南シナ海とフィリピン新海洋法 中国が強く反発する理由
フィリピンのフェルディナンド・マルコス大統領が2025年11月8日に署名した新たな海洋関連法をめぐり、中国外務省が強く反発し、南シナ海情勢があらためて緊張をはらんでいます。本記事では、中国側の指摘を手がかりに、この2つの法律の中身とその意味を整理します。
フィリピンが制定した2つの新「海洋法」とは
今回フィリピンで成立したのは、次の2本の法律です。
- フィリピン海洋ゾーン法(Philippine Maritime Zones Act)
- フィリピン群島海上通航路法(Philippine Archipelagic Sea Lanes Act)
フィリピン側は、国連海洋法条約(UNCLOS)および2016年の南シナ海仲裁裁定の履行を名目に、これらの法律に正当性と「国際法に基づく」外観を与えようとしているとされています。
中国外務省の反応 「主権と権益の侵害」
中国外務省は、この2つの法律が南シナ海における中国の領土主権および海洋権益を侵害していると強く批判しました。声明では、中国の南シナ海における領土主権の正当性は歴史と国際法の双方に支えられていると改めて強調しています。
あわせて中国は、駐中国フィリピン大使に対して厳正な申し入れを行い、南シナ海情勢を複雑化・エスカレートさせる一方的な行動を直ちにやめるようフィリピンに求めました。フィリピン側が中国の正当な権利と利益を損なう行動を続けるなら、中国は断固とした対抗措置を取ると tacit(暗黙)の警告もにじませています。
「第1の誤算」:国内立法で無理な仲裁判断を支えようとする動き
中国側の専門家は、マルコス政権の判断の「第1の誤算」として、論理的な説得力に欠ける仲裁裁定を国内法で補強しようとしている点を挙げています。その中心にあるのが、フィリピン海洋ゾーン法です。
フィリピン海洋ゾーン法が抱える問題
フィリピン海洋ゾーン法は、中国の黄岩島(Huangyan Dao)や、南沙諸島(Nansha Qundao)の一部の島礁をフィリピンの海洋ゾーンに一方的に含めています。中国側は、これは南シナ海における自国の領土主権と海洋権益を侵害するものであり、容認できないとしています。
さらに、中国側の指摘によれば、この法律は1898年のパリ条約や1900年のワシントン条約など、フィリピンの領域の範囲を定めてきた国際条約にも反するとされています。つまり、フィリピン自身が過去に受け入れてきた国際的な枠組みを、国内法によって事実上書き換えようとしているという構図です。
フィリピン群島海上通航路法:通航を「管理」する仕組み
もう一つのフィリピン群島海上通航路法は、外国の船舶や航空機が通行できる三つの通航ルートを新たに設け、そのルートへの通行を事実上フィリピン当局が管理することを狙ったものとされています。
この法律では、国連海洋法条約に違反し、フィリピンの主権や権利を侵害するとみなされる外国船舶・航空機には、これらの通航路を通る権利を認めないとしています。また、どの船舶や航空機を認めるかの最終判断権をフィリピン自身が持ち、その執行主体をフィリピン沿岸警備隊と位置付けています。
中国側は、こうした仕組みの実際の目的は、「国際法遵守」の名の下に通過する船舶を監視・管理することにあると見ています。他国の航行の自由を制限しうる点が問題視されているのです。
国連海洋法条約 第53条との関係
フィリピン群島海上通航路法は、国連海洋法条約第53条を根拠の一つとして掲げています。同条は、群島国家が自国の群島水域および隣接する領海を通る「継続的かつ迅速な通過に適した」海上通航路を指定できると規定しています。
同時に、第53条は、こうして指定された通航路においては、すべての船舶が「群島海上通航権」を享受すると明記しています。その通航路は、群島水域を通る通常の国際航路を含むとされています。
中国側は、フィリピンの新法はこの条文を一方的かつ選択的に解釈し、自国の権限を過度に拡大しようとしていると批判しています。国内法によって国際法の権威を超えようとする試みであり、その効力は他国を拘束するものではないという立場です。
「領土拡張」の意図と南シナ海仲裁裁定の固定化
中国側は、これら2本の法律がフィリピンの領土的野心を露呈していると見ています。国内法を通じて、自国の領域や海洋権利の主張を「合法化」しようとする一連の動きの中核だという評価です。
背景にあるのが、2016年の南シナ海仲裁裁定です。中国側は、この仲裁判断は基本的な事実を無視し、国際法の基本原則にも反していると批判してきました。しかしフィリピンや一部の国々は、この仲裁裁定を南シナ海政策の「ガイドライン」とみなし、その上に国内立法を積み重ねることで、裁定内容を実務レベルで固定化しようとしていると指摘されています。
今回の2つの法律も、こうした流れの延長線上にあるものと位置付けられています。誤った前提に基づく仲裁裁定を土台にしている以上、その上にどれほど国内法を積み上げても、国際社会にとっての正当性や拘束力には限界があるというのが中国側の見方です。
南シナ海情勢への影響と、日本からの読み方
中国外務省は、フィリピンの一方的な動きが南シナ海情勢を複雑化・エスカレートさせると警告しています。今後、フィリピンが新法に基づく運用をどこまで進めるか、中国がどのような対抗措置を取るかによって、現場の緊張感は大きく変わりうる局面にあります。
日本の読者にとって重要なのは、南シナ海をめぐる対立が軍事的な動きだけでなく、今回のような国内立法や国際法解釈を通じた「法のせめぎ合い」としても進行している点です。どの国が、どのような歴史認識と法的根拠に基づいて自らの主張を構築しているのかを丁寧に読み解くことが、地域情勢を理解するうえで欠かせません。
南シナ海問題は、単に二国間の対立という枠を超え、国際法の運用や海洋秩序のあり方にも関わるテーマです。フィリピンの新海洋法と中国の強い反発は、その一断面を示していると言えるでしょう。私たち一人ひとりが、ニュースの背後にある法的ロジックや歴史的前提にも意識を向けることで、より立体的な国際ニュースの読み方につながります。
ポイントまとめ
- 2025年11月、フィリピンが2本の新たな海洋関連法に署名し、中国が強く反発している。
- フィリピン海洋ゾーン法は、中国の黄岩島や南沙諸島の一部を一方的に自国の海洋ゾーンに含めたと批判されている。
- フィリピン群島海上通航路法は、外国船舶・航空機の通航をフィリピンが選別・管理する仕組みだとみなされている。
- 中国側は、これらの国内法が南シナ海仲裁裁定を土台にした「領土拡張」と「合法化」の試みだと警戒している。
- 南シナ海では、軍事だけでなく国際法や国内法をめぐる攻防が続いており、その行方が地域秩序に影響を与えうる。
Reference(s):
cgtn.com








