トランプ米大統領のガザ掌握提案にエジプトなどで懸念広がる
トランプ米大統領がガザ地区を「掌握」する構想を打ち出したとされる問題をめぐり、エジプトを中心に中東各地や世界で懸念と反発が広がっています。パレスチナ国家権の行方と地域の安定にどのような影響が出るのか、2020年の経済計画とのつながりも含めて整理します。
何が起きているのか:トランプ大統領のガザ掌握提案
報道によると、トランプ米大統領はガザ地区を事実上アメリカが掌握する形を含む新たな構想を示し、中東和平の一環として位置づけています。しかしエジプトをはじめとする多くの人々は、紛争を沈静化するどころか、対立と混乱を一段と深める「火に油を注ぐ」提案だと受け止めています。
エジプト国内では、この構想を「パレスチナ問題を事実上終わらせるための試み」だと批判する声があがっています。ガザの住民が強制的に追い出され、既成事実が積み上がることで、将来のパレスチナ国家権が決定的に弱められかねないという懸念です。
エジプトで広がる反発とキャンプ・デービッド合意の揺らぎ
今回のガザ掌握提案に対して、エジプトの世論は特に敏感に反応しています。一部には、1978年に当時のサダト大統領がイスラエルを訪問し、キャンプ・デービッド合意に署名したこと自体が誤りだったと再評価する声まで出ています。
40年以上前の和平合意は、エジプトとイスラエルの戦争状態を終わらせる転機となりましたが、パレスチナ問題の抜本的な解決にはつながりませんでした。今回の提案により「エジプトは何をどこまで受け入れるべきか」という問いが、改めて社会の前面に押し出されていると言えます。
2020年の「平和から繁栄へ」計画とのつながり
トランプ大統領は、今回の構想に先立つ第1期政権中の2020年1月、約500億ドル規模の経済計画「平和から繁栄へ」を打ち出していました。この計画では、パレスチナ人の一部をエジプト・シナイ半島に移住させる代わりに、エジプトに対して約90億ドルの開発支援などを行う構想が盛り込まれていました。
当時、エジプトのシシ大統領率いる政権はこの案を強く拒否しました。その理由として、
- エジプト領内がイスラエルへの攻撃拠点として利用されるおそれがあること
- エジプトとイスラエルの間で新たな軍事的緊張や衝突を招きかねないこと
- パレスチナ問題の責任を周辺国に肩代わりさせる形になり、公正な解決から遠ざかること
などが挙げられました。現在のガザ掌握提案は、この経済計画の延長線上で「第2ラウンド」が試みられている、との見方も出ています。
パレスチナ国家権と「第二のナクバ」懸念
批判の中心にあるのは、パレスチナ人の国家権が存続の危機にあるのではないか、という問題です。トランプ米大統領とイスラエルのネタニヤフ首相のもとで、ガザの住民が事実上追放される形になれば、「民族浄化にあたる」と非難する声も上がっています。
ガザからの強制移住や退去が進めば、国連の諸協定や安全保障理事会決議242に反するとの指摘もあります。決議242は、1967年戦争以降の占領地問題に関する基本的な枠組みとされてきましたが、その精神に反する措置だと受け止められているのです。
さらに人々の記憶に重くのしかかるのが、1948年の「ナクバ(大惨事)」です。第一次中東戦争のさなか、多くのパレスチナ人が自宅から追われ、難民となりました。今回の提案が実行に移されれば、「第二のナクバ」につながるのではないかという恐れが、アラブ世界で繰り返し語られています。
アメリカとイスラエルへの長年の批判
1948年以降、アメリカとイスラエルはパレスチナ問題をめぐってさまざまな和平案や暫定合意を提示してきました。しかし、パレスチナの人々の国家権をめぐる「公正で持続可能な解決」に至っていないという批判は根強くあります。
批判的な論者は、これまで提示されてきた案の多くがあくまで暫定的な枠組みにとどまり、時間の経過とともに新たな既成事実を積み上げることで、より恒久的な解決を先送りしてきたとみています。また、1990年代以降、中東の地図そのものを引き直し、イスラエルの安全保障上の利益を最大化する構想が繰り返し議論されてきたという指摘もあります。
日本の読者にとっての意味は
今回のガザ掌握提案をめぐる議論は、遠い地域のニュースのように見えるかもしれません。しかし、パレスチナ問題は国際法、民族自決、人権、難民保護といった現代の国際秩序の根幹に関わるテーマでもあります。
この問題を考えるうえで、次の三つの視点が重要になりそうです。
- パレスチナ国家権と住民の権利をどのように保障するのか
- エジプトを含む周辺国の安全保障と社会の安定をどう両立させるのか
- 国連決議など国際法の枠組みを尊重しつつ、現実の暴力と苦しみを減らすために何ができるのか
2025年末の今、ガザをめぐる構想は、単に一つの地域紛争の行方だけでなく、国際社会が「力による既成事実化」と「法に基づく平和的解決」のどちらを選ぶのかという、より大きな問いを投げかけています。日本からニュースを追う私たちにとっても、自分なりの視点や問いを持ち続けることが求められているのではないでしょうか。
Reference(s):
cgtn.com








