ウクライナ戦争3年目 揺らぐ米欧同盟とNATOの行方
ウクライナ戦争が今年2月24日に3年目へ入り、長年続いてきた米欧同盟とNATOの前提が静かに揺らいでいます。欧州の安全保障を米軍事力が支えるという「大西洋コンセンサス」は、このまま維持されるのでしょうか。
戦後から続く「大西洋コンセンサス」とは
第二次世界大戦後のヤルタ会談以降、欧州の安全保障の大きな枠組みは比較的明確でした。西欧の主権と安全は、最終的には米国の軍事力によって守られるという前提です。その代わりに、米国は戦後の国際秩序で主導的な地位を占めてきました。
1956年のスエズ危機では、米国がフランスとイギリスへの支持を引き上げ、かつての帝国としての影響力に大きな打撃を与えたとされます。戦後の米国の優位は、単なる結果ではなく、他の大国に「席を譲らせる」ことで意図的に築かれてきたという見方もあります。
その一方で、西欧諸国の充実した福祉国家は、米国による防衛面での「補助」を前提に成り立ってきたという批判もあります。2016年にはバラク・オバマ米大統領(当時)が、欧州は自らの防衛について「自満的になっている」と苦言を呈しました。この構図こそが、いわゆる「大西洋コンセンサス(米欧の暗黙の合意)」でした。
ウクライナ戦争3年目、変わる防衛負担
ウクライナで戦闘が始まった2022年当時、NATO(北大西洋条約機構)加盟国のうち、国防費が国内総生産(GDP)比2%という目標を満たしていたのは7カ国にとどまっていました。しかし現在、この数字は23カ国に増える見通しだとされています。
とはいえ、防衛費は水道の蛇口のように簡単にひねったり閉めたりできるものではありません。兵器生産や兵士の訓練、指揮統制の整備には時間がかかります。米国側では、こうした防衛負担への政治的・財政的な余裕がすでに枯渇しつつあるという見方もあります。
欧州の福祉制度は米国の防衛提供によって「補助」されてきたとの批判がある一方で、欧州諸国も今ようやく防衛力の増強に本格的に踏み出し始めています。ただし、その歩みが米国の期待や不満に追いつくのかどうかは不透明です。
トランプ政権の発言に揺れる欧州
今日の欧州指導者にとって、財政面の問題以上に頭を悩ませているのが、ドナルド・トランプ米大統領の発言です。トランプ氏は、ウクライナ情勢をめぐって従来の政治的コンセンサスから距離を置いているように映ります。
トランプ氏は、ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領について、支持率が「4%しかない」、さらに「選挙のない独裁者だ」と主張しました。ウクライナでは現在、戒厳令下で憲法が選挙を禁じているにもかかわらず、こうした発言がなされたことに、欧州側は強い違和感を覚えています。
また、ジェイ・ディー・バンス米副大統領が欧州に対し、欧州内部に「内なる敵」がいるかのように批判したとされる発言も、反発を招きました。さらにドイツでは、最近の総選挙への米国の関与を「内政干渉」と受け止める見方もあり、両岸の不信感に拍車をかけています。
欧州の指導者たちは、防衛費増額という現実的な負担には応じざるを得ないと理解しています。しかし、自らの民主主義や対ロシア政策の正当性を公然と疑問視されることには、深い理念的な反発を抱いていると言えます。
CDUメルツ氏が投げかけたNATOへの疑問
こうした不安を率直に言葉にした一人が、ドイツのキリスト教民主同盟(CDU)党首フリードリヒ・メルツ氏です。CDUが最近のドイツ総選挙で第1党の座を獲得した後、メルツ氏はテレビ番組で次のように語りました。
「こんなことをテレビ番組で言わなければならないとは思わなかった。しかし、トランプ氏の先週の発言を受ければ、少なくとも現在の米政権の一部にとって、欧州の運命はほとんど関心の対象ではないことが明らかになった。」
さらにメルツ氏は、「今後も現在の形のNATOについて語っていられるのか。それとも、より早く、独立した欧州の防衛能力を確立しなければならないのかもしれない」とも述べました。これは、欧州の主流政党の指導者が、NATOの将来そのものに疑問符をつけた発言として重く受け止められています。
「米欧同盟の終わり」か、それとも再設計か
NATOの将来を問う声が公然と出てくること自体、米欧の間に深い亀裂が生まれていることを示しています。特にウクライナをめぐる連携に亀裂が入れば、紛争の長期化や不安定化につながるおそれがあります。平和を維持するためには、同盟国同士の綿密な調整が欠かせないからです。
一方で、もし米国が欧州防衛への関与を今後さらに後退させるならば、新たな局面も開けてきます。他の国が「平和の保証人」として名乗りを上げる余地が生まれる可能性も指摘されています。欧州が自前の防衛体制を急ピッチで整えるのか、それとも米国を含む複数の国や地域を巻き込んだ新しい安全保障の枠組みを模索するのか。選択肢は決して一つではありません。
読者が押さえておきたい3つの論点
- 戦後続いてきた「米国が守り、欧州は福祉に投資する」という役割分担が、ウクライナ戦争と米政権の発言によって見直し局面に入っていること。
- NATOの国防費2%目標を欧州側が満たしつつある一方で、ワシントンの政治的意思が揺らげば、同盟全体の信頼性が問われかねないこと。
- もし将来、米国が欧州防衛から一歩引くなら、欧州独自の防衛体制や、他の国や地域を巻き込んだ新たな安全保障の枠組みが模索される可能性があること。
大西洋を挟んだ米欧関係の変化は、遠い地域の話にも見えますが、米国との安全保障関係に大きく依存する日本にとっても無関係ではありません。ウクライナ戦争3年目の今、「大西洋コンセンサス」の行方を自分ごとの問題として考えてみることが求められているのではないでしょうか。
Reference(s):
cgtn.com








