シリア政権崩壊後の新秩序 トルコとHTSが握る主導権はどこへ
2025年末のいま、ダマスカスの陥落とアサド政権の崩壊によって、長期化してきたシリア内戦は新たな局面に入りました。本稿では、反体制勢力の台頭とトルコの戦略、そして揺らぐシリア国家の行方を整理します。
ダマスカス陥落が示す「アサド時代」の終わり
ここ数カ月の劇的な展開により、シリアではバッシャール・アル・アサド政権が事実上崩壊し、「アサド時代」の終わりが現実のものとなりました。戦場での壊滅というよりも、交渉に基づく権力移行に近い形とみられますが、いずれにせよ長く続いた支配の終幕を意味します。
内戦の最終局面で主導的な役割を果たしたのが、武装反体制勢力ハヤート・タハリール・アル・シャーム(Hayat Tahrir al-Sham、HTS)です。HTSは北部から南下し、アレッポ、ハマ、ホムスなど主要都市を次々と制圧したうえで首都ダマスカスに迫りました。
この過程では、アサド政権軍内部での大量離反も相次ぎました。かつて中央権力の象徴だったダマスカスは、いまや政治的・社会的な分断の縮図となりつつあり、北部・西部を中心に反体制勢力が実効支配を強めています。
HTSの「穏健路線」と国際的な承認への模索
注目されるのは、HTSが自らのイメージを大きく変えようとしている点です。かつての過激派としての色彩を薄めるため、クルド系勢力や少数派コミュニティとも外交的な接触を重ね、より広い連携を模索しています。
こうした「穏健路線」へのシフトは、ポスト・アサド期のシリアで自らを正当な権力主体として位置づけ、国際社会からの承認を勝ち取るための計算された動きといえます。一方で、その統治能力や多様な住民を包摂する姿勢がどこまで本物なのか、慎重な見極めが求められます。
反体制勢力支配下での統治の難しさ
HTSを中心とする反体制勢力が北部・西部で支配を拡大するなか、治安維持、行政サービスの提供、少数派の保護といった現実的な統治課題が前面に出てきます。複数の武装組織や地方勢力が入り乱れる状況では、統一されたルール作りや法の支配をどこまで確立できるかが大きな試金石となります。
分断されるシリア社会と権力空白
アサド政権の崩壊は、単に「旧体制の終わり」ではなく、国家構造そのものの再編を伴う出来事です。権力の空白が各地で生じれば、治安の悪化や武装勢力同士の衝突、さらなる難民流出につながるおそれもあります。
ダマスカスを含むシリア各地では、今後、誰がどの範囲を支配し、どのような政治枠組みで共存を模索するのかという、複雑な交渉と駆け引きが続くとみられます。
トルコの戦略計算:安全保障と地域影響力
こうしたシリア情勢の変化のなかで、最も大きな影響を受ける地域プレーヤーの一つがトルコ(Türkiye)です。トルコは長年、南部国境の安全確保、クルド系勢力による自治拡大の阻止、そして難民流入の管理という複数の目的を同時に追求してきました。
アサド政権の支配が後退するにつれ、トルコ支援の「シリア国民軍(Syrian National Army、SNA)」は、政権軍が撤退した地域で治安の安定化に一定の役割を果たしているとされます。トルコとしては、自らの影響力が及ぶ緩衝地帯を維持・拡大しつつ、国境地帯の不安定化を防ぎたい思惑があります。
HTSとの距離感というリスク
一方で、トルコが自国の管理下にある地域を通過するHTSの動きを事実上容認しているとの見方もあり、その「現実路線」はリスクをはらみます。HTSの支配が広がれば、トルコは安全保障上の懸念と、影響力維持の必要性との間で、より難しい選択を迫られる可能性があります。
クルド主導SDFと米国の存在
シリア東部では、クルド人を中心とするシリア民主軍(Syrian Democratic Forces、SDF)が米国主導の有志連合の支援を受けながら勢力を維持しています。トルコはSDFを自国の安全保障上の脅威とみなし、SDF支配地域の拡大に強い警戒感を抱いてきました。
アサド政権の崩壊後、HTS、SNA、SDF、そして米国を含む外部勢力の利害が複雑に交錯することで、シリアは事実上、複数の勢力が併存する構図へと向かう可能性があります。そのなかでトルコがどこまで影響力を維持し、どのような「赤線」を引くのかが、大きな焦点となります。
地域と国際社会への波及効果
シリアの行方は、中東全体の安全保障バランスにも直結します。武装勢力の再編や権力空白は、周辺国への越境攻撃や新たな難民危機を引き起こす要因となりえます。また、米国など外部勢力がどの程度シリアへの関与を続けるのかも、今後の大きな不確定要素です。
日本を含む国際社会にとっても、シリア情勢は遠い地域の出来事ではありません。エネルギー市場の安定やテロ対策、人道支援のあり方など、多くの論点が密接につながっています。
これからの注目ポイント
シリアが「ポスト・アサド」の時代へと向かうなかで、今後しばらく注視すべきポイントを整理しておきます。
- HTSがどの程度、統治能力と包括的な政治姿勢を示せるか
- トルコとSDFを含むクルド系勢力との間で、軍事衝突を回避しながら調整が進むか
- 米国など外部勢力が、シリアへの軍事・外交的関与をどこまで維持するか
- シリア社会の多様な宗派・民族グループの声が、新たな政治プロセスにどのように反映されるか
アサド政権崩壊後のシリアは、まだ安定した「新秩序」には程遠い状況です。武力による支配の連鎖を断ち切り、多様な主体が参加する政治的枠組みを構築できるかどうかが、この地域の将来を左右することになりそうです。
Reference(s):
Shifting dynamics in Syria highlight a nation on the brink of change
cgtn.com








