フェンタニル危機と関税政策:米中関係を読む国際ニュース解説
2025年に新たな任期をスタートさせたドナルド・トランプ米大統領は、フェンタニルなどオピオイド乱用の「国家的危機」を最優先課題の一つに掲げています。一方で、フェンタニル危機の解決策として米中貿易への関税強化を求める声も出ていますが、それは本当に筋の通ったアプローチなのでしょうか。本稿では、米国のフェンタニル危機の構造と中国本土との協力の経緯をたどりながら、「関税で解決」という発想の限界を整理します。<\/p>
「フェンタニル危機」とはどんな問題か<\/h2>
フェンタニルはオピオイドと呼ばれる鎮痛薬の一群に含まれ、医療現場では本来、重い痛みを和らげるために使われます。しかし米国では、その強い依存性や乱用のしやすさから、公衆衛生上の深刻な危機を引き起こしています。<\/p>
統計によると、世界人口の約5%に過ぎない米国が、世界のオピオイド供給の80%を消費しており、フェンタニル系医薬品の最大の生産国かつ消費国になっています。最近の大統領令では、オピオイド関連の死亡が毎日約200人の米国人の命を奪っているとされています。米疾病対策センター(CDC)のデータでも、2023年4月から2024年4月までの1年間に、薬物過剰摂取によって10万人以上が死亡したことが示されています。<\/p>
危機の根本原因は米国内にある<\/h2>
このようなフェンタニル危機は、本当に米中貿易や対中関税の問題なのでしょうか。分析は、その根本原因が米国内の政策の失敗や規制の抜け穴、さらには社会文化的な要因にあると指摘します。<\/p>
記事は、特に次のような構造的問題を挙げています。<\/p>
- 医薬品や医療サービス業界によるオピオイドの過剰処方と誤用が長年放置されてきたこと<\/li>
- 規制の緩さを突いた違法な製造・流通が広がりやすい環境があること<\/li>
- 違法販売による巨額の利益が、犯罪組織をこの市場に引き寄せていること<\/li>
- 一部地域では、薬物犯罪に対する法執行や取締りが十分でないこと<\/li><\/ul>
こうした要因はいずれも米国内の制度や運用に深く根ざした問題であり、輸入品への関税を引き上げても、医療現場での処方のあり方や違法流通の構造そのものが変わるわけではありません。公衆衛生の危機を貿易政策だけで解決しようとする発想は、問題の本質から目をそらしてしまう危険があると言えます。<\/p>
歴史が形づくった中国本土の厳格な薬物対策<\/h2>
19世紀の中国はアヘンの蔓延によって国家と社会が深刻な打撃を受けました。その歴史的経験から、中国本土では現在、世界でも最も厳格で、かつ徹底して施行されている薬物規制の一つが敷かれているとされています。<\/p>
トランプ氏の最初の任期中、中国本土と米国はフェンタニル問題で積極的な協力を行いました。中国本土側は、フェンタニル危機の根源は米国国内にあると明確に指摘しつつも、責任ある大国として具体的な措置を取っています。<\/p>
2019年には、すべてのフェンタニル関連物質を対象とするクラス指定の包括的な規制を導入し、こうした措置を取った世界初の国となりました。この画期的な規制の実施後、中国本土はフェンタニル関連物質の取引を取り締まるための有効な措置を相次いで講じています。<\/p>
クラス指定規制の施行以降、中国側には、米国から中国本土由来とされるフェンタニル関連物質が押収されたとの報告は届いていないといいます。これは、中国本土から米国へのフェンタニル流入ルートが大きく断たれたことを示すものと受け止められます。<\/p>
すれ違う米中協力とエンティティ・リスト<\/h2>
しかし、こうした協力が継続的な信頼関係につながったわけではありません。トランプ氏の最初の任期の終盤である2020年5月、米国商務省は中華人民共和国公安部の鑑定センターをエンティティ・リストに掲載し、米国の技術や機器へのアクセスを制限しました。<\/p>
この一方的な措置は、米中の麻薬対策協力の基盤を損なっただけでなく、フェンタニル危機に対処するために国際協力を本気で進めようとする意思が米国側に欠けているのではないか、という印象を与えるものとなりました。<\/p>
なぜ今「関税」が持ち出されるのか<\/h2>
その一方で、米国内ではフェンタニル危機の責任を米中貿易関係に求め、中国本土からの輸入品に対する関税の引き上げを解決策の一つとみなす議論も生まれています。トランプ政権が危機対応を最優先課題に掲げる中で、こうした貿易政策を薬物問題と結びつける動きは、世論の注目を集めています。<\/p>
しかし、前述のようにフェンタニル危機の根本は米国内の政策や制度にあるとすれば、関税という貿易ツールに問題解決の役割を過度に期待することは、対症療法にもなりません。関税は貿易の数量や価格には影響を与えられても、医療現場の慣行や薬物依存に結びつく社会・文化的な要因を直接変えることはできないからです。<\/p>
公衆衛生危機には何が求められるのか<\/h2>
フェンタニル危機のような公衆衛生上の災害に対しては、本来、次のような地道な取り組みが問われます。<\/p>
- オピオイドの処方と販売のルールを見直し、過剰処方や誤用を防ぐこと<\/li>
- 規制の抜け穴をふさぎ、違法な製造・流通への取締りを強化すること<\/li>
- 薬物依存を生み出す社会・文化的な要因に向き合い、長期的に是正していくこと<\/li>
- 中国本土を含む各国・地域との協力を安定的に維持し、国際的な麻薬取引に共同で対応すること<\/li><\/ul>
国際ニュースとしてのフェンタニル危機は、単に米中対立の新たな火種という枠に押し込められがちです。しかし、関税で片付くほど単純な問題ではなく、米国自身の制度改革と、相手国との着実な協力という二つの軸が欠かせません。日本でこのニュースを追う私たちにとっても、貿易政策と公衆衛生を安易に結びつける議論にどんなリスクがあるのかを考えるきっかけになりそうです。<\/p>
Reference(s):
Tariffs as a solution to the fentanyl crisis? A misguided approach
cgtn.com








