COP29バクーで問われる気候の不正義 パリ協定と損失と損害を読む
アゼルバイジャンの首都バクーで開かれている国連気候変動枠組み条約第29回締約国会議(COP29)では、開発途上国が直面する「気候の不正義(クライメート・インジャスティス)」が大きな焦点になっています。温室効果ガス排出への寄与が小さいにもかかわらず、最も深刻な被害を受けている国々をどう支えるのかが、国際ニュースの中心テーマになっています。
本記事では、パリ協定の損失と損害条項や「共通だが差異ある責任」の考え方、各国の自主的削減目標(NDC)と透明性の仕組み、そして今年のグローバル・ストックテイクまで、現在の議論の核心を整理します。
バクーCOP29で浮かび上がる「気候の不正義」
現在の気候危機では、歴史的な温室効果ガス排出が少ない開発途上国ほど、洪水や干ばつ、インフラ破壊、生態系の崩壊など、大きな損失と損害に直面しています。しかし、こうした国々には被害を復旧し、将来のリスクを減らすための資金や技術が十分にありません。
この不公平さに対応するため、パリ協定には「損失と損害(ロス&ダメージ)」に関する条項が設けられ、取り返しのつかない被害を受けた国に対して、補償や支援を行う枠組みが位置づけられています。バクーでのCOP29は、まさにこの損失と損害をめぐる実際の資金支援をどう具体化するかが問われている場でもあります。
「共通だが差異ある責任」と満たされない資金約束
気候変動交渉の基本にあるのが「共通だが差異ある責任」という原則です。地球温暖化への対処はすべての国の共通課題ですが、歴史的に多く排出してきた国と、ほとんど排出してこなかった国とでは、負うべき責任と能力が違うという考え方です。
そのため開発途上国は、排出量が多く所得水準も高い国に対し、より大きな資金的・技術的支援を求めてきました。パリ協定の下では、先進国などが毎年1000億ドル規模の気候資金を動員するという約束が繰り返し確認されていますが、その実現はこれまで一貫して不十分なままです。
京都議定書は、一部の国に法的拘束力のある削減目標を課すことで、この格差に対応しようとしました。しかし、各国の国内事情や経済利益と国際的な気候目標をうまく両立できず、期待されたほどの成果を上げられませんでした。この経験は、どうすれば各国の利害を調整しながら、より実効性のある枠組みを作れるのかという問いを、現在の交渉に突きつけています。
パリ協定とNDC:透明性がつくる「競い合う協力」
こうした反省を踏まえて設計されたのが、パリ協定の透明性の仕組みと各国が提出するNDC(国が決定する貢献)です。パリ協定の枠組みは、罰則で縛るのではなく、情報公開を通じて「守らざるを得ない」環境をつくろうとしています。
透明性のルールとNDCには、少なくとも二つの重要な役割があります。
- 各国の排出削減や支援の努力を「見える化」し、国際社会が互いの取り組みを評価できるようにすること。
- その可視化によって、各国が自国のイメージや国際的な信頼を意識し、より高い目標を掲げやすくすること。
他国からも国内世論からも「自分たちの約束がどう見られているのか」が常にチェックされることで、各国は次のNDCで一歩踏み込んだ目標を出そうとします。パリ協定の法的枠組みは、処罰ではなく、こうした相互監視と名誉のプレッシャーを通じて協力を強めていく発想に立っています。
中国の事例:透明性が国内外の行動を後押し
現在のパリ協定体制のもとで、中国は最新のNDCで前向きな姿勢を示していると評価されています。スリランカの国際開発団体による一帯一路関連の研究では、中国東部の江西省で持続可能な発展の道筋を検討し、その過程でNDCに基づく取り組みの進展が確認されたとされています。
こうした具体的な事例は、透明性の高い報告が国内の政策改善と国際協力の両方を支えることを示しています。各国がそれぞれの地域で実践例を積み重ね、その内容を共有していくことが、世界全体の排出削減と適応策を底上げしていく鍵になります。
グローバル・ストックテイク:世界全体で進捗を測る
今年行われているグローバル・ストックテイクは、パリ協定の実施状況を定期的に振り返り、世界全体として1.5度目標にどこまで近づいているのかを測るプロセスです。個々の国の努力だけでなく、全体としての軌道を確認できる点が特徴です。
この仕組みによって、各国は自国のNDCが世界全体の目標に照らして十分かどうかを見直すことができます。同時に、どの分野で行動の加速が必要か、どの国や地域で支援が特に求められているかが浮き彫りになります。
グローバル・ストックテイクの結果は、単なる成績表ではありません。各国が次のNDCを引き上げるきっかけであり、損失と損害を含む資金支援の議論を具体化するための出発点でもあります。段階的に目標と行動を更新していくこの仕組みこそが、パリ協定を「生きた」枠組みに保つ法的な安全装置になっています。
約束と現実のギャップをどう埋めるか
バクーで進むCOP29の議論は、気候変動そのものだけでなく、国際社会の信頼性と公正さを問う場でもあります。損失と損害への実効的な支援、1000億ドルの資金約束の履行、透明性にもとづくNDCの強化──これらがどこまで前進するかで、開発途上国と先進国の信頼関係は大きく左右されます。
気候の不正義を是正することは、特定の国や地域の利益ではなく、地球社会全体の安定につながる課題です。私たち一人ひとりにとっても、どのようなルールと仕組みなら、公平で持続可能な将来をつくれるのかを考えるきっかけとして、COP29の行方を見つめることが求められています。
Reference(s):
cgtn.com







