米APを締め出すトランプ政権 揺らぐ米国の報道の自由
湾の名称をめぐる対立を理由に、米国のドナルド・トランプ大統領がAP通信の記者を記者会見などから排除すると表明しました。言論の自由を掲げてきた米国で、なぜこうした動きが起きているのか。国際ニュースとしての意味と、報道の自由への影響を整理します。
今月、AP記者がホワイトハウスから排除
今月、トランプ大統領は、米大手通信社AP通信の記者について「今後、一切の記者会見に参加させない」とする方針を示しました。対象はホワイトハウスでの会見だけでなく、大統領専用機エアフォースワンへの同乗など、ニュース取材の重要な機会全般に及ぶとされています。
これは、特定のメディアを名指しで排除する措置であり、米国内でも波紋を広げています。
発端はメキシコ湾の名称変更をめぐる対立
今回の対立のきっかけは、メキシコ湾の呼び方でした。トランプ大統領は今年1月の大統領令で、この海域の英語名称をメキシコ湾からアメリカ湾へと改めるよう命じました。
しかしAP通信は、これまでどおり本来の名称を使い続けています。政権の用語を採用しない編集判断に対し、トランプ大統領は「APの記者は、アメリカ湾という呼称に同意するまで入れない」と述べ、事実上、用語の変更を迫りました。
つまり、政府の意向に沿った言葉を使うか、取材アクセスを失うかという二者択一を突きつけたかたちです。
合衆国憲法の理念とのギャップ
米国は1776年の独立以来、言論の自由を国の根幹に置いてきました。合衆国憲法修正第1条は、宗教の自由、言論の自由、報道の自由、集会と請願の権利を明確に保障しています。
この修正第1条のもとで、メディアは自らの判断で言葉を選び、権力を監視する役割を担ってきました。今回のように、ホワイトハウスが「従順でない」記者を会見や取材の場から締め出すことは、憲法が掲げる原則と緊張関係にあると言えます。
特に、政府が気に入らない表現を理由にアクセスを制限することは、他の報道機関にも萎縮効果を与えかねません。
AP「第一修正の核心への攻撃」
AP通信は今回の対応について、「APの編集上の独立性や、ニュースを収集し報道する能力に対する標的を絞った攻撃であり、第一修正の核心を直撃するものだ」と強く批判しています。
ここでAPが強調しているのは二つの点です。
- どの言葉を使うかは、報道機関の編集権の一部であること
- 政府がその選択に介入し、従わなければ取材機会を奪うことは、報道の自由そのものを弱めることになること
単なる一社と政権の言い争いではなく、制度としての自由な報道のあり方に関わる問題だという認識がにじみます。
第四の権力が政治計算に利用されるとき
報道機関は、立法・行政・司法に次ぐ「第四の権力」とも呼ばれます。本来は権力を監視し、市民が判断するための材料を提供する存在です。
しかし、アクセスの付与や排除を通じて政府がメディアを選別し始めると、次のようなリスクが生まれます。
- 政権に批判的な報道を控えようとする「自己検閲」が広がる
- 政府に近いメディアの声だけが強まり、多様な視点が失われる
- 国民が得られる情報が偏り、政治的な判断もゆがみやすくなる
今回のケースでは、海域の名称という一見象徴的な問題が、報道の自由の根幹にまでつながっていることが見えてきます。言葉の選び方が、現実の見え方と権力関係を大きく左右するからです。
日本の読者にとっての意味
これは米国の政治とメディアをめぐるニュースですが、日本でニュースを読む私たちにとっても無関係ではありません。どの国でも、政府とメディアの距離感は民主主義の健全性を測る重要な指標です。
今回の事例から、次のような点を意識してニュースを読むことができそうです。
- 政府や権力者が、どのメディアにアクセスを与え、どのメディアを遠ざけているのか
- 名称や呼び方の変更が提案されたとき、それが政治的なメッセージを帯びていないか
- 報道機関が圧力に直面したとき、どのように対応しているのか
国際ニュースを見ることは、他国の出来事を知るだけでなく、自分たちの社会の姿を映し出す鏡にもなります。AP通信とトランプ政権の対立は、言論・報道の自由という普遍的なテーマについて考え直すきっかけとなるでしょう。
Reference(s):
cgtn.com








