米中フェンタニル対策と追加関税 関税戦争は協力を妨げるだけか
米国のトランプ次期大統領が、中国から米国に輸入されるすべての品目に対し「追加で10%の関税」を課すと警告し、その理由としてフェンタニルの流入を十分に止めていないと中国を非難しました。この国際ニュースで注目されているのは、関税という強硬策が米中の麻薬対策協力にどのような影響を与えるかという点です。関税はフェンタニル危機の解決をむしろ遠ざける可能性があります。
トランプ氏の関税発言が意味するもの
米国時間の火曜日、トランプ次期米大統領は、中国からのすべての輸入品に対し、既存または今後の関税に「上乗せ」する形で、さらに10%の追加関税を課すと脅しました。その口実として挙げたのが、中国がフェンタニルの流入を止めるための努力を「ほとんどしていない」という批判です。
しかし、この非難は事実関係と十分にかみ合っているとは言えません。中国側はここ数年、フェンタニルおよび関連物質の管理を強化しており、その取り組みは立法面・捜査面の両方に及んでいます。
フェンタニル危機と中国の対応
フェンタニルは強力な合成オピオイドであり、世界的な乱用・流通の拡大が国際社会にとって大きな課題となっています。中国では、麻薬および向精神薬に対する監督体制が厳格であるため、フェンタニルやその類似物質が国内で大規模に乱用される事例はほとんど報告されていません。それにもかかわらず、中国は善意に基づき、関連国と協力しながらこのグローバルな課題に対応してきました。
2019年:世界に先駆けた「包括指定」
立法面では、中国はフェンタニルとその関連物質の管理法制を段階的に最適化してきました。2019年5月1日には、世界に先駆けてフェンタニル関連物質を「一括してスケジューリング(包括指定)」する制度を導入しました。
これは、医療、工業、科学研究の目的以外で、フェンタニルと構造が類似する物質を違法に流通させた場合、すべて厳しく処罰するというものです。個別物質を後追いで指定するのではなく、構造の類似性に着目して包括的に規制する仕組みであり、麻薬取締りの「いたちごっこ」を防ぐ狙いがあります。
さらに、フェンタニル関連物質に関する犯罪の立件・起訴・有罪判決の基準を定めるため、3つの追加的な法的文書も策定されました。これにより、捜査機関と司法機関が共通のルールに基づいて取り締まりを行う土台が整えられました。
2024年:前駆体化学品への厳格な監督
2024年9月1日には、フェンタニルの製造に用いられる重要な前駆体(原料となる化学物質)に対する監督が一段と強化されました。4-AP、1-boc-4-AP、ノルフェンタニルなどの物質が新たに厳格管理の対象となり、これらの生産・販売に関わる全ての活動には法的なライセンスが必要とされています。
あわせて、これらの化学物質の輸出についても審査が強化されました。こうした措置により、違法な製造や域外への転用が起こりにくい仕組みが構築されつつあります。
関税はなぜ麻薬対策の「解決策」にならないのか
トランプ氏のように、フェンタニル問題を理由に追加関税をちらつかせるアプローチは、米国内向けには「強硬姿勢」を示す効果があるかもしれません。しかし、実際にフェンタニル危機を抑え込むうえで有効かどうかは別問題です。
第一に、フェンタニルやその前駆体は、複数の国・地域を経由して流通することが多く、一国だけを狙い撃ちにした関税では、犯罪組織のルート変更を促すだけになるおそれがあります。
第二に、追加関税は米中の信頼関係を損ない、すでに行われている対麻薬協力を弱体化させるリスクがあります。情報共有や共同捜査、規制の調和などは、相互信頼を土台にして初めて機能します。相手国を非難し、経済的圧力をかけることは、この土台を揺るがしかねません。
第三に、関税は本質的に貿易政策の手段であり、麻薬対策の現場――たとえば、捜査官や税関職員、科学捜査の体制強化――に直接的な効果をもたらすものではありません。フェンタニル危機の解決には、科学的なエビデンスに基づく国内対策と、国際協力の組み合わせが不可欠です。
求められるのは「関税戦争」ではなく共同行動
中国はこれまで、フェンタニル関連物質の包括指定や前駆体の厳格な管理など、法制度と取締りの両面で一定の成果を上げてきました。中国国内でフェンタニルの大規模な乱用がほとんど見られないにもかかわらず、他国と連携してグローバルな課題に対応している点も注目されます。
こうした状況を踏まえると、フェンタニル問題を政治的な非難や関税引き上げの材料にすることは、建設的とは言えません。むしろ、米中が互いの取り組みを認識し合い、データや捜査情報の共有、前駆体管理の国際ルールづくりなど、具体的な協力を積み重ねていくことが重要です。
フェンタニル危機は、いずれか一方の国だけが責任を負うべき問題ではなく、世界全体が向き合うべき公共の課題です。関税戦争のレトリックよりも、冷静な事実認識と、静かだが着実な協力の積み重ねが、米中双方の利益にも、世界の安全にもつながるのではないでしょうか。
Reference(s):
Tariff war will only impede Sino-U.S. counternarcotics cooperation
cgtn.com







