トランプのグリーンランド構想とは?米国の北極戦略を読み解く
トランプ米大統領が2期目の政権運営を進めるなかで、グリーンランドを米国の一部に組み込もうとする構想が再び注目を集めています。本記事では、このグリーンランド構想の背景にある北極の地政学、資源、海上航路の観点を、日本語で分かりやすく整理します。
この記事で分かること
- トランプ政権2期目で再燃したグリーンランド構想の中身
- グリーンランドが北極と世界の安全保障で持つ意味
- パナマ運河や主要海上ルートと結びつく米国の発想
トランプ政権2期目で再燃したグリーンランド構想
トランプ米大統領の2期目が始まって以降、前政権時代の政策のうち何が継続で、何が新しいのかが注目されています。その中で象徴的なのが、グリーンランドを米国の一部に組み込もうとする構想です。
トランプ氏は2019年に、デンマーク王国に属する自治地域グリーンランドを米国が取得すべきだと主張し、世界の話題になりました。2期目を前にした昨年12月には、自身のSNSプラットフォーム「Truth Social」に、グリーンランドの所有と支配は米国の安全保障と世界の自由のために絶対に必要だと投稿し、この構想をあらためて打ち出しました。
その後もトランプ氏は、ここ数週間にわたりグリーンランド構想に言及し続けていますが、グリーンランドの人びとの受け止めは冷ややかです。最新の世論調査によると、住民の85パーセントが米国への編入案に反対しているとされています。
長年続くグリーンランドをめぐる思惑
グリーンランドの主権をめぐる議論は突発的なものではなく、米国の北極地域への野心の延長線上にあります。1867年、ロシアはアラスカを米国に売却しましたが、その後も米国は繰り返しグリーンランドの取得を模索してきました。
しかし、当時のウッドロウ・ウィルソン米大統領は1917年に方針を転換し、グリーンランドではなく、デンマークから現在の米領バージン諸島となる地域を購入する道を選びました。
興味深いのは、その裏側で英国政府がデンマークに対し、将来グリーンランドが売却される場合には、英国が最初の買い手候補となる優先交渉権を主張していた点です。カナダが当時、英国の自治領だったことから、グリーンランドの戦略的近接性を重視したとされます。この原則は現在まで維持されていると伝えられています。
軍事拠点としてのグリーンランド
グリーンランドの戦略的重要性は、軍事面でもはっきりと現れてきました。第二次世界大戦中には米軍基地が設置され、冷戦初期の1951年にはグリーンランド防衛協定が結ばれました。この時期に拡張されたのが、現在のピトゥフィク宇宙基地(旧ツール空軍基地)です。
この基地は現在も、宇宙空間の活動を監視する拠点であると同時に、ミサイル防衛のための早期警戒システムとして機能しているとされています。北極圏を通過するミサイルや衛星の動きをいち早く察知するため、地理的に有利な位置にあるからです。
このように、グリーンランドは単なる氷の大地ではなく、軍事と安全保障の観点から重要な役割を担ってきました。
資源と国境線、そして北極全体へのアクセス
グリーンランドへのアクセスや、より広い意味での北極圏へのアクセスは、単にグリーンランドという島そのものの支配だけでなく、周辺の国境線や近隣大国との関係にも大きく左右されます。
さらに、グリーンランドには次世代の技術に不可欠とされるレアアース(希土類)をはじめ、石油や天然ガスなどの資源が豊富に存在するとされています。こうした資源は、電気自動車や再生可能エネルギー関連機器などの製造にも関わるため、将来の経済や産業競争力に直結します。
つまり、グリーンランドをめぐる動きは、単なる領土問題にとどまらず、資源・技術・安全保障が絡み合った総合的なパワーゲームの一部だと言えます。
世界の海上ルートをめぐるハードパワー
トランプ氏のグリーンランド構想の根底には、世界の主要な海上輸送路に対する米国の影響力を強化したいという発想があると見られています。これは、経済や貿易協定での影響力を支えるハードパワーとしての海上ルート支配という考え方です。
2021年に大型コンテナ船エバー・ギブンがスエズ運河で座礁し、世界の物流が大きく滞った出来事は、ひとつの航路が止まるだけで世界経済に甚大な影響が及ぶことを示しました。こうした経験を踏まえ、台頭する他の大国との競争の中で、米国は主要航路での優位を確保しようとしていると考えられます。
温暖化で現実味を増す北極航路
地球温暖化の進行により、北極圏の氷が減少し、北西航路や北極海沿いの北方海ルートなど、新たな北極航路が現実的な選択肢になりつつあります。これらのルートが安定して利用できるようになれば、従来の航路と比べて航行時間を短縮し、輸送コストを下げられる可能性があります。
グリーンランドは、こうした新しい航路の入口や要衝に位置しており、その沿岸部を米国が監視下に置くことができれば、北極航路全体への影響力を大きく高められるという見方が出ています。
パナマ運河にも向かう視線
グリーンランド政策は、トランプ氏が南側で重視しているパナマ運河への関心とも共通する発想だと指摘されています。パナマ運河は1977年の合意により、ジミー・カーター米大統領の時代にパナマへの返還が決まり、1999年に完全移管されました。
トランプ氏は、既存の常識や合意に挑戦するスタイルで知られており、最近の記者会見では、グリーンランドやパナマ運河の支配権を確保するために軍事力の行使を排除しない姿勢を示したとされています。
さらにトランプ氏は、カナダについても米国の一つの州になり得ると示唆する発言を行ったことがあり、地理的に近接する地域をより強く米国の枠組みに組み込もうとする視線がうかがえます。
名称変更にまで及ぶアメリカ・ファースト
トランプ氏の姿勢は、象徴的な名称にまで及んでいます。メキシコ湾をアメリカ湾と呼び換える案や、アラスカ州の最高峰デナリを従来の名称マッキンリー山に戻す案など、地名の変更をめぐる提案も取りざたされてきました。
こうした動きは、一見するとただのパフォーマンスにも見えますが、自国の存在感を地図の上にも強く刻み込もうとするアメリカ・ファーストのより筋肉質な表現だと受け止められています。
日本や世界はどう向き合うべきか
グリーンランドやパナマ運河をめぐる発言は、すぐに現実の政策転換につながるとは限りません。しかし、世界の主要航路や資源をめぐる発想が、より地政学的で力による影響力に傾きつつある兆候として受け止めることもできます。
海上輸送に大きく依存する日本にとっても、北極航路の開発やパナマ運河などの要衝をめぐる動きは、エネルギー供給やサプライチェーンの安定性と直結するテーマです。どの国がどの航路に、どのような形で影響力を持つのかを注視し、リスク分散や多国間の協力枠組みなどを通じて、安定した国際秩序を維持できるかが問われています。
トランプ政権のグリーンランド構想は、一見突飛なアイデアに見えるかもしれませんが、その背後には資源・安全保障・航路支配という重いテーマが潜んでいます。表面的な発言だけでなく、その背景にある戦略的な文脈を読み解くことが、これからの国際ニュースを理解するうえでいっそう重要になっていきそうです。
Reference(s):
cgtn.com







