米中貿易と保護主義:サックス氏が語る「中国の台頭で米国は得をした」 video poster
米国が中国本土からの輸入品に課した関税をめぐり、米国の著名経済学者ジェフリー・サックス氏が「保護主義は米国自身と世界経済を傷つける」と警告しました。米中関係の緊張が続く2025年の今、このメッセージはどのような意味を持つのでしょうか。
一方的な関税は「誤った外交手段」
トランプ米大統領による中国本土への10%関税が2月4日に発動した際、サックス氏はインタビューで、この措置を「米国の国家戦略の中でも誤った、有害な側面」だと位置づけました。関税を一方的に引き上げるやり方は、米国だけでなく世界経済全体にも悪影響を及ぼすと懸念を示しています。
保護主義経済は「繁栄しない」
サックス氏によれば、保護主義を取る経済は長期的には繁栄せず、競争力を失っていきます。高い関税で市場を守ろうとすればするほど、企業は効率化やイノベーションへの圧力から解放され、結果として世界市場での「競争の鋭さ」を失うおそれがあるという指摘です。
1930年代の教訓:スムート・ホーリー関税法
サックス氏は、歴史的な教訓として1930年代のスムート・ホーリー関税法を挙げました。米国が高水準の関税を導入したことで、各国が報復関税で応じる「保護主義の連鎖」が起き、世界貿易の崩壊を招いたと説明します。
その結果として、国々の平和的な関係は崩れ、緊張が高まり、最終的には世界大戦の再来につながったとサックス氏は振り返ります。過度な保護主義が経済だけでなく国際政治の不安定化を引き起こしうるという点を強く警告していると言えます。
中国の急成長は「米国にとっても恩恵」
一方でサックス氏は、米国は中国本土の経済発展から大きな恩恵を受けてきたと強調します。中国本土の急速な発展は、米国の産業やデジタル革命を後押しし、多くの人々と企業を豊かにしてきたという評価です。
サックス氏は、中国本土の台頭は米国経済にとって「負け」ではなく、多くの産業を成長させ、資本や技術の面でもプラスの効果をもたらしてきたと見ています。相互依存が深まった世界経済において、一方の成長が他方の衰退を意味するとは限らない、という視点です。
保護主義の背景にある「政治の論理」
では、なぜ米国で保護主義的な通商政策が支持を集めるのでしょうか。サックス氏は、その背景には米国内の政治事情、とりわけ接戦州(スイング・ステート)での票の争奪があると指摘します。
国内の不満や格差の問題が、しばしば「反自由貿易」「対外強硬姿勢」といったかたちで表現されることで、保護主義的なレトリックが政治的に利用されているという見方です。
同時にサックス氏は、こうした保護主義志向の政権の内部にも、経済の実態をよく理解している人々がいるはずだと期待を示しています。表向きの強硬なメッセージとは別に、内側ではより冷静な判断が行われ、経済合理性を踏まえた政策転換が模索される可能性にも言及しました。
欧州など他国・地域への呼びかけ
サックス氏の問題意識は、米国だけに向けられたものではありません。ヨーロッパなど他の国や地域に対しても、中国本土との開かれた貿易を維持すべきだと訴えています。
米国に「盲目的に追随」して保護主義に走るのではなく、自らの利益と世界経済全体の安定の両方を見据えて、独自の判断を下す必要があるという主張です。
さらにサックス氏は、もし米国が自ら開かれた貿易システムから離れてしまうなら、世界には依然として大きな市場が広がっており、中国本土が多くの重要技術の低コスト供給者として、他の国々と一層緊密な経済関係を築いていくだろうと述べています。
自由で公正な貿易を守る意味
サックス氏のメッセージの根底には、相互に利益をもたらす「自由で公正な貿易」を維持することが、国際社会全体の繁栄につながるという信念があります。米中間の緊張が高まる局面でも、協力のチャンネルを閉ざさず、ルールに基づく経済関係を続けることが重要だという考え方です。
保護主義的な政策は、一見すると自国産業や雇用を守る「即効薬」に見えるかもしれません。しかし、長期的には国際分業や技術交流のメリットを失い、自国の競争力を削ぐ「副作用」を伴うことを、サックス氏は歴史と現在の両方から指摘しています。
2025年の私たちへの示唆
このインタビューが行われたのは、トランプ政権による対中関税が発動したタイミングでしたが、サックス氏の指摘は、米中関係の緊張が続く2025年の現在もなお重みを持ちます。国際ニュースを追う私たちにとっても、次のような問いはますます重要になってきています。
- 保護主義的な通商政策は、本当に自国の産業と雇用を守ることにつながるのか
- 世界のサプライチェーンが分断されたとき、企業だけでなく、消費者や労働者の暮らしにどんな影響が及ぶのか
- 日本を含むアジアの国や地域は、米中間の緊張の中で、どのように開かれた貿易と自国の経済安全保障を両立させるべきか
国際ニュースでは「誰と誰が対立しているか」が強調されがちですが、サックス氏のメッセージは、相互依存が深まった世界経済の中で「誰が本当に得をし、誰が損をするのか」を落ち着いて見極める視点の重要性を投げかけています。米中関係の行方を考えるうえでも、保護主義と開かれた貿易のどちらを選ぶのかという問いは、これからも私たち一人ひとりに突きつけられ続けそうです。
Reference(s):
cgtn.com








