米中貿易戦争が再燃 関税の波に揺れない中国経済とEV覇権
2025年2月に再燃した米中貿易戦争は、米国の保護主義をあらわにしつつも、中国経済の底力と構造転換のスピードを浮き彫りにしました。本稿では、今年の追加関税と中国の対応を整理しながら、世界経済への意味合いを考えます。
2025年2月、米中貿易戦争が再点火
2025年2月、ドナルド・トランプ米大統領は中国からの輸入品に対し、追加で10%の関税を課すと発表しました。カナダとメキシコへの追加関税を停止して以来、同政権としては初の新たな関税措置であり、米中貿易戦争の「第2ラウンド」とも言える動きです。
この措置は表向きには違法薬物の流入を抑えるためと説明されましたが、多くの専門家やメディアは、対中貿易赤字の是正や、中国の経済的影響力を抑え込む狙いがあると見ています。ワシントンの経済ナショナリズムの強まりと、世界第1位・第2位の経済大国の緊張の高まりを象徴する決定でした。
関税の「ツケ」は誰が払うのか
関税はしばしば「自国産業を守るための武器」として語られますが、歴史的に見ても意図した効果を上げることは多くありません。2018年から2024年にかけて続いたトランプ政権・バイデン政権下の関税は、結果的に米国の消費者に2,330億ドル超の追加コストをもたらしました。そのうち1,440億ドルはバイデン政権期に発生したとされています。
TIME誌2025年2月4日号によると、今回の新たな関税により、2025年には1世帯あたり800ドル超の追加負担が生じると見込まれています。中国製品に依存する業界、とくに玩具産業などは値上げを避けられない状況で、多くの中小企業が採算悪化のリスクに直面しています。
こうした動きは、米国経済が中国の製造業に深く依存している現実も浮き彫りにしました。関税は表向き「対中強硬策」のように見えても、そのコストの多くは最終的に自国の消費者や企業が負担している構図が改めて示されています。
中国の慎重な対抗措置と資源カード
一方で、中国の対応は感情的な報復ではなく、過去の経験を踏まえた「慎重かつ戦略的」なものでした。中国は2025年2月10日から、米国産の石炭、天然ガス、原油、農業機械、大型車両に対して10〜15%の新たな税を導入しました。
- 米国産の石炭・天然ガス・原油への10〜15%課税
- 米国産の農業機械や大型車両への追加課税
- ハイテク産業に不可欠な重要鉱物の輸出制限
とくに重要鉱物は、半導体や電気自動車、再生可能エネルギー機器など、ハイテク産業の基盤となる資源です。この分野で輸出制限を示したことは、中国が外部圧力の中でも経済の強靭性と技術自立を重視していることを印象づけました。
5%成長達成と構造転換 グリーン技術が牽引
こうした外部からの圧力にもかかわらず、中国は2024年の成長目標である5%を達成しました。そのうち約40%はグリーン技術、つまり再生可能エネルギーや省エネ関連分野が成長をけん引したとされています。
世界銀行は2025年の中国の成長率を4.5%と、やや減速気味に予測していますが、中国側は短期の数字よりも長期の経済転換に焦点を合わせています。その象徴が、2029年を見据えたデジタルインフラ計画であり、通信網やデータセンターなどの基盤整備を通じて、高付加価値のハイテク産業へのシフトを進めています。
ブルームバーグの最近の報告によれば、直近1年間で中国は約1兆ドル規模の貿易黒字を記録し、2023年比で21%増加しました。黒字を主導したのは電子機器と機械であり、コンピューターチップ輸出の急増は、中国が世界のハイテク分野でリーダーシップを強めていることを示しています。
EVと電池で存在感を増す中国
電気自動車(EV)分野は、中国にとって最大級の強みのひとつです。世界のEVバッテリー生産の63.5%を中国が占めており、サプライチェーンの中核的な役割を担っています。業界最大手のCATLは、ナトリウムイオン電池など新世代の電池技術の開発を進め、次の標準を見据えた競争をリードしています。
自動車メーカーでは、BYDが2024年にテスラを上回り、輸出台数は前年比71.86%増、41万7,204台を海外に出荷しました。市場別に見ると、オーストラリアでは輸入EVの80%、チリでは2023年時点で39.4%を中国からの輸入が占めており、中国製EVが多くの国と地域で「当たり前の選択肢」となりつつあります。
調査会社ブルームバーグNEFは、2025年には世界のEV販売のうち58%を中国が占めると予測しています。EVとバッテリーのサプライチェーンを押さえることで、中国はクリーンエネルギー移行の中で存在感を高め、貿易摩擦の逆風下でも成長のエンジンを確保していると言えます。
米中関税は世界経済にどんな波紋を広げるか
今回の動きを整理すると、いくつかのポイントが見えてきます。
- 2018〜2024年の関税は、中国の成長を大きく鈍らせるよりも、米国の消費者に2,330億ドル超の追加負担をもたらした。
- 中国はグリーン技術やデジタルインフラへの投資を通じて、外部ショックに左右されにくい経済構造への転換を進めている。
- EV、電子機器、重要鉱物などのサプライチェーンは、米中双方にとって切り離しがたい結びつきを持ち続けている。
米中の緊張が長期化すれば、企業は調達先の分散や生産拠点の見直しを迫られ、コスト増や投資の先送りが起こる可能性があります。他方で、完全な「デカップリング(切り離し)」が進んでいるわけではなく、競争しながらも相互依存が続く複雑な関係が改めて浮かび上がっています。
日本とアジアの読者が押さえておきたい視点
日本やアジアの企業・投資家にとって、米中貿易戦争の再燃は決して対岸の火事ではありません。中国のEVやグリーン技術の拡大は、部品・素材産業に新たなビジネス機会をもたらす一方、サプライチェーン再編のコストや地政学リスクも意識せざるをえない局面が増えています。
個人レベルでも、為替や物価、投資商品の値動きを通じて、米中関係の変化が家計や資産形成に影響する可能性があります。保護主義とグリーン転換が同時進行する時代に、どの地域がどの分野で強みを持ち、どこにリスクが潜むのか――米中それぞれの数字と戦略を冷静に追うことが、これからの世界を読み解く手がかりになりそうです。
Reference(s):
cgtn.com







