ウクライナ和平を巡る米露サウジ会談:排除された当事者と揺れる欧州
最近サウジアラビアで行われたアメリカとロシアの代表団によるウクライナ和平協議を巡る初の対話が「うまくいった」と伝えられる一方で、当事国ウクライナと欧州の同盟国の間に強い懸念を呼んでいます。ウクライナ抜き、欧州抜きで進むかに見えるこのプロセスは、今後の戦争終結のかたちを大きく左右しそうです。
サウジで始まった米露対話 なぜ当事者不在なのか
今回の協議は、サウジアラビアを舞台に、アメリカとロシアの代表団がウクライナ和平について意見交換を行ったものです。アメリカ側の説明では、初回の対話は「順調に進んだ」とされています。
しかし、この場にウクライナも、北大西洋条約機構(NATO)諸国を中心とする欧州の主要国も参加していませんでした。まさに自国の運命がかかる和平プロセスから外されたウクライナと欧州では、落胆と不信感が広がっています。
アメリカはその後、協議の位置づけをやや抑えて説明しています。マルコ・ルビオ国務長官は、今回の対話について「会話の始まりに過ぎず、今後も多くの作業が必要だ」と述べ、最終的な和平案を詰める場ではなかったと強調しました。それでも、当事者抜きで大国同士が話を進め始めたという事実自体が、欧州とウクライナの警戒心を強めています。
トランプ政権の狙い:迅速な終戦とアメリカ・ファースト
今回の動きの背景には、ドナルド・トランプ大統領の一貫した考え方があります。選挙戦の頃から、大統領は「ウクライナでの戦争を24時間以内に終わらせることができる」と繰り返し主張してきました。
トランプ氏は、ウクライナやガザでの戦闘を含む海外での軍事介入や、いわゆる「終わりなき戦争」は、アメリカの資源を浪費し、尊い人命を失わせるものだと見なしています。自らのアメリカ・ファースト路線を本格的に実現するためには、
- アメリカ国内の製造業を強化すること
- 国境の安全確保と、場合によっては国境線の拡大を目指すこと
- その前提として、ウクライナやガザなど大規模な紛争をできるだけ早く終わらせること
が不可欠だと考えているとされます。すでに2期目に入っているトランプ大統領は、残された任期と自身のレガシー(政治的遺産)を強く意識し、ウクライナとガザの二つの紛争解決を大きな成果として残そうとしているように見えます。
こうした方針のもとで、大統領はJ.D.・ヴァンス副大統領、マルコ・ルビオ国務長官、ピート・ヘグセス国防長官に対し、和平協議を急ぐよう指示したとされています。
ヤルタを想起させる二国間アプローチ
とりわけ論争を呼んでいるのは、トランプ政権が採ろうとしている「二国間」での解決アプローチです。ウクライナ問題について、アメリカとロシアが中心となって話をまとめ、その結果をウクライナや欧州に提示するという構図は、第二次世界大戦終結時のヤルタ会談を思い起こさせます。
ヤルタ会談は、戦後の欧州地図を大国同士が描き直した歴史的な転換点でした。今回も、アメリカがウクライナ側、そしてより広い欧州の代表として交渉役を担い、当事者である国々を交渉の場から事実上遠ざけているという批判が出ています。
この結果、和平の議論が「当事者不在のまま進むのではないか」という懸念が、ウクライナと欧州の双方で高まっています。
ウクライナと欧州の反発:「私たち抜きの合意は認めない」
ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領は、「私たち抜きで、私たちに関するいかなる物事や合意も認めることはできないし、そのような合意を承認することはない」と強い言葉で反発しました。自国の領土や安全保障に関わる合意を、第三者が決めてしまうことへの強い拒否感がにじみます。
欧州側の不満も深刻です。ヴァンス副大統領が「欧州の安全保障にとって最大の脅威は『内なる敵』だ」と述べたことは、多くの欧州首脳にとって「説教」と受け止められました。これを受け、欧州の首脳らは急きょパリに集まり、安全保障会議を開いて対応を協議しました。
ウクライナ戦争が始まって以来、欧州諸国は軍事支援や経済制裁、避難民の受け入れなど、多大な負担を背負ってきました。にもかかわらず、和平の枠組み作りから外されるのであれば、欧州の安全保障は他人によって決められてしまうことになります。このことが、アメリカとの信頼関係にも影を落としかねません。
正統性とスピードのジレンマ:持続的な和平は可能か
トランプ政権のアプローチには、表向きは「迅速な終戦」という明確なメリットがあります。大国同士が一気に枠組みを決めれば、戦闘は短期間で終わるかもしれません。
しかし、ウクライナと欧州が交渉の中心から外されたまま合意がまとまったとしても、その合意はどこまで正統性を持ちうるのでしょうか。当事者の理解や同意が不十分な和平は、後になって不満や対立を再燃させるリスクも抱えます。
また、欧州の安全保障秩序は、冷戦終結以降、主権や領土の一体性を尊重する原則の上に築かれてきました。大国間の取り引きによって国境線や勢力圏が調整されるような形で戦争が終わるとすれば、その原則そのものが揺らぎかねません。
これから何が起こりうるのか:読者が注目すべきポイント
ルビオ国務長官が述べたように、サウジでの対話は「会話の始まり」にすぎないとされています。今後の展開としては、例えば次のようなシナリオが考えられます。
- アメリカとロシアの対話に、ウクライナや主要な欧州諸国が段階的に参加し、より包摂的な和平プロセスへと発展していく。
- アメリカとロシアが大枠の合意を先に形成し、それを事後的にウクライナと欧州に受け入れるよう迫る形になる。
- ウクライナと欧州の強い反発により、現在の枠組みでは交渉が行き詰まり、別の形の国際会議や枠組みが模索される。
いずれの道筋を取るにせよ、
- ウクライナの声がどこまで交渉に反映されるのか
- 欧州がどのような形で安全保障上の役割を維持しようとするのか
- トランプ政権がアメリカ・ファーストと同盟国との関係をどう両立させるのか
といった点が、今後の国際ニュースを読み解くうえで重要な観点になりそうです。
ウクライナ戦争の行方だけでなく、アメリカと欧州の関係、さらには戦後の国際秩序のあり方まで問われている今回のサウジでの米露対話。スピードを優先するのか、当事者の参加と正統性を重視するのか――世界は難しい選択を迫られています。
Reference(s):
U.S. approach to Ukraine peace talk sparks controversy and uncertainty
cgtn.com








