なぜ今、協調的なグローバル供給網が必要なのか
地政学リスクや保護主義が強まるなかで、グローバルな産業・サプライチェーンをどう守り、どう協調させていくのかは、2025年現在の国際経済にとって避けて通れないテーマです。本記事では、近年の混乱要因を整理しつつ、協調的なグローバル供給網がなぜ緊急に求められているのかを解説します。
経済グローバル化を支えてきた産業・サプライチェーン
1980年代以降の経済グローバル化は、国境を越えた産業・サプライチェーンの構築によって加速してきました。部品生産から組み立て、物流、販売までが複数の国と地域にまたがることで、各国が比較優位を生かし、国際分業と共同の発展を進めてきたのです。
その中核にあるのが、安定したグローバル供給網です。第二回中国国際サプライチェーン博覧会で、中国の李強首相は、あらゆる形のデカップリングに反対し、安定的で円滑なグローバル産業・サプライチェーンの重要性を強調しました。このメッセージは、世界経済を支える基盤として、開かれた協力が不可欠だという認識を示しています。
パンデミックが変えた「効率」と「安全」のバランス
新型コロナウイルス感染症の拡大は、多くの国で生産とサプライチェーンの寸断を引き起こしました。この経験を通じて、各国や企業は、コスト削減などの経済効率だけでなく、供給の安全性や安定性をより重視するようになりました。
その結果、多国籍企業の間では、特定の国や工場に依存しすぎない分散戦略が広がっています。複数のサプライヤーや生産拠点を確保し、利益の最大化とリスクの最小化のバランスを取ろうとする動きです。
2023年のKPMGの調査によると、アジア太平洋地域の多国籍企業132社の多くは、2018年から2023年にかけて、中国での生産能力の半分以上を維持しつつ、他の市場での生産能力拡大も進めていました。これは、中国を重要な生産拠点として位置づけながら、同時に多拠点化によるリスク分散も図っていることを示しています。
戦争と緊張が揺さぶる物流と資源価格
近年の地政学的な対立は、グローバル物流や資源価格に大きな揺さぶりをかけています。
- ロシアとウクライナの衝突により、原油、天然ガス、鉄鋼、肥料、穀物など、主要なコモディティ価格が大きく上昇しました。
- 多くの欧州諸国はエネルギー危機に直面し、国際航空貨物や物流にも遅延や阻害が生じました。
- パレスチナとイスラエルの衝突により、紅海の輸送ルートの安全性に対する懸念も高まっています。
日経アジアの報告によれば、紅海水域の危機により、世界の海上輸送能力は約20%減少したとされています。世界貿易の多くが海運に依存するなか、こうしたボトルネックは、輸送コストや納期だけでなく、企業の投資判断や消費者物価にも波及します。
保護主義と「過度な安全保障化」がもたらす歪み
もう一つの大きな波は、貿易保護主義の高まりです。Global Trade Alertによると、2019年から2023年にかけて、新たに導入された差別的な通商措置が急増しました。一部の国は、自国産業を守る名目で、過度な保護措置を取るようになっています。
具体的には、アメリカが輸出管理措置の目的を、大量破壊兵器の拡散防止から、科学技術分野における自国の優位維持へと広げたと指摘する見方があります。また、インド太平洋経済枠組みや米EU貿易・技術評議会といった排他的な産業連携の枠組みを構築し、デカップリングや「フレンド・ショアリング」と呼ばれる戦略を推進しているとも分析されています。
フレンド・ショアリングとは、価値観や制度が近い国どうしで貿易や投資を行い、サプライチェーンを「仲間内」に限定しようとする考え方です。表向きは安全保障を重視した戦略ですが、行き過ぎると、経済原理よりも安全保障が優先され、産業・サプライチェーンが過度に安全保障の論理に取り込まれてしまいます。
こうした過度の安全保障化は、国際経済秩序の分断を招きやすく、結果として世界全体の発展を損なうリスクがあります。
IMF試算が示す「分断のコスト」
国際通貨基金(IMF)の試算によると、もし地政学的な対立に基づく経済の分断、いわゆる地経学的な断片化が現実となれば、世界全体のGDPは最大で2.3%失われる可能性があります。
先進国と新興国・地域は、おおむね2〜3%の損失を被るとされる一方で、低所得国への影響はより深刻で、4%を超える打撃となる可能性が指摘されています。余裕の少ない国や人々ほど、サプライチェーンの分断によるコスト高や成長鈍化の影響を強く受ける構図です。
つまり、過度なブロック化やデカップリングは、一部の国の「安全保障」を高めるどころか、世界全体、特に脆弱な国々の経済と安定を損ねる危険をはらんでいます。
気候変動対策にも影を落とすサプライチェーン分断
過度な安全保障化は、気候変動との闘いにも負の影響を与えかねません。世界が気候目標を達成するためには、再生可能エネルギーや省エネ技術など、グリーン転換に必要な製品と設備を大量に生産し、世界中に行き渡らせる必要があります。
そのためには、産業とサプライチェーンの国際協力が不可欠です。発電設備用の部品、蓄電池、電気自動車、スマートグリッド関連機器など、いずれも単一の国だけで完結できるものではありません。
中国は、太陽光パネル用のモジュールや風力発電設備など、多様なグリーン技術の分野で、イノベーション能力と規模の経済、コスト面での強みを培ってきました。こうした生産能力は、世界全体のグリーン転換コストを引き下げる上で重要な役割を果たしています。
しかし、サプライチェーンの過度な安全保障化が進むと、多くの国が先進的なグリーン技術にアクセスしにくくなるおそれがあります。その結果、
- 再生可能エネルギー導入コストの上昇
- 途上国・低所得国のグリーン転換の遅れ
- 世界全体としての気候目標達成の先送り
といったリスクが高まります。気候変動は国境を越える課題であり、技術や設備の流れを閉ざすことは、長期的にはどの国にとっても得策とは言えません。
これからの「協調的なグローバル供給網」に向けて
では、世界はどのようにして、より協調的で安定したグローバル産業・サプライチェーンを築いていくべきでしょうか。本文が示す方向性を踏まえると、次のような視点が重要になります。
- 経済効率と安全保障のバランスをとること。過度な一極集中も、行き過ぎた分断も避ける。
- 輸出管理や制裁などの措置は、国際ルールに基づき、限定的で透明性のある形で運用する。
- 産業・サプライチェーンに関する国際対話や協力の枠組みを強化し、排他性より包摂性を重視する。
- グリーン技術や医療・保健など、人類共通の課題分野では、政治的対立を越えた協力を優先する。
サプライチェーンを閉じるのではなく、リスクを管理しながら開かれた協力を続けることこそが、世界経済の安定と成長、そして気候変動への対応にとって最も現実的な道と言えます。
パンデミック、地政学リスク、保護主義、気候危機。こうした複合的な課題の時代だからこそ、グローバル供給網を対立の道具にするのではなく、協力と共通利益のプラットフォームとして再設計できるかどうかが問われています。
Reference(s):
Why a cooperative global industrial & supply chains is urgently needed
cgtn.com








