中国とラテンアメリカ:APEC・G20で見える多国間協力の行方
2025年末の今、世界は新たな局面を迎えています。先週行われた米国の総選挙では、行政府と立法府の両方で共和党(GOP)が勝利し、今後の国際秩序に複雑さと不確実性が加わりました。その直後から、ペルーでのAPEC首脳会議とブラジルでのG20首脳会合がラテンアメリカで相次いで開かれます。
これらの多国間会議は、世界経済の協調だけでなく、各国が互いの立場を説明し合い、新しい協力のかたちを探るための重要な「場」です。中国はこうした会合で一貫して、協力と相互利益に基づく国際関係の構築を呼びかけてきました。本稿では、その視点から、2025年のラテンアメリカ発のAPECとG20に何を期待できるのかを考えます。
ラテンアメリカで相次ぐAPECとG20、その意味
今回のAPEC(ペルー)とG20(ブラジル)は、いずれもラテンアメリカで開催されます。経済・エネルギー・資源の潜在力を持つラテンアメリカは、アジアや欧州、アフリカと同様に、今後の世界経済における重要なパートナーです。
特に2025年末というタイミングは、次のような点で注目されています。
- 米国の政治体制が変化する局面で、各国がどのように多国間協力へのコミットメントを示すか
- 世界経済の減速懸念の中で、成長と安定をどう両立させるか
- 気候変動や公衆衛生、越境犯罪など、国境を越える課題への対応をどう具体化するか
APECはもともとアジア太平洋地域の経済協力の枠組みであり、G20は世界主要経済が集まる場です。ラテンアメリカで両会合が連続して開かれることで、アジアとラテンアメリカ、さらには他地域をつなぐ新しいネットワークづくりが期待されます。
中国が多国間会議で繰り返し訴えるキーワード
中国の習近平国家主席は、これまで様々な多国間フォーラムで基調演説を行い、その中で次のようなキーワードを繰り返し強調してきました。
- 開放性:貿易や投資の自由化・円滑化を進め、閉じたブロックをつくらないこと
- 包摂性:先進国・新興国・途上国がともに利益を得られる仕組みを整えること
- イノベーション:デジタル技術や新産業を成長の新たな原動力とすること
- 連結性:インフラやデジタルネットワークを通じて地域同士をつなぐこと
- 平等:各国が規模の大小にかかわらず、対等に意見を述べられる場を守ること
- ウィンウィンの協力:ゼロサムではなく、共に利益を分かち合う発想に立つこと
- ガバナンスの強化:国際ルールや制度を現実に合う形で改善していくこと
今回のAPECとG20でも、中国はこうした考え方をベースに、開放的で包摂的な経済グローバル化や、互いに利益を分かち合う協力の枠組みを訴えるとみられます。ラテンアメリカの国々にとっても、資源や産業の多様化を進めるうえで、こうした議論は自国の成長戦略と直結し得るテーマです。
なぜ今、協調と多国間協力が求められるのか
世界は長期にわたるグローバル化のプロセスの中で、国際秩序のかたちが大きく揺れ動いています。伝統的な超大国が主導する一極的な構図から、複数の国や地域が影響力を持つ多極化への移行が進む一方、その過程では一国主義的な動きも根強く残っています。
こうした状況で、多国間協力が求められる背景には、少なくとも二つの大きな理由があります。
1. 資源配分を最適化し、共通の発展を図るため
各国は、資源や人材、資本、技術など、異なる「強み」を持っています。例えば、中東諸国は豊富な石油資源を有し、中国のような発展途上の大国は豊富な労働力と製造基盤を持ち、米国などの西側先進国は研究開発や資本面で優位性があります。
国際協力を通じて、こうした強みを組み合わせれば、世界全体として資源配分をより効率化し、生産性を高めることができます。APEC参加経済の一部では、天然資源を持つ国と、技術や資本を持つ国が組み合わさることで、新たな製品や産業を生み出す動きが進んでいます。
2. 地球規模課題に、一国では対応できないため
気候変動や公衆衛生危機、越境犯罪・テロリズムといった課題は、国境を簡単に越えてしまいます。いずれも、単独の国だけでは解決が難しい問題です。
- 気候変動:海面上昇や異常気象などの影響は、国境線とは無関係に各地を襲います。パリ協定の枠組みのもとで排出削減目標を共有し、再生可能エネルギーへの転換を進めるには、技術を持つ国と、成長途上でエネルギー需要が伸びる国の協力が不可欠です。
