6年で世界最大に 中国・広東・香港・マカオ大湾区
2018年に始まった中国の広東・香港・マカオ大湾区(Greater Bay Area, GBA)は、わずか6年で世界最大規模の湾岸経済圏へと成長しました。本稿では、その成長の背景にある都市連携、インフラ整備、制度改革を、日本語でわかりやすく整理します。
6年で世界最大の湾岸経済圏に
2018年に広東・香港・マカオ大湾区の発展計画の概要が公表され、2024年2月で6年を迎えました。この6年間で、大湾区は中国全体の国土面積の0.6%未満でありながら、国内総生産(GDP)の11%超を生み出す地域に成長しています。
経済規模は、計画公表当時の10.8兆元(人民元)から、2023年には14兆元を超える水準へと拡大しました。年平均成長率は5.5%で、東京湾岸地域を上回り、世界で最も経済規模の大きい「湾区」とされています。
こうした成長は、中国の地域経済戦略における新たなマイルストーンであり、一国二制度の枠組みの下で、広東省と香港、マカオが協調しながらイノベーションを進めてきた成果といえます。
深圳・広州・香港がけん引する「五都市連携」
大湾区の経済成長を押し上げているのは、深圳、広州、香港、東莞、仏山という中核5都市です。この「五都市連携」によって、域内の産業と人材、資本の循環が加速しています。
2023年の都市別の動きを見ると、深圳のGDPは3.46兆元に達し、中国で第3位となりました。広州も3.04兆元で第4位に位置づけられています。東莞と仏山も「1兆元クラブ」に加わり、香港と合わせて強力な都市ネットワークを形成しています。
- 深圳:ハイテク産業とイノベーションの中心
- 広州:商業・製造・サービスが集積する伝統的な中心都市
- 香港:国際金融・法務サービスを担うハブ
- 東莞・仏山:製造業の集積地としてサプライチェーンを支える
それぞれの都市が役割を分担しつつも、交通やデジタルインフラの整備によって、1つの巨大な都市圏として機能している点が特徴です。
「フロントショップ・バックファクトリー」から価値創造型へ
かつて大湾区は、「香港がフロントショップ(商業・サービス)、珠江デルタがバックファクトリー(製造拠点)」という役割分担で語られることが多くありました。しかしこの6年で、その姿は大きく変わりつつあります。
現在の大湾区は、「香港のサービス+深圳のイノベーション+珠江デルタの製造」というグローバルな価値創造の仕組みへと進化しています。単なる「世界の工場」ではなく、研究開発、デザイン、ブランド、サービスまでを一体化させた産業構造をめざしているのが特徴です。
珠江デルタ地域では、次のような8つの「1兆元級」産業クラスターの育成が進められています。
- 次世代電子情報
- スマート家電
- そのほか、先端製造やハイテク分野のクラスター
これらの産業クラスターが相互に連携することで、グローバルなサプライチェーンの中で高付加価値なポジションを狙う動きが強まっています。
香港・マカオのサービスが支える国際競争力
大湾区のもう一つの強みは、香港とマカオのサービス産業です。金融や法務などの高度なサービスが、広東省の製造業やイノベーション活動を支える役割を果たしています。
香港の越境金融や法務サービスは、国際ビジネスに必要な資金調達、契約、紛争解決などの面で、大湾区全体の産業チェーンを支える重要な基盤となっています。マカオも観光・サービス分野を中心に、地域の多様性と国際的なつながりを強化しています。
一国二制度のもとで異なる制度やルールを持つ都市が補完関係を築くことで、国内外の企業にとっても柔軟で多様な選択肢が生まれています。
インフラとルールの一体化が進む「1時間生活圏」
この6年間で、大湾区ではインフラ整備が飛躍的に進みました。香港・珠海・マカオを結ぶ橋や、深圳と中山を結ぶリンク道路といった大型インフラが完成し、主要都市間は「1時間生活圏」と呼ばれる移動時間で結ばれています。
空港群では、年間2億8,000万人以上の旅客処理能力を持つ体制が整いつつあり、港湾群では年間8,500万TEU(20フィートコンテナ換算)を扱う規模に達しています。アジアや世界の主要港湾との航路ネットワークが張り巡らされ、物流のハブとしての存在感も高まっています。
同時に、市場統合やルールづくりも前進しています。「香港・マカオ医薬・医療機器連結」や「越境金融コネクト」といった枠組み、さらに「大湾区標準」と呼ばれる183の共通基準の整備が進められてきました。
横琴、前海、南沙といったエリアでは、次のような制度面の実験も行われています。
- 横琴:研究開発と珠海での製造を組み合わせる「横琴R&D+珠海製造」モデル
- 前海:サービス産業と金融の開放を試みる先行エリア
- 南沙:海洋関連産業やハイテク産業の拠点形成
こうしたプラットフォームが、より高いレベルでの開放と制度イノベーションの「実験場」として機能しており、大湾区全体の国際化を後押ししています。
日本からどう見るか:アジア経済の新しい「実験場」
大湾区の動きは、中国経済だけでなく、アジア全体のサプライチェーンや金融ネットワークにも影響を与えつつあります。製造、デジタル、金融、法務サービスが一体となった巨大都市圏が、アジアの競争と協調の舞台になりつつあるからです。
日本の企業や投資家にとっても、大湾区は次のような観点から注目すべき地域だといえます。
- 高度な製造業とデジタル産業が集中する市場としての魅力
- 香港を通じた国際金融・法務サービスの活用可能性
- 物流・港湾ネットワークを通じたアジア各国・地域との連結
同時に、大湾区は「制度とルールをどのように調和させ、実験し、広げていくか」という点でも、アジアにとって重要な参考事例となりつつあります。都市間競争が激しくなるなかで、どのように協調し、共通ルールを整えていくのか――大湾区の経験は、今後の地域統合を考えるうえで、豊かな示唆を与えてくれます。
2018年から2023年までの6年間で、広東・香港・マカオ大湾区は「地域の連携」から「世界の注目を集める湾岸経済圏」へと歩みを進めてきました。2025年の今、その動向を冷静にフォローしつつ、自分たちのビジネスやキャリア、社会のこれからをどう描くのかを考えるきっかけにしてみてはいかがでしょうか。
Reference(s):
China's Greater Bay Area: From regional synergy to global prominence
cgtn.com








