中国本土のFAST観測、謎の高速電波バーストに「連星起源」新証拠
宇宙から届く一瞬の電波フラッシュ「高速電波バースト(FRB)」の起源をめぐり、中国本土・貴州省の巨大電波望遠鏡FASTの長期監視データが、少なくとも一部のFRBが「連星系(2つの天体が互いに回る系)」で生まれる可能性を強く示しました。
FRBとは何か:ミリ秒の閃光に詰まった謎
FRBは、わずかミリ秒という短い時間だけ強烈に明るくなる電波現象です。2007年の発見以来、中性子星などの高密度天体が関与するさまざまなモデルが提案されてきましたが、決め手となる直接的な観測証拠は限られてきました。
特に「繰り返し型FRB」では、活動の周期性が連星起源を示唆する一方で、それを裏づける観測が長年の課題だったとされています。
鍵はFASTの“継続監視”と「ファラデー回転量(RM)」
研究チーム(中国科学院〈CAS〉の紫金山天文台〈PMO〉の研究者が主導)は、FASTの高い感度を生かし、繰り返し型のFRB 20220529(距離は約29億光年)を2022年6月から継続的に観測しました。成果は学術誌「Science」にオンライン掲載されたとされています。
注目した指標は「ファラデー回転量(RM)」です。電波が地球へ届くまでの経路にある、磁場を帯びたプラズマ(電離したガス)の性質を“透かして見る”ための手がかりで、研究チームはこれを「宇宙の磁場環境を測るプローブ」と位置づけています。
2023年12月の“急変”——2週間で戻った異常な磁場環境
報告によると、最初の18か月間はRMの変動は小幅でした。ところが2023年12月、RMが平均的な変動幅の約20倍に急上昇し、その後2週間ほどで通常の変動範囲に戻る現象が捉えられました。
短期間で「急上昇→回復」まで記録された点が特徴で、FRB研究でこの種の記録は初めてだと説明されています。
なぜ「連星系」だと説明しやすいのか
研究チームは、この急変を「発生源と地球を結ぶ視線方向に、濃く磁化したプラズマ雲が通過した」結果だと解釈しています。
そして、この振る舞いは、孤立した中性子星だけでは既存理論で説明が難しい一方、連星系なら次のようなシナリオで自然に起こり得るとしています。
- 伴星の激しい活動(恒星風など)が周囲環境を乱し、視線方向に濃いプラズマを作る
- 連星軌道の幾何学(見え方の変化)によって、短期的に“濃い領域”を横切る
米ウェストバージニア大学のダンカン・ロリマー教授は、この成果について「注目すべき結果」であり、繰り返し型FRBがどのように作動し、どんな天体が源なのか理解を進める応用の可能性に言及している、と伝えられています。
FASTが効いた理由:暗いFRBを“追い続けられる”感度
FRB 20220529は「本質的に暗い(intrinsically faint)」源で、多くのバーストは他施設では捉えにくいとされます。FAST運用・開発センターの孫景海副主任は、FASTの前例のない感度と高度なデータ処理が今回の観測を可能にしたと説明しています。
FASTは貴州のカルスト地形の天然の窪地に建設され、受信面積は標準的なサッカー場約30面分に相当。単一鏡として世界最大級の電波望遠鏡として、2020年1月に正式運用を開始し、2021年3月に世界へ公式開放されたとされています。
次の一手:FAST周辺にアンテナを増設するアップグレード計画
運用側によれば、FASTのアップグレード計画も進行中です。巨大望遠鏡の周囲に中口径アンテナを多数配置し、FASTを中心とした「合成開口(複数のアンテナを組み合わせて高い分解能を得る手法)」のアレイを構築する構想が示されています。
単一鏡で課題になりやすい「感度と分解能のトレードオフ」を越え、総合的な観測性能の飛躍を狙う設計だと説明されています。
“一度の異常”が開く観測の道:FRB研究は環境の時系列へ
FRBの正体をめぐる議論は、発生源そのもの(中性子星か、ブラックホール近傍か等)に目が向きがちです。ただ今回のポイントは、発生源の周辺環境が「時間とともにどう変わるか」を、RMという指標で追いかけられた点にあります。
紫金山天文台の施盛才研究員(CAS院士)は、今回の発見をFRB起源解明に向けた重要な前進と位置づけています。さらに、青海省徳令哈での15メートル級サブミリ波望遠鏡の建設や、南極でのテラヘルツ望遠鏡計画にも言及し、異なる周波数帯の観測を組み合わせて宇宙の謎に迫る構想が語られています。
2026年のいまも、FRBは「観測が増えるほど、問いも増える」分野の代表格です。今回のように、同じ天体を粘り強く見続けた末に現れた“短い異常”が、長年の仮説を現実に引き寄せる——その瞬間が、観測天文学の面白さを静かに示しています。
Reference(s):
China's radio telescope observations unravel origin of cosmic flashes
cgtn.com