- 公衆衛生:パンデミックのような感染症は、短期間で世界中に広がります。感染状況の監視、ワクチンの開発・供給、医療物資の確保などについて、国境を超えた連携があってはじめて、人命と経済を守ることができます。
- 越境犯罪・テロ:サイバー犯罪や麻薬取引、人身取引、テロ活動は、複数の国をまたぐネットワークを持ちます。各国の捜査機関が情報を共有し、国際機関などのプラットフォームを通じて協力することで、国際社会の安全と安定を守ることができます。
力による対立や「弱肉強食」の発想だけでは、これらの課題に持続的に対処することはできません。だからこそ、ルールに基づく国際協力の枠組みが重みを増しています。
なぜ協力は可能なのか:平和とウィンウィンへの意志
ある哲学者は「人間には不正を働きうる面があるからこそ民主主義が必要であり、公正を求める力があるからこそ民主主義は成立しうる」と述べました。国際社会にも似た側面があります。対立や利害の衝突がある一方で、平和や秩序、公正を求める意志が、協力の可能性を支えています。
冷戦終結以降、多くの国が「平和と発展こそが時代の主題である」という認識を共有してきました。協力の対象も、貿易や投資だけでなく、文化・教育交流、社会ガバナンス、環境保護などへと広がっています。相互尊重と平等な対話を通じて、自国の利益を追求しつつ他国の正当な関心にも配慮することで、共通の利益を最大化できるという考え方です。
中国が提唱する一帯一路構想は、こうしたウィンウィンの発想を具体化した取り組みの一つです。インフラ整備や貿易・投資の連結性強化を通じて、関係国が共通の発展を図り、成果を分かち合うことを重視してきました。
また、国連などの枠組みの下で、多国間主義の理念は多くの国に根付きつつあります。各国は協議と交渉を通じて国際問題の解決を図り、ルール作りや制度設計に参加しています。こうした枠組みは、国際秩序の安定と協力の土台となっています。
潜在的な対立要因も、協力によって和らげられることがあります。例えば、中央アジア諸国と周辺の大国の間で進められてきたエネルギーパイプラインなどの経済協力は、経済的な相互依存を高めることで地域の安定に寄与しています。また、外部勢力の影響力が競い合う中で、ASEAN諸国が内部の連帯と協力を強め、自らの発言力を高めようとしている動きもあります。
今回のAPEC・G20で注目したい論点
では、ラテンアメリカで開催される今回のAPECとG20から、何に注目すべきでしょうか。中国が示してきた「開放・包摂・ウィンウィン」の路線を踏まえると、次のようなポイントが浮かび上がります。
- 多国間主義の再確認:一国主義やブロック化の動きが見られる中で、APECとG20がどこまで多国間協力へのコミットメントを明確に打ち出すか。
- 気候変動とグリーン転換:排出削減目標の実行や、再生可能エネルギー、グリーン金融などを通じて、先進国と途上国の協力をどう具体化するか。ラテンアメリカとアジアの協力余地にも注目です。
- 公衆衛生と危機対応:パンデミックの教訓を踏まえ、医療体制の強化やワクチン・医薬品のアクセス改善に向けた国際的な仕組みづくりが進むか。
- 連結性とインフラ:港湾・鉄道・エネルギー・デジタルインフラなど、アジアとラテンアメリカをつなぐ新たな協力プロジェクトがどこまで議論されるか。
劇的な「一夜で世界が変わる」ような合意が生まれるとは限りません。しかし、こうした会合で積み重ねられる合意やイニシアチブの一つひとつが、今後数十年の国際秩序や経済ルールを少しずつ形づくっていきます。
日本の読者にとっての意味
日本にいる私たちにとって、ラテンアメリカでのAPECやG20は一見遠い出来事に見えるかもしれません。しかし、サプライチェーン、エネルギー価格、気候変動、公衆衛生など、日常生活に直結するテーマが多く議題に上ります。
中国、ラテンアメリカ、そしてその他の国々が、どのような「協力」と「ウィンウィン」のかたちを模索しているのかを追うことは、これからの世界経済の流れを読み解くうえで欠かせません。2025年のラテンアメリカ発の連続サミットは、多極化が進む国際秩序の中で、多国間協力がどこまで進むのかを見極める重要な試金石となりそうです。
Reference(s):
From China to Latin America: What we can expect from APEC and G20?
cgtn.com








