APECペルー会合:アジア太平洋の未来を左右する「開放性」と「包摂性」
今週、アジア太平洋の首脳たちがペルーに集まり、APEC首脳会議で「Empower, Include, Grow(力を与え、包摂し、ともに成長する)」というテーマの下、開放的で包摂的な経済協力のあり方を議論しています。本記事では、このAPEC会合の背景にある「開放性」と「包摂性」が、なぜこれからのアジア太平洋協力のカギになるのかを整理します。
数字で見るAPEC経済圏:アジア太平洋ミラクルの30年
APECは、アジア太平洋地域の経済協力を話し合う重要なフォーラムです。APEC地域は、世界人口の約40%、世界貿易のほぼ50%、世界の国内総生産(GDP)の約60%を占めるとされています。世界最大級の経済圏が集まる場と言ってよいでしょう。
過去30年以上にわたり、この地域は「アジア太平洋の奇跡(Asia-Pacific miracle)」と呼ばれる成長を遂げてきました。具体的には、次のような変化が起きています。
- 実質GDPは1989年の約19兆ドルから、2023年には64兆ドル超へと拡大
- 平均関税率は1989年の17%から、2021年には5.3%まで低下
こうした数字は、貿易と投資の自由化・円滑化がもたらした恩恵の大きさを示しています。アジア太平洋地域が世界経済の成長エンジンとみなされる背景には、APECを通じた長年の協力の積み重ねがあります。
「開放性」と「APECファミリー精神」が支えてきたもの
こうした成果の土台には、APECメンバーが大切にしてきた開放性と「APECファミリー精神」があります。過去のいわゆる「黄金の30年」の間に、APEC経済圏の市場は次のように変化してきました。
- 貿易・投資の障壁が大きく引き下げられた
- 非関税障壁が段階的に取り除かれてきた
- 市場の透明性が改善し、企業にとって見通しが立てやすくなった
APECは、拘束力のあるルールを交渉する場ではなく、自主性とコンセンサスに基づく協力の場です。それでも、このプロセスで生まれたアイデアや経験が、域内や複数国・地域にまたがる自由貿易の取り組みに影響を与えてきました。
また、定期的に開かれるAPEC首脳会議は、各メンバーの指導者が顔を合わせ、地域や世界が直面する課題に協力して向き合うための重要な対話の場となってきました。1993年の第1回首脳会議では、開放性とパートナーシップの精神が強調されましたが、そのメッセージは2025年の今もなお、アジア太平洋において有効な指針となっています。
ペルーで3回目のAPEC首脳会議:テーマは「Empower, Include, Grow」
2025年12月現在、APECは新たな転換点に立っています。今週、ペルーで3回目となるAPEC首脳会議が開かれ、持続可能で包摂的な成長と、より広く、より包摂的なアジア太平洋の経済統合が主要な議題となっています。
今回のテーマであるEmpower, Include, Growは、三つの方向性を示しています。
- Empower(力を与える):技術や資金、制度面での支援を通じて、より多くの人と企業が成長の機会を得られるようにする
- Include(包摂する):地域内の多様な経済・社会グループが取り残されないよう、格差や不平等に配慮した政策を進める
- Grow(成長する):持続可能性を重視しながら、域内全体としての成長を追求する
このテーマは、成長のスピードだけでなく、その質と分配に目を向けるという、近年のアジア太平洋経済協力の流れを象徴しています。
加速する地政学リスクと経済の分断リスク
一方で、世界では「100年に一度」とも言われる規模の変化が加速し、アジア太平洋協力にも影を落としています。大国間の競争、地政学的な対立、ブロック化の動きは、国際協力と相互信頼を揺さぶり、地域の安全保障と経済発展に新たな不確実性をもたらしています。
経済の領域でも、政治や安全保障の論理が強く持ち込まれる傾向が強まっていると指摘されます。
- 経済問題の政治化・安全保障化
- 一方的な制裁や輸出規制の増加
- 技術分野での障壁の拡大
- ゼロサム思考に基づく「隣人を貧しくする」ような政策
- 限られた範囲だけを守る「小さな庭、高いフェンス」とも形容される戦略
こうした動きは、開放的で互恵的なアジア太平洋協力を難しくし、すでに弱さが指摘されている世界経済にとっても逆風となっています。
これからのアジア太平洋協力に求められるもの
APECは、これまでも拘束力のあるルールではなく、自主性と信頼に支えられた協力の枠組みとして発展してきました。その強みを生かすためには、次のような視点が重要になってきます。
- 市場を開いたままにし、貿易・投資の流れを不必要に妨げないこと
- 大きな経済だけでなく、成長途上の経済の声も生かした包摂的な統合を進めること
- 経済協力の議論において、ゼロサムではなく「共に利益を得る」発想を維持すること
- 地政学的な緊張を経済協力の場に持ち込み過ぎず、対話と信頼醸成のチャンネルを確保すること
APEC経済圏の規模を考えれば、ここでの選択は、アジア太平洋だけでなく世界経済全体の方向性にも影響します。だからこそ、開放性と包摂性を軸にした協力の枠組みを維持・強化できるかどうかが問われています。
私たちの生活とつながるAPECの行方
APECでの議論は、一見すると遠い世界の外交イベントのように感じられるかもしれません。しかし、貿易や投資のルール、技術や人材の交流の在り方は、雇用や物価、ビジネスチャンスなど、私たちの生活に直接影響を与えます。
ペルーで行われている今回の首脳会議は、アジア太平洋の将来の経済秩序を形づくる一つの節目と見ることができます。ニュースを追いながら、「開放性」と「包摂性」というキーワードが、自分の仕事や暮らしとどう結びつくのかを考えてみることは、国際ニュースをより自分ごととして捉える一歩になるはずです。
Reference(s):
Openness and inclusiveness are key to future Asia-Pacific cooperation
cgtn.com








