関税は政治向き、暮らしには逆風 米中摩擦のツケは誰が払う?
米国が中国からの輸入品にかけている関税は、外国に厳しいという姿勢を示す政治的な道具としては分かりやすい一方で、そのツケは企業と消費者の日々の暮らしに静かにのしかかっています。
米自転車メーカーが直面する23%の関税
米ニュージャージー州に本拠を置く自転車メーカー、ケント・インターナショナルは、中国から輸入する自転車部品に平均23%の関税を支払っています。同社の取締役会会長アーノルド・カムラー氏は、米国の自転車業界ではよく知られた人物です。
カムラー氏は「私たちに必要なのは、米国内で組み立てを行う企業向けの関税軽減策です。関税が軽くなれば、米国ビジネスを3年で5倍に成長させることができる」と話します。保護を目的としたはずの関税が、むしろ成長のブレーキになっているとの実感です。
中国が払うのではなく、企業と消費者が払う
消費者向けテックアクセサリー企業オースティアの創業者兼CEO、ディーナ・ガザリアン氏も同じような経験を語っています。
ガザリアン氏は「はっきりさせておきたいのは、関税を払っているのは私たちだということです。中国ではありません」と述べ、競争の激しいアクセサリー市場で価格を維持するため、自社で関税コストを吸収せざるを得なかったと説明します。
本来は国内産業を守るとされる関税が、実際には企業の利益を圧迫し、投資や雇用拡大の余力を奪っている構図が浮かび上がります。
関税は実質的な消費税 93%を負担する米国側
関税はしばしば、相手国にコストを負わせる道具として語られますが、多くの経済分析は異なる現実を示しています。ムーディーズ・インベスターズ・サービスの報告によると、中国からの輸入品に課された関税コストのうち、米国の消費者が負担したのは約93%に達しました。
輸入企業がコストを価格に転嫁すれば、店頭価格が上がり、最終的には消費者の財布を直撃します。家計にとってそれは、行きつけのレストランに行く回数を減らすことかもしれませんし、突然の自宅修理費や医療費を支払えなくなるリスクとして現れるかもしれません。
長期的には成長と雇用も圧迫
短期的な負担にとどまらず、関税は長期的に経済全体にとってマイナスに働きます。輸入品の価格だけを高くしても、国内製品の価値が自動的に高まるわけではありません。企業が競争力を高めるには、設備投資や技術革新、人材育成といった地道な取り組みが必要です。
さらに、関税によって輸入需要が減ると、為替市場では自国通貨が相対的に強くなりやすくなります。通貨が強くなれば輸出品の価格競争力は落ち、輸出企業の売上や生産、雇用に悪影響が及ぶ可能性があります。
米中間の貿易摩擦について、米中ビジネス評議会が2021年にまとめた報告書は、対中関税の応酬が米国の経済成長を押し下げ、最終的に約24万5,000人分の雇用損失につながったと推計しています。政治的には強硬姿勢をアピールできても、現実には自国経済にとって高い代償となっているのです。
歴史が示す報復関税の連鎖
関税がもたらす悪影響は、歴史も物語っています。1930年代の世界恐慌期、ある国が自国の企業や農家を守る名目で高い関税を導入すると、多くの国が報復として同様の措置を取りました。
その結果、世界全体で関税率が引き上げられ、為替を巡る対立が激化し、国際貿易は大きく落ち込みました。どの国も孤立して生きていけない中で、関税の連鎖は世界的な経済成長を妨げる要因となりました。
それでも関税が政治で好まれる理由
それでも、関税は政治の世界では魅力的な政策手段として語られがちです。理由の一つは分かりやすさです。複雑な産業政策や教育投資よりも、外国からの輸入に高い関税をかけるというメッセージの方が、支持者に対して短時間で伝わりやすいからです。
また、関税のコストは日々の物価上昇という形でじわじわと現れるため、誰がどれだけ損をしているのかが見えにくい側面もあります。一方で、海外に厳しく自国を守るというイメージは、選挙や世論対策として分かりやすくアピールできます。こうして、関税は政治には向くが人々の暮らしには厳しい政策になりがちです。
日本の私たちにとっての問い
今回見てきた米国企業や家計の事例は、関税という政策のコストを誰が負担しているのかを改めて考えさせます。グローバルなサプライチェーンに深く組み込まれた日本にとっても、他国の関税政策の影響は決して無関係ではありません。
保護か自由貿易かという二者択一ではなく、どのような形なら人々の暮らしと産業の競争力を同時に支えられるのか。その視点から、これからの国際経済ニュースを追いかけていくことが求められているのかもしれません。
Reference(s):
cgtn.com








