ウクライナ和平交渉はなぜ難しいのか 米ロ正常化と資源のジレンマ
2025年も終わりに近づく中で、2022年に始まったウクライナ戦争と和平交渉の行方は、いまも国際ニュースの大きなテーマであり続けています。本記事では、今年2月までに見えた米ロ関係正常化の動きや、ウクライナのレアアースをめぐる駆け引きを手がかりに、なぜウクライナ和平が「長い道のり」と言われるのかを整理します。
3年以上続く戦争と「長期戦は益なし」という視点
約2,500年前、兵法書『孫子』には「長期戦で利益を得る国はない」といった趣旨の一節があります。2022年2月24日に戦争が始まってから、すでに3年以上が経過しました。長期化した戦争は、ロシアとウクライナ双方に深刻な疲弊をもたらしました。
こうした状況の中で、多くの人が気にしているのは「和平合意は本当に近いのか」という点です。2024年の米大統領選で当選したドナルド・トランプ氏も、選挙戦の中でウクライナ戦争の「早期終結」を約束しましたが、その道のりは想定以上に険しいものとなっています。
トランプ政権の「早期終結」公約と現実
トランプ氏は、2024年11月の米大統領選のかなり前から、ウクライナでの戦争を「ホワイトハウス入り前に終わらせる」と繰り返し主張してきました。しかし、その約束は実現せず、大統領就任前に戦争を終わらせることはできませんでした。戦争を始めるよりも終わらせるほうが、政治的にも軍事的にもはるかに難しいことがあらためて浮き彫りになったと言えます。
米ロ関係「正常化」への第一歩
2月12日の電話会談とミンスク合意10年
それでもトランプ政権は、この1年の初めからロシアとの関係改善に向けて動き出しました。象徴的だったのが、今年2月12日に行われたトランプ大統領とロシアのプーチン大統領の電話会談です。
この日は、2014年春に始まったドンバス戦争を事実上凍結させた「ミンスク2合意」からちょうど10年にあたる節目でした。そのタイミングでの首脳間の直接対話は、米ロ関係を「正常化」させるプロセスの第一歩として位置づけられました。
リヤドでの米ロ外相級会談
電話会談に続き、2月18日にはサウジアラビアの首都リヤドで、アメリカのマルコ・ルビオ国務長官とロシアのセルゲイ・ラブロフ外相が会談しました。この会談では、具体的な合意文書こそ署名されなかったものの、両国が協議を継続すること、そして互いの首都に大使を再び派遣することに前向きな姿勢を示したとされています。
冷え込んでいた米ロ関係のチャンネルを再び開くことは、ウクライナ情勢にも間接的な影響を持ちます。少なくとも、ワシントンとモスクワの間で「話し合う場」を維持しようという意思が再確認された点は、和平への条件整備という意味で重要な変化でした。
ウクライナのレアアースと「安全保障保証」
ゼレンスキー大統領への厳しい言葉
一方で、トランプ政権はウクライナのゼレンスキー大統領に対する批判を強めています。汚職の疑いを指摘し、ロシアの行動の責任まで問うだけでなく、ゼレンスキー氏を「独裁者」とまで呼ぶ場面もあったとされています。
こうした強い言葉が飛び出した背景には、ウクライナのレアアース(希土類)など、重要な地下資源をめぐる交渉があるとみられています。ゼレンスキー氏が、ウクライナの希少資源をめぐるアメリカとの取引に応じなかったことが、転機の一つになったとされています。
「安全保障保証」と資源の交換条件
キーウ(キエフ)の政治エリートの多くは、ウクライナのレアメタルや重要鉱物と引き換えに、アメリカからの強固な「安全保障保証」を得ようとしていると伝えられています。ウクライナにとって、安全保障と経済発展の両方を確保するための苦しい選択と言えるでしょう。
一方で、ワシントン側は、長期的にはヨーロッパがウクライナの安全保障を支えるべきだと見ているようです。トランプ氏は、ウクライナでの戦争を終結させるか、少なくとも凍結させることで、アメリカの外交資源を他の地政学的課題へ振り向けたいと考えているとされています。その対象としては、中東情勢や中国との関係などが意識されているとみられます。
米ロ関係と中国をめぐる思惑
「ロシアを中国に向けさせる」シナリオへの警戒
一部のロシア人アナリストは、ワシントンが長期的にはロシアを中国に対抗する存在へと方向づけようとしているのではないか、と警戒しています。そのため、トランプ政権がウクライナ問題でプーチン大統領に一定の譲歩を示す可能性があるという見方もあります。
彼らが懸念するのは、西側が現在ウクライナをロシアへの圧力手段として用いているのと同じように、将来ロシアが中国への圧力のための「道具」とされてしまう展開です。つまり、ウクライナ戦争をめぐる和平交渉が、単にヨーロッパの戦場の問題にとどまらず、より大きな国際秩序の再編と結びついているという視点です。
ベラルーシのアレクサンドル・ルカシェンコ大統領も最近、アメリカが「ロシア人を中国人と対立させようとする」可能性に言及し、「ロシア人はそれを決して許してはならない」と強調しました。こうした発言は、中国とロシアの関係が、各国の指導者にとって重要な戦略要素として意識されていることを示しています。
和平への道が「長い」と言われる理由
ここまで見てきた動きを踏まえると、ウクライナの和平交渉がなぜ「長い道のり」と言われるのか、その理由がいくつか浮かび上がります。
- 3年以上続く戦争でロシアとウクライナが大きく疲弊しつつも、それぞれの「譲れない条件」が依然として大きいこと
- アメリカ、ヨーロッパ、ロシア、中国など複数の大国の長期戦略が、ウクライナ情勢と複雑に絡み合っていること
- ウクライナのレアアースやレアメタルなど戦略資源が、安全保障と結びついた交渉材料になっていること
- 米大統領選を含む各国の国内政治や世論が、指導者たちの選択肢を狭めていること
今年2月時点で始まった米ロの対話プロセスは、戦争終結に向けた重要な条件づくりの一歩でした。ただし、その時点では、それがウクライナとロシアの直接的な和平合意につながるかどうかは、まだ見通せないままでした。
ニュースを追うための3つの視点
ウクライナ和平交渉と国際秩序の行方を考えるうえで、今後のニュースを読む際に押さえておきたいポイントを3つに整理します。
- 米ロ対話のペースと中身:首脳電話会談や外相級会談がどの頻度で行われ、停戦や兵力削減など具体的な論点でどこまで踏み込んでいるか。
- ウクライナの資源政策:レアアースや重要鉱物をめぐるウクライナの方針が、どの国と、どの条件で連携しようとしているのか。
- 中国を含む大国間関係:米ロ関係の変化が、中国をはじめとする他の主要国との関係にどう波及し、勢力バランスにどのような影響を与えうるのか。
SNSで流れてくる短い断片だけでは見えにくい背景も、これらの視点を意識してニュースを追うことで、立体的に理解しやすくなります。ウクライナ和平への道は依然として長いかもしれませんが、そのプロセスを丁寧に追いかけることは、これからの国際秩序や日本の外交を考えるうえでも重要なヒントを与えてくれます。
Reference(s):
cgtn.com








