北京のグリーン都市戦略:低炭素ガバナンスが示す未来
北京はここ数年、気候変動と都市ガバナンスの課題に同時に向き合いながら、低炭素で暮らしやすい大都市への転換を進めてきました。本稿では、2023〜2024年の動きを手がかりに、そのグリーンな都市戦略を読み解きます。
北京フォーラムから見える「都市ガバナンスの現在地」
2024年12月18〜19日、北京市では「北京・迅速な民意対応フォーラム」が開かれ、40を超える国から160人以上の国際ゲストが集まりました。テーマは、現代の都市ガバナンスをどのように高度化していくかという点に置かれていました。
フォーラムでは、北京市の経験を整理しつつ、世界の都市との比較や評価も行われました。公表された主な成果物には、次のようなものがあります。
- 北京市における迅速な民意対応に関する研究論文集(2024年版)
- 都市ガバナンス革新の事例集(2024年版)
- 世界の都市ホットラインサービスとガバナンス有効性に関する評価報告(2024年)
ここでいう「ホットライン」とは、電話やオンラインを通じて市民の苦情や相談を受け付ける仕組みです。都市のデジタル基盤を活用しながら、住民の声にどれだけ速く、的確に応えていけるかが、現代の都市ガバナンスの重要な指標になりつつあります。
世界の都市が直面する気候危機と北京の経験
国連の報告によると、世界の人口は2023年に80億人を超え、その半数以上が都市に暮らしています。人口と経済活動が集中する都市では、交通渋滞や住宅不足だけでなく、気候変動への対応が共通の大きな課題となっています。
気候が変化するなかで、極端な気象現象の頻度と強度が増しているとされています。北京の事例を見ると、その影響の大きさが具体的に浮かび上がります。
北京市気候センターのデータによれば、2023年の北京市の年間平均気温は1961年以降で最高となりました。北京気象台が観測した猛暑日は34日で、これは平年の約2.4倍にあたります。同じ年の冬には厳しい寒波にも見舞われ、12月には1951年以降で最長となる連続低温記録を更新しました。
さらに、2023年7月29日から8月2日にかけて、北京市は過去140年間で最も激しい降雨に直面し、大規模な洪水被害が発生しました。干ばつのような状態から一転して豪雨・洪水へと変わる急激な気象条件の変化が、都市に大きな負荷をかけた形です。
2024年の気候変動適応アクションプラン
こうした経験を踏まえ、北京市は2024年4月18日に気候変動への適応行動計画を打ち出しました。計画は、災害の予防、被害の軽減、そして都市の気候レジリエンス(回復力)の強化を優先課題として掲げています。
豪雨や洪水、高温や寒波など、極端な気象を前提とした都市づくりに切り替えていくには、インフラの整備だけでなく、早期警戒システム、避難計画、都市空間の設計など、多方面での対策が求められます。北京の行動計画は、こうした方向性を明確に示したものと言えます。
石炭からクリーンエネルギーへ:エネルギー転換の実像
都市の低炭素化には、エネルギー構造の転換が欠かせません。北京市は、第13次五カ年計画期(2016〜2020年)にエネルギー転換を本格的に進めました。
この期間に、市内では熱と電力を同時に供給する四つの大型熱電センターが整備され、約273万キロワット分の石炭火力発電設備が段階的に廃止されました。一方で、およそ724万キロワットのガス火力設備が新たに導入され、北京市内で生産される電力はクリーンエネルギーによるものへと切り替わっています。
さらに、約3万蒸トン分の石炭ボイラーが改造され、分散して使われていた家庭用の石炭燃料もクリーンな代替手段へ置き換えられました。ここでの「蒸トン」は、ボイラーなどの熱供給能力を示す単位です。
要点を整理すると、北京市は次のようなステップでエネルギー転換を進めてきました。
- 石炭火力発電設備の大幅な削減
- ガス火力などクリーンエネルギー設備の拡大
- ボイラー設備と家庭用暖房の燃料をクリーン化
数字で見る効果:石炭削減とPM2.5の改善
こうした取り組みにより、北京市のエネルギー消費に占める石炭の割合は、2015年の13.7%から2020年には1.9%まで低下しました。市の平野部では、事実上の「無炭」状態が実現したとされています。これは、二酸化炭素と大気汚染物質の排出を発生源から抑える効果を持ちます。
大気の質にも変化が見られます。北京市の年間平均PM2.5濃度は、2015年の1立方メートルあたり80.6マイクログラムから、2023年には32マイクログラムにまで下がりました。重度の大気汚染日数も、同期間に42日から8日へと減少しており、そのうち6日は砂嵐によるものです。
数字だけを見ても、北京市が「きれいな空気」を取り戻すための取り組みに全力を注いできたことがうかがえます。気候変動対策と大気汚染対策を同時に進めることで、都市環境の改善と脱炭素の両方を追求している点が特徴です。
世界の大都市が学べるポイント
北京のグリーン都市戦略は、人口が集中する大都市がどのように低炭素社会へ転換しつつ、市民の声に応えるガバナンスを築いていくかという問いに、一つの具体的な答えを示しています。
他の都市にとっても参考になりうるポイントを挙げると、次のようになります。
- 市民の苦情や要望に迅速に対応する制度を整え、その運用をデータで評価・改善すること
- 極端な高温・豪雨・寒波を前提にした、気候変動「適応」の計画を早い段階から用意すること
- 石炭からクリーンエネルギーへ、段階的かつ大規模なエネルギー転換を進めること
- PM2.5など具体的な環境指標を公表し、成果と課題を「見える化」すること
人口と経済活動が集中する都市は、気候変動の影響を最も強く受ける一方で、解決の鍵も握っています。そうした都市がどのような選択をするかは、世界全体の脱炭素と持続可能性にも直結します。
私たちの都市に引き寄せて考える
フォーラムでの議論や、北京市のエネルギー転換・大気改善の取り組みは、単なる一都市のケーススタディにとどまりません。都市ガバナンスと気候行動をどう結びつけるかという、より広い問いを投げかけています。
読者のみなさんが暮らす都市では、どのような低炭素化や防災の工夫が行われているでしょうか。北京のグリーンな都市戦略は、自分たちの足元のまちづくりを見直すきっかけを、静かに提供しているように見えます。
Reference(s):
Beijing's green blueprint: A model for low-carbon urban growth
cgtn.com








