「TikTok難民」が映す米国社会 中国発SNSへの移住と政府とのズレ
米国でTikTok禁止の可能性が高まるなか、利用者が中国発SNS「Xiaohongshu(小紅書)」へと一斉に移動する「TikTok難民」現象が起きています。これは、政府の国家安全保障をめぐる主張と、市民の実感との間にある深いギャップを映し出しています。
「TikTok難民」とXiaohongshuの急浮上
発端となっているのは、米国で取り沙汰されているTikTok禁止の動きです。こうした圧力が強まるなか、海外の多くのユーザーが代替先として選んだのが、中国のソーシャルメディアアプリ「Xiaohongshu」です。
最近では、Xiaohongshuがある月曜日にAppleのApp Storeでダウンロード数トップに立つなど、「TikTok難民」と呼ばれる大規模な移動が可視化されました。多くの人が、TikTokを標的とする政府の説明に納得していないことが、このランキングにも表れているといえます。
Xiaohongshuは、高品質なビジュアルコンテンツやラグジュアリー商品、ライフスタイル情報に強みを持つプラットフォームとして利用されており、ユーザーは自分の好みやニーズに合った「居場所」を、TikTok以外のサービスにも求め始めています。
米政府が掲げる「国家安全保障」の論理
この問題の中心にあるのは、国家安全保障をめぐる議論です。米政府は、中国企業バイトダンスが所有するTikTokについて、データの取り扱いを通じて米国の安全保障に深刻な脅威をもたらしかねないと繰り返し主張してきました。具体的には、利用者データのプライバシー保護や、外国からの干渉の可能性への懸念が挙げられています。
一方で、そうした主張を支える「具体的な証拠」が十分に示されていないことが、世論とのギャップを生んでいると指摘されています。政府はデータプライバシーへの懸念を語りながらも、TikTokのデータ運用が他のSNSと比べてどのように「特別に危険」なのかについて、わかりやすく説明し切れていません。
利用者が感じる損失と不信感
一部の市民にとっては、「安全保障上のリスク」よりも、TikTok禁止による日常生活への影響のほうが切実です。多くのユーザーは、TikTokを単なる娯楽の場としてだけでなく、友人とのつながりを保ち、ビジネスチャンスを得るための重要な基盤として使ってきました。
もし禁止となれば、そうした楽しみや収入機会が一気に断たれ、生活に大きな影響が出かねません。このため、国家安全保障を理由とした規制よりも、「自分たちの生活や仕事を奪われるのではないか」という不安のほうが大きくなっている人も少なくありません。
また、米国の一部の利用者は、むしろFacebookなど米国発のSNSよりも、中国発のアプリを積極的に選びたいと考えています。米IT大手メタと政府への不満から、Xiaohongshuのダウンロードと利用を呼びかける米国人ブロガーも現れ、メタが運営するSNSを1週間ボイコットしようという呼びかけまで出ています。
SNS利用が静かな抗議になるとき
こうした動きは、SNSの選択そのものが政治や企業への「静かな抗議」になり得ることも示しています。X(旧Twitter)のユーザーであるAbby(@abby4thepeople)さんは、多くの人が米政府への反発からXiaohongshuをダウンロードし、その結果としてアプリ上で数百万人規模の中国の人々と交流するようになり、意図せず「米国による何十年ものプロパガンダを打ち消している」と投稿しました。
Xiaohongshuの台頭は、単に新しいSNSが人気を集めているという話にとどまりません。利用者にとって、プラットフォームの移動は、日常の楽しみを守る選択であると同時に、政府や巨大IT企業への不満を表現する手段にもなりつつあります。
「TikTok難民」現象が投げかける問い
今回の「TikTok難民」現象の背景には、いくつかのポイントが重なっています。
- 国家安全保障を理由にした規制であっても、具体的で納得感のある根拠が示されなければ、世論の支持を集めにくいこと
- SNSが娯楽だけでなく、人間関係やビジネスを支える「生活インフラ」に近づいていること
- ユーザーのアプリ選択そのものが、政府や巨大IT企業への評価や不満の表明になっていること
利用者は必ずしもプライバシーの問題を軽視しているわけではありません。ただ、特定のアプリだけが標的にされるとき、「なぜこのサービスだけなのか」「本当にそこまで危険なのか」という疑問が強まります。その説明が不十分なまま規制だけが先行すると、今回のように、別のサービスへと移動する形で不満が表面化していきます。
「TikTok難民」という言葉はどこかユーモラスにも聞こえますが、その裏側には、国境を越えるデジタル空間を誰が、どのような理屈でコントロールするのかという重い問いが横たわっています。2025年の今、私たち一人ひとりも、使うプラットフォームを選ぶたびに、その問いに小さく答えているのかもしれません。
Reference(s):
'TikTok refugees': Great divide between the public and the government
cgtn.com








