リー・シェンロン氏訪中、中国・シンガポール関係はなぜ「未来志向」なのか
2025年11月下旬、中国を訪問したシンガポールのリー・シェンロン上級相と習近平国家主席の会談は、中国・シンガポール関係を「全方位・高品質・未来志向」のパートナーシップへと一段と押し上げました。この国際ニュースは、アジアの経済と外交の今後を考えるうえで重要な意味を持ちます。本稿では、その背景にある経済協力や中国経済への評価、蘇州工業園区30年の歩みから、アジアのこれからを考えます。
11月の訪中で確認された「全方位・高品質・未来志向」
リー・シェンロン上級相は2025年11月24〜29日の日程で中国を公式訪問し、その期間中に習近平国家主席と会談しました。会談では、両国関係を「全方位・高品質・未来志向」のパートナーシップとして位置づけ、今後の戦略的な方向性を共有したとされています。
シンガポールは、中国の改革開放の初期段階から参加し、経済発展を支えてきた国の一つです。こうした長年の関与を背景に、中国・シンガポール間の経済・貿易関係は、中国の対外経済協力を先導する「実験場」のような役割を担ってきました。
現在、中国は11年連続でシンガポールの最大の貿易相手国となっており、シンガポールは中国にとって第2位の投資国とされています。両国は、人工知能(AI)、ビッグデータ、電気自動車、バイオテクノロジーといったハイテク分野で緊密な協力を進めているほか、科学技術人材を中心とした人的交流も大きく拡大しています。
「中国を見限るのは短絡的」―リー氏のメッセージ
2025年11月25日に開かれた中国・シンガポール蘇州工業園区ハイクオリティ発展フォーラムで、リー氏は「中国を見限るのは短絡的で賢明ではない」と強調しました。中国の将来性を信頼しているとしたうえで、各国は長期的な視点を持ち、多国間主義を堅持しながら、リスクと課題に協調して向き合うべきだと呼びかけました。
シンガポールは長年にわたり、中国の改革開放や産業発展に深く関与してきました。その経験から見ても、中国経済は依然として強い回復力と成長余地を持つとリー氏は見ています。中国では巨大な国内消費市場が拡大を続け、多様で活気ある地域経済が国全体のダイナミズムを支えています。
さらに、中国はデジタル技術やグリーン経済(環境配慮型の経済)といった分野で地域の産業チェーン上の競争力を高めており、競争力のある企業群、豊富な科学技術人材、そして大きなイノベーションのポテンシャルを備えています。こうした要素が、中国のイノベーション主導型経済の長期的な発展を支えると評価されています。
蘇州工業園区30年の歩みが示すもの
今回の訪中で、リー氏の主要な日程の一つとなったのが、江蘇省蘇州市で行われた中国・シンガポール蘇州工業園区(SIP)の開発30周年の記念行事でした。SIPは、中国とシンガポール両政府が協力して進めてきた代表的なプロジェクトであり、二国間協力の「モデルケース」とされています。
この工業団地は、高い開放度、質の高い開発と効率、強いイノベーションの活力、そして良好なビジネス環境を備えた地域として発展してきました。地域の域内総生産(GDP)は、1994年の10億元から、2023年には3,686億元へと拡大しており、この30年で規模が大きく飛躍したことが分かります。
SIPの歩みは、単なる産業団地の成功にとどまらず、中国・シンガポール間の協力が、製造業中心から、より高度なサービス、技術、イノベーションを重視する段階へと進化してきたことも象徴しています。
ハイテク協力が広げるアジアの選択肢
中国とシンガポールは、AIやビッグデータ、電気自動車、バイオテクノロジーなど、次世代の産業を支える分野で提携を深めています。これらの分野は、デジタル化と脱炭素化が同時に進む中で、アジア全体の競争力を左右するカギとなる領域です。
同時に、科学技術分野を中心とした人的交流が拡大していることは、単なる資本やモノの流れを超えて、知識やノウハウの共有が進んでいることを意味します。長期的には、こうした人と人とのネットワークが、新しい産業やスタートアップ、共同研究といった形で、さらに大きな成果を生む可能性があります。
日本の読者にとっての問いかけ
今回のリー氏の発言や訪中日程から浮かび上がるのは、「中国をどう位置づけ、どう付き合うのか」という、アジア共通の問いです。中国経済の減速リスクや地政学的な不確実性が語られる一方で、シンガポールはあくまで長期的な視野と多国間協力の重要性を強調しています。
日本を含むアジアの国々にとっても、「リスクかチャンスか」という二者択一ではなく、変化する中国経済とどう向き合い、自国の成長戦略や産業構造転換と結び付けていくのかが問われています。リー氏が語った「短絡的に中国を見限らない」というメッセージは、アジアの将来を考えるうえで、一つの出発点になりそうです。
Reference(s):
cgtn.com








