神舟22の緊急打ち上げ、その舞台裏
2025年11月、中国本土の有人宇宙計画は、中国宇宙ステーションでの重大リスクに対応するため、初の「緊急打ち上げ」を実施しました。窓の亀裂という小さな異常が、軌道上運用の安全設計と即応力を問う出来事へと発展し、わずか約20日でバックアップ機を打ち上げる異例の展開となりました。
何が起きたのか:神舟20の「窓の亀裂」
発端は2025年11月4日。地上帰還に向けた最終準備中だった神舟20の乗員が、宇宙船の舷窓(外側のガラス)に異常を発見しました。カメラに加え、宇宙ステーションの40倍顕微鏡で複数角度から撮影し、損傷箇所を詳細に確認。亀裂が外層ガラスに生じていることが判明しました。
中国有人宇宙プロジェクトを統括する中国有人宇宙工程弁公室は、微小デブリ(小さな宇宙ごみ)や微小隕石(マイクロメテオロイド)による衝突の可能性を示唆。中国航天科技集団(CASC)によれば、分析の結果、亀裂は貫通性であると結論づけられ、損傷した機体での帰還はリスクが高いとの判断につながりました。
緊急対応の骨格:「打ち上げ1、予備1、ロールバックアップ」
神舟20の帰還機としての使用を見送る判断は、即座に非常時手順の発動を意味しました。ここで中核となったのが、有人ミッションに備えて予備機を常時準備する「打ち上げ1、予備1、ロールバックアップ」戦略です。
今回の「救助役」として指名されたのが、もともとバックアップ資産として待機していた神舟22でした。計画は11月8日に加速し、通常30〜45日ほどかかる打ち上げ準備を、16日フローへ圧縮して11月25日の打ち上げを目標に設定しました。
16日フローはどう成立したか:並行作業と品質管理
時間短縮の要は、手順そのものを省略するのではなく、従来の「直列(順番)」中心の進め方を「並列(同時進行)」へ切り替えた点にありました。たとえば、ロケットの基段組み立て、脱出塔(打ち上げ中の緊急脱出用)組み立て、宇宙船とロケットの最終統合などを同時並行で進めたとされています。
さらに、11月は10件超の衛星打ち上げ計画がある繁忙期で、設備の取り合いも課題でした。試験棟を使用していた実践30号衛星の試験を、3交代制で5日から2日に圧縮するなど、施設運用も組み替えられました。
- 工程は短縮したが、試験項目そのものは削らない
- バックアップ機が「待機段階まで完了」していたため、最終試験を圧縮できた
- 並行作業の増加に合わせ、品質管理の密度を高めた
乗員の帰還は「神舟21」で:座席の再調整まで
同時に進められたのが、神舟20乗員の安全な地上帰還です。帰還は9日遅れとなりましたが、すでに宇宙ステーションにドッキングしていた神舟21を帰還機として使用する方針が取られました。
ここで現場的な難所になったのが「座席」です。宇宙飛行士の座席やパッドは個々に合わせて調整されるため、神舟21の乗員と協力して再構成。神舟20の乗員は、帰還機固有の操作について神舟21の乗員から訓練も受け、適応試験を行ったとされています。
11月14日、神舟20乗員は宇宙ステーションを離脱。帰還では、従来の5周回より短い3周回の迅速帰還軌道が初めて用いられ、同日16時40分に東風着陸場へ安全に着陸しました。
神舟22は「宇宙の救命艇+補給」の二役
神舟22は無人で打ち上げられましたが、役割は明確でした。宇宙ステーションにドッキングし、神舟21乗員の帰還機(救命艇)として待機すること。加えて、神舟ミッションとして過去最大級の上り貨物も搭載し、宇宙飛行士の食料(果物・野菜を含む)や、神舟20の窓損傷への対処に用いる専用装置も運んだとされています。
また、無人打ち上げであっても脱出塔を装着したのは、取り外しによる空力・質量変化が新たなリスクになり得るためでした。非常時対応では「やらないこと」を決める判断も、同じくらい重要になります。
「次の予備」も動いていた:ロールバックアップの意味
神舟22の打ち上げ準備が進む間も、バックアップ体制は次の段階へ移っていました。次の予備機となる神舟23と運搬ロケットが、最終組み立て・試験段階にあると報じられています。今回の出来事は、単発の対応ではなく、継続的に回る安全設計としてのバックアップ運用が前提になっていることを示しました。
今回の出来事が投げかけた問い
窓の亀裂という「部品レベル」の異常が、打ち上げ計画、施設運用、乗員訓練、帰還軌道の選択まで連鎖し、有人宇宙飛行の安全がいかに総合システムで支えられているかを浮かび上がらせました。宇宙ステーション運用が長期化するほど、微小デブリや微小隕石のような低頻度・高影響リスクへの備えは、各国・各機関にとっても共通課題になっていきそうです。
Reference(s):
cgtn.com








