中国の「統一全国市場」構想が加速:地域の壁を崩し、成長の土台を整える
2026年3月に閉幕した中国の「両会(全国人民代表大会・全国政治協商会議)」で、統一全国市場づくりが国内経済を支える重要政策として改めて強調されました。 世界の先行きが読みづらい中で、国内の取引ルールや物流・データ・資金などの流れを一本化し、企業活動の「やりやすさ」を底上げする狙いがあります。
統一全国市場とは何か:狙いは「予測可能なビジネス環境」
統一全国市場は、地域ごとに異なる規制や慣行を減らし、資源(人・モノ・カネ・技術・データ)が全国でよりスムーズに動くようにする取り組みです。政策の焦点は、次の5分野に整理されています。
- 市場制度・ルールの統一
- 市場インフラ(物流・交通・情報など)の連結性向上
- 生産要素(土地・労働・資本・技術・データ等)市場の統合
- 財・サービス市場の統一
- 公正で一貫した市場監督(規制執行)の確保
研究者の間では、全国でルールと監督の基準が揃うほど、企業は投資や研究開発の計画を立てやすくなり、生産拡大にも踏み切りやすい、という見方が示されています。
最初の関門は「ローカルルール」:参入障壁の撤廃が焦点
統一全国市場づくりで、特に「即効性がある」とされるのが市場ルールの統一です。これまで地域により、参入条件、規制基準、運用の差が企業の域外展開を難しくしてきました。公共調達で域外企業の参加が制限されたり、建設や新エネルギー車などの分野で参入障壁が設けられたりする事例も指摘されています。
2025年4月開始の全国キャンペーン:3.8万件点検、2,300超を見直し
こうした課題への対応として、中国当局は2025年4月に市場参入障壁の解消に向けた全国キャンペーンを開始しました。国家発展改革委員会(NDRC)などが、中古車取引、医薬品小売、建設、輸送など複数分野の制限を点検したとされます。
例として、ある県の企業が「県内登録企業のみ」を実質条件とする業者名簿を作り域外企業を排除していたケースでは、規制当局が名簿の撤廃を求めました。当局によれば、キャンペーン開始以降、全国で3万8,000件超の政策文書が点検され、法的根拠が乏しい、または不適切に参入を制限していた2,300超のルールが改定・廃止されたといいます。
「生産要素」が動くと何が変わる:土地・電力・データまで
統一全国市場のより深い狙いは、土地・労働・資本・技術・データといった生産要素の移動を妨げる分断をほどき、資源配分の効率を高めることです。政策としては、建設用地使用権の二次市場(譲渡・賃貸・抵当)の整備、動産担保の統一登録による資金調達の円滑化、研究施設の広域共有などが挙げられています。
また、炭素排出権や水使用権の全国取引市場づくり、産業標準と規制メカニズムの統一も進められています。
具体例1:河南省の土地改革、取得サイクルを約60%短縮
2025年、河南省では国有・集体所有の建設用地について、所有形態をまたいだ供給の取り組みが行われ、都市部・農村部の土地がより対等に市場に参加できる形を目指したとされます。結果として、企業の用地取得サイクルが約60%短縮されたという事例が紹介されています。
具体例2:青海のグリーン電力、初の広域融通で東北へ
電力分野でも広域取引が進み、青海省のグリーン電力1,876万kWhが、青海・北京・吉林の送電網運用の連携を通じて、東北地方に初めて届けられたといいます。地域をまたぐ取引が成立しやすくなるほど、エネルギー調達の選択肢も広がります。
効率化だけでは足りない:「過度な価格競争」への視線
地域の壁を下げると競争は活発になりますが、同時に「競争の質」も問われます。近年、中国では一部産業で過度な値下げ競争が強まり、「内巻(インボリューション)型競争」と呼ばれる現象として語られることがあります。当局は、健全な市場形成を損ねうる不公正競争として、抑制の必要性を前面に出し始めています。
2026年の政府活動報告では、独占禁止の執行強化、不公正競争の取り締まり、破壊的な価格競争への総合的対処が、統一全国市場の推進と並行して打ち出されました。政策手段としては、供給能力(キャパシティ)の調整、業界標準、価格面の法執行、品質監督などを組み合わせていく方向が示されています。
2026年に想定される監督強化:誘致優遇や補助金の透明性
また2026年は、投資誘致、税優遇、財政補助、公共調達などに関する地方政策が「公正競争の原則」に沿っているかどうか、監督が一段と強まる見通しだとされています。企業にとっては、短期の“特典”よりも、ルールの安定性と予見可能性が増すかが重要な論点になりそうです。
国際ビジネスの視点:不確実性の時代に「国内の安定」を厚くする
統一全国市場は、国内取引の摩擦を減らして内需の循環を強め、世界経済の変動を受け止めやすくする狙いがあります。同時に、規則や基準が揃えば、海外企業にとっても事業環境の見通しが立てやすくなり、機会が生まれやすい、という期待も語られています。
今後の注目点は、制度の統一が「現場の運用」まで浸透するか、そして公正競争の確保が、価格だけに依存しない技術革新や製品開発の流れにつながるかです。統一全国市場は、号令だけで完成する改革ではなく、行政の執行、企業の行動、競争政策が同時に噛み合って初めて輪郭が見えてくるタイプの政策とも言えます。
Reference(s):
cgtn.com








