APEC2024ペルー会議:地政学リスク下の成長ビジョンと中国とのFTA
2024年11月にペルーで開かれたアジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議(APEC 2024)は、地政学的な緊張と経済の不透明感が続く中、アジア太平洋の成長戦略とペルー自身の経済の行方を左右する重要な場となりました。本記事では、そのビジョンと狙いを日本語で整理します。
ペルーが3度目のAPEC開催国に
ペルーがAPEC経済協力会議の首脳会議を主催したのは、2008年、2016年に続き2024年が3回目です。APECは、世界で最もダイナミックなアジア太平洋地域のエコノミーを結びつける、多国間の経済・分野別協力の中核的な枠組みとして機能してきました。
ペルーにとって、APEC首脳会議は、世界の経済リーダーと直接向き合うことができる最も権威ある舞台です。地域対話や経験の共有を通じて、安定的で平和な経済環境を維持しつつ、アジア太平洋での存在感を高める狙いがあります。
過去35年間、APECは貿易と投資の促進に重要な役割を果たしてきましたが、ペルーはこの流れを継続するだけでなく、デジタル経済の統合、グリーンエネルギーへの移行、包摂的で持続可能な成長といった新たな課題を前面に押し出そうとしました。
コンセンサス復活と包摂的成長へのこだわり
ペルーの議長国としての大きな成果の一つは、合意形成が難しかった時期を経て、フォーラム内で再びコンセンサスを回復させたことです。これまでに、10本の閣僚声明と5本の技術・政策文書からなる計15の成果文書が全会一致で採択されました。
それらのテーマには、障害のある人々の経済参加、女性と貿易、低排出水素の開発、サステナブルファイナンス(持続可能な金融)、アジア太平洋におけるエネルギー移行などが含まれています。いずれも、成長と環境、そして社会の包摂性をどう両立させるかという共通の問いにつながっています。
2024年11月10〜16日のAPEC首脳会議では、さらに4本の新たな閣僚声明の採択が見込まれており、その中心となるのが「世界のインフォーマル経済を公式経済へ移行させるためのロードマップ」を示す首脳宣言でした。雇用の安定や税収の確保だけでなく、社会保障へのアクセスなど、市民生活への影響が大きいテーマです。
APECをテコにしたペルー国内経済の底上げ
APEC 2024の開催は、数千人規模の参加者がもたらす直接的な経済効果に加え、ペルーが自国の投資機会を世界にアピールする絶好の機会となりました。ペルー政府は、マクロ経済の安定性や明確な法制度を示すことで、アジア太平洋と世界に向けて「信頼できるパートナー」であることを再確認してもらう狙いでした。
首脳会議や関連イベントには、次のような規模の参加が見込まれていました。
- 首脳会議に約5,000人の代表団
- APEC CEOサミットに約1,200人の経営者・リーダー
- 取材にあたる約2,500人のジャーナリスト
これほど多くの経済・メディア関係者が一堂に会することで、ペルーの投資ポテンシャルやビジネス環境を広く発信できる効果が期待されました。
輸出構造と中小企業への追い風
すでにAPEC参加エコノミーは、ペルー経済にとって不可欠な市場となっています。2023年には、APEC向け輸出がペルーの全輸出の68.5%を占めました。1998年のAPEC加盟以降、ペルーのAPEC向け輸出額は14.7倍に拡大しており、同フォーラムの重要性が数字にも表れています。
さらに注目すべきは、APEC向けに輸出するペルー企業の7割超がマイクロ企業や中小企業であることです。アジア太平洋は、こうした企業にとって地域・世界のサプライチェーンに参加し、付加価値の高いビジネスへと成長していくための「チャンスの場」となっています。
中国とのFTA改定が示すメッセージ
APEC 2024を通じてペルー経済を後押しする象徴的な案件とされたのが、中国との自由貿易協定(FTA)の改定です。習近平国家主席のペルー訪問に合わせて署名される予定とされたこの改定FTAは、次のような分野を新たに取り込むことが意図されていました。
- グローバルなサプライチェーンの円滑化
- 環境保護と持続可能性に関するルール
- 電子商取引(eコマース)に関する規定
これにより、取引量の拡大だけでなく、従来は鉱物資源に偏りがちだった輸出構造を、多角化していくことが期待されています。具体的には、農産物や高付加価値の水産物など、「非伝統的」分野の輸出拡大につながる可能性が指摘されています。
ペルーにとって、中国との関係強化は、アジア太平洋の成長を自国の発展にどう取り込むかという戦略の一部であり、APECという多国間の枠組みを活用しながら、二国間の経済連携をアップデートしていく動きといえます。
2025年の視点:APEC 2024が投げかけた課題
2025年の今、ペルーでのAPEC 2024が掲げたビジョンは、引き続きアジア太平洋の議論に影響を与えています。特に重要な論点として、次のような問いが浮かび上がります。
- デジタル経済のルール整備とデータ流通の促進は、中小企業や新興国にも利益をもたらす形で進んでいるか。
- グリーンエネルギーへの移行を進めるための資金と技術は、地域全体でどのように共有されるのか。
- 障害のある人々や女性、零細企業など、従来取り残されがちだった人々を経済成長の担い手としてどう包摂していくのか。
- ペルーと中国のFTA改定に象徴されるような貿易ルールのアップデートが、ラテンアメリカとアジア太平洋のサプライチェーン統合をどこまで深めていくのか。
日本の読者にとっても、APECでのこうした議論は、サプライチェーン、物価、雇用など、日々の生活に間接的な影響を与えるテーマです。ペルーでのAPEC 2024は、アジア太平洋の経済秩序の中で、ラテンアメリカがどのような役割を果たそうとしているのかを考える上で、今も重要な手がかりとなっています。
Reference(s):
APEC 2024 in Peru: A vision of opportunity amid geopolitical shifts
cgtn.com








