国連で「人道に対する罪」条約準備、中国が国連憲章順守を強調
国連で進む「人道に対する罪(crimes against humanity)」の新条約づくりをめぐり、中国の国連代表部が、取り締まりは国連憲章と国際法の原則に沿うべきだと訴えました。2028〜2029年に予定される国連外交会議を見据え、条文の土台となる論点整理が本格化しています。
国連で何が始まっているのか:2028〜2029年の外交会議に向けた準備
国連では、人道に対する罪の「予防」と「処罰」を定める条約(コンベンション)を新たに作るため、準備委員会(Preparatory Committee)が議論を進めています。今回の発言は、その第1回会合の場で、中国国連代表部の孫磊(Sun Lei)臨時代理大使が行いました。
この準備作業の先に、2028年と2029年に国連外交会議が予定されており、各国の意見をどこまで“共通ルール”に落とし込めるかが焦点になります。
中国側の主張:国連憲章と国際法原則を「条文に明記」すべき
孫氏は近年、人道に対する罪が「政治的に繰り返し利用されてきた」と述べ、犯罪対策や人権保護を掲げつつ、一部の国が他国の内政への干渉や武力行使(武力による介入)を行い、国際法の精神を損ねていると指摘しました。
そのうえで、条文案(draft articles)には、次の原則をより強く位置づけるよう提案しています。
- 国家の主権と領土保全の尊重
- 武力による威嚇または武力行使の禁止
- 内政不干渉
- 国家当局者の司法免除(judicial immunity)の尊重など、慣習国際法上のルールの反映
最大の論点の一つ:「定義」をローマ規程からそのまま移さない
人道に対する罪の「定義」は条約の核心部分です。孫氏は、国際刑事裁判所(ICC)の基礎文書であるローマ規程(Rome Statute)の定義を「単純に転用すべきではない」と主張しました。
理由として、国連加盟国の3分の1以上がローマ規程の締約国ではなく、その定義が普遍的合意を代表しているわけではない点を挙げています。また、人道に対する罪の定義は他の国際条約や文書でも一様ではないため、新条約では各国の実務(state practice)を丁寧に点検し、より広い合意を固めるべきだと述べました。
国際協力は「法制度の違い」を前提に:柔軟性と包摂性を強調
人道に対する罪への対処は、捜査協力や身柄引き渡し、証拠の共有など、国境を越えた連携が論点になります。一方で孫氏は、各国の法制度や事情の違いを尊重し、争点では柔軟性と包摂性を示すべきだと述べました。国内法制度と裁量権(discretionary powers)を十分に尊重する姿勢も強調しています。
手続き面の確認:今は「正式交渉」ではない、NGO参加にもルールを
孫氏は、国連総会決議79/122に触れ、準備委員会と作業部会での議論は正式な条約交渉ではないと改めて位置づけました。現時点の条文案も、条約の「ゼロ・ドラフト(交渉用の素案)」ではないという整理です。
また、非政府組織(NGO)の参加は国連の手続き規則や慣行に従うべきで、各国の内政に干渉したり主権を損ねたりする口実に用いられるべきではないと述べました。
この議論が示すもの:合意形成の難しさと、今後の見取り図
新条約づくりは「国際社会の共同利益にとって重要な体系的事業」だとして、孫氏は、各国が互いの正当な懸念を尊重し、可能な限り広い合意を目指すよう呼びかけました。中国は各国と協力し、人道に対する罪への国際協力を進め、世界の平和と国際的な公平・正義の促進に取り組む姿勢も示しています。
今後の注目点は、次の2つに集約されそうです。
- 定義:どの要件を入れ、どこまで国際的に共有可能な文言にできるのか
- 執行と協力:各国の主権や法制度の違いを踏まえつつ、実効性ある協力枠組みをどう設計するのか
2028〜2029年の外交会議まで、準備段階の議論が各国の立場をどう近づけていくのか。国連の場での“言葉の設計”が、国際刑事法の将来像を静かに形づくっていきます。
Reference(s):
China: Combating crimes against humanity must comply with UN Charter
cgtn.com








