月の裏側「SPA盆地」巨大衝突、マントルの揮発性元素を失わせた可能性—嫦娥6号試料で手がかり
月の裏側にある巨大クレーター「南極・エイトケン(SPA)盆地」を生んだ衝突が、月の深部(マントル)から揮発性元素を失わせ、裏側の火山活動の少なさにも関わった可能性が示されました。中国の研究チームが、嫦娥6号が採取した玄武岩の“同位体”分析から、衝突が月内部に残した痕跡を読み解いたとしています。
何が起きた?—PNAS掲載、嫦娥6号の玄武岩を分析
中国科学院・地質地球物理研究所の田恒慈(Tian Hengci)氏が率いる研究チームは、SPA盆地で採取された嫦娥6号の月面玄武岩に含まれるカリウム(K)の同位体組成を調べました。研究成果は、2026年1月13日(火)に米科学誌「Proceedings of the National Academy of Sciences(PNAS)」で公表されたとしています。
カギは「カリウム同位体」—衝突の高温が残す“署名”
カリウムは「中程度に揮発しやすい元素(moderately volatile elements)」の一つで、高温・高圧になりやすい大型衝突の環境では、蒸発(揮発)や分別が起こりやすいとされます。このため同位体の比率は、衝突時の温度・圧力・物質の由来などを推定する手がかりになり得ます。
観測された特徴:これまでの月試料より「重い」同位体比
チームによると、嫦娥6号の玄武岩は、アポロ計画由来の玄武岩や月隕石など、これまで報告されてきた月試料と比べて、カリウム同位体が有意に“重い”組成を示しました。
別の原因は?—宇宙線、マグマ分化、衝突体の混入を検討
研究では、同位体比を変えうる要因として、次の可能性が評価されたといいます。
- 長期の宇宙線照射
- マグマの分化(結晶化などによる成分変化)
- 衝突してきた天体(インパクター)由来物質の影響
ただし結論としては、これらの影響はいずれも同位体比を大きく動かすほどではない、という整理になったとしています。
研究が示すシナリオ:巨大衝突がマントルの揮発性を奪った
チームは、SPA盆地を形成したような超大規模の衝突が、月のマントルにおけるカリウム同位体組成そのものを変化させた可能性を示しました。衝突で生じる高温・高圧環境では、軽いカリウム同位体が優先的に失われ、残された物質の同位体比が相対的に“重く”なる、という説明です。
月の「表と裏の違い」にも接続—裏側の火山活動が少ない理由は?
研究はさらに、このような揮発性元素の枯渇が、マグマの生成や火山活動を抑える方向に働き、月の近側(地球に向いた側)と裏側で見られる火山活動の非対称に関与した可能性を示唆しています。
月面には無数の衝突痕が残りますが、「表面の地形」だけでなく、深部の化学的な性質まで衝突が変えうるのか——。今回の結果は、巨大衝突が月の内部進化に与えた影響を考えるうえで、同位体という“記録媒体”が役立つことを改めて印象づけます。
ポイント(読み切り)
- 嫦娥6号が採取したSPA盆地の玄武岩で、カリウム同位体が従来より重い特徴が見つかった
- 宇宙線照射・マグマ分化・衝突体混入の影響は小さいと整理
- SPA盆地形成級の巨大衝突が、月マントルの揮発性元素を失わせた可能性
- 揮発性の枯渇が、月の裏側でのマグマ生成・火山活動の抑制に結びつく示唆
Reference(s):
Giant impact on moon's far side led to volatile loss from lunar mantle
cgtn.com








