中国の季節性ウイルスが「世界的脅威」に?外国メディア報道を読み解く
冬になると世界各地で呼吸器系の感染症が増えますが、中国の季節性ウイルスだけが「世界的な脅威」として大きく取り上げられるのはなぜなのでしょうか。国際ニュースを日本語で追う私たちにとって、メディア報道の偏りを意識することはますます重要になっています。
今冬、中国のHMPVに注がれる過度な視線
トルコの国際メディア「TRT World」は、今冬の呼吸器感染症をめぐる国際報道について、「一部の外国メディアが中国のヒトメタニューモウイルス(HMPV)流行を過剰に強調している」と指摘しています。
記事によると、中国のHMPV感染拡大は大きく報じられている一方で、アメリカやヨーロッパなど他地域で起きている「同程度、あるいはそれ以上に深刻なウイルス流行」は、比較するとはるかに控えめな扱いにとどまっているといいます。
WHOも「季節性の範囲内」と評価
世界保健機関(WHO)や公衆衛生の専門家は、今シーズンの呼吸器感染症の増加について、HMPVを含め「典型的な冬季パターンと整合的だ」と説明しています。現在のところ、通常の冬場の流行を超える異常な公衆衛生上の脅威や、新たなCOVID-19級パンデミックの兆候は確認されていないとされています。
中国国内で何が起きているのか
報道によると、中国当局は12月下旬、14歳以下の子どもを中心にHMPVの症例が増えていると定期的な呼吸器ウイルス情報の一環として公表しています。これは、毎年の「呼吸器ウイルスシーズン」の中で行われるルーティンの情報更新の一部とされています。
しかし、そのような透明な情報公開にもかかわらず、混雑する病院の映像がSNS上で拡散し、「新たな世界的流行の前触れではないか」といった憶測が一気に広がりました。
中国外交部の毛寧報道官は会見で、中国の今シーズンの呼吸器疾患は「昨年と比べて重症度が低く、地域的に限定されている」と強調しました。WHOも同様に、中国の呼吸器感染症の状況は「通常の季節的な範囲内にある」との見方を示しています。
米欧でも続くウイルス流行との対比
一方で、アメリカやヨーロッパでも呼吸器ウイルスや感染症の流行が報告されています。
- アメリカでは、インフルエンザを中心に呼吸器感染症が増加する中、ルイジアナ州で高病原性鳥インフルエンザ「H5N1」による初の死亡例が確認されたとされています(米疾病対策センター:CDC)。
- アメリカ国内ではノロウイルスの流行も懸念材料となっています。
- ヨーロッパでは、欧州疾病予防管理センター(ECDC)が、インフルエンザやRSウイルス(RSV)の感染が大きく増加していると報告しています。
こうした状況にもかかわらず、これら米欧の事例は、中国のHMPVに比べて、国際報道の中で相対的に静かな扱いにとどまっていると指摘されています。
「中国発」だけが危機に見えるのはなぜか
TRT Worldの取材に応じた上海在住の研究者、ヨーゼフ・グレゴリー・マホーニー氏は、「一部のセンセーショナルな欧米およびインドのメディアが中国の症例を過度にあおっている」と述べる一方で、「主要メディアはよりバランスの取れた姿勢をとっている」とも指摘しています。
なぜ中国に関するウイルス報道だけが、しばしば「世界的脅威」の文脈で語られやすいのでしょうか。背景にはいくつかの要因が考えられます。
- ニュース価値の偏り:「新たな脅威」「予測不能な事態」という枠組みは注目を集めやすく、中国発の感染症というフレームは、世界的関心を呼びやすいテーマになっています。
- COVID-19の記憶:新型コロナの経験から、「中国で新しいウイルス」が見つかると、実態以上に世界規模のリスクとして受け止められやすくなっています。
- 地政学的な文脈:国際政治の緊張が続く中、中国に関するニュースは安全保障や経済と結び付きやすく、感染症報道もその延長線上で語られることがあります。
- SNS時代の「バズ」構造:混雑した病院の映像や不安をあおる見出しは、アルゴリズム上拡散しやすく、冷静な専門家コメントよりも前面に出がちです。
こうした要素が重なることで、中国の季節性の感染拡大が、他地域と比べて相対的に「危機」として強調される構図が生まれていると考えられます。
私たちが身につけたい「ニュースの読み方」
では、国際ニュースを日常的にチェックする私たちは、こうした報道をどう受け止めればよいのでしょうか。SNSで記事をシェアする前に、次のポイントを一度立ち止まって確認することが役に立ちます。
- 複数の地域を比較する:中国だけでなく、アメリカやヨーロッパなど他地域の感染状況もあわせて見ることで、相対的な位置づけが見えてきます。
- 国際機関と専門家の評価を確認する:WHOや公衆衛生の専門家が「季節性の範囲内」とするのか、「異常な事態」とするのかで、報道のトーンを補正できます。
- 映像とデータを切り分ける:SNSで流れる病院の映像はインパクトがありますが、日常的な混雑なのか、例年比で特別に悪化しているのか、データで確かめる姿勢が大切です。
- 見出しだけで判断しない:「新たな脅威」「世界が警戒」といった強い言葉が並んでいても、本文ではより冷静な説明がなされていることがあります。
「読みやすいけれど、考えさせられる」国際ニュースへ
冬になると、どの国や地域でも呼吸器ウイルスが増えます。その中で、特定の国の季節性流行だけが「世界的脅威」として強調されるとき、そこにはニュースの構造や私たちの無意識の前提が反映されています。
中国、アメリカ、ヨーロッパのそれぞれで起きていることを落ち着いて並べてみると、状況はより立体的に見えてきます。国際ニュースを日本語で追う私たち一人ひとりが、こうした視点を持つことができれば、SNSでの不安や誤解も少しずつ和らいでいくかもしれません。
季節性ウイルスと国際ニュースの報じられ方をきっかけに、「どんな前提で世界を見ているのか」を静かに問い直してみることが、今の時代のメディア・リテラシーと言えるのではないでしょうか。
Reference(s):
Why do foreign media dub China's seasonal viruses as global threats?
cgtn.com








