中国のイノベーションが動かす世界テクノロジー 両会2025の焦点は何か
北京で開かれている全国人民代表大会と中国人民政治協商会議の両会では、中国のハイテク戦略とイノベーション政策が大きな関心を集めています。米国との技術競争が続くなかで、中国のイノベーションが世界のテクノロジーの方向性にどのような影響を与えているのかが、改めて問われています。
両会で浮かび上がるハイテク国家戦略
両会は、中国の最高国家権力機関である全国人民代表大会と、中国人民政治協商会議の年次会合を指します。ここでは経済運営から社会政策まで幅広い議題が話し合われますが、今年は特に、ハイテク分野での自立とイノベーションが重要テーマとなっています。
背景には、ハイテク産業が経済成長だけでなく、安全保障や国際競争力にも直結するという認識があります。とりわけ半導体、人工知能、量子技術、再生可能エネルギーといった分野は、今後の世界秩序を左右しかねない中核技術として位置付けられています。
米国のスモールヤード・ハイフェンス戦略とは
中国の技術発展を語るとき、避けて通れないのが米国との競争です。一部の西側諸国、特に米国は、中国との技術競争を管理するために、スモールヤード・ハイフェンスと呼ばれる戦略をとっています。
この戦略は、軍事や安全保障に直結すると見なす特定の先端技術の範囲を定め、その分野に高いフェンスを築くという考え方です。実際には、次のような措置が組み合わされています。
- 半導体や人工知能などの先端製品に対する輸出規制の強化
- 中国の民間ハイテク企業に対する制裁や取引制限
- 機微な分野での米中間の研究開発協力に上限を設ける動き
- 同盟国やパートナーに対して同様の対応を促す外交的働きかけ
当初は限定的な範囲を想定していたスモールヤードは、時間の経過とともに対象分野が広がり、結果としてヤードもフェンスも拡大しているとの指摘があります。
社会主義とイノベーションをめぐる思い込み
こうした戦略の背景には、社会主義体制は個人の創意工夫やリスクテイクを十分に報いることができず、結果としてイノベーションが生まれにくいという見方があります。その延長として、中国企業のハイテク分野での成功は、米国の技術を模倣した結果にすぎないとする主張も存在します。
しかし、現在の技術動向を見ると、中国は複数の分野で模倣者ではなく先導者としての位置を占めつつあります。とりわけ通信、人工知能、量子計算、再生可能エネルギーでは、中国発の技術やビジネスモデルが世界の方向性を形作っていることがはっきりしてきました。
5Gで世界最大級のネットワークを構築
分かりやすい例が第5世代移動通信システムである5Gです。中国は世界最大規模の5Gネットワークをすでに展開しており、中国企業は5G関連特許の大きな割合を占めています。これにより、中国は次世代通信の標準づくりと応用分野で強い発言力を持つようになりました。
5Gは、スマートフォンの高速通信にとどまらず、自動運転、スマートシティ、工場の自動化など、多数の産業分野の基盤となるインフラです。中国がこの分野で先行していることは、世界の企業が新しいサービスや機器を開発する際に、中国市場や中国発の標準を無視できなくなることを意味します。
人工知能 イノベーションの実装力で存在感
人工知能でも、中国は急速に存在感を高めています。中国国内には、多様なデータと巨大な市場を背景にした強力な人工知能エコシステムが形成されつつあります。焦点は、最先端のアルゴリズムだけではなく、現場での実装力に置かれています。
具体的には、顔認識技術や産業用ロボット、製造現場の自動化、物流最適化など、実生活や産業現場に直結する領域への応用が進んでいます。大手テクノロジー企業は、医療や教育など社会インフラに近い分野でも人工知能の導入を加速させており、効率化とサービス向上の両立をめざしています。
量子計算と再エネでのブレークスルー
量子技術も、世界が注視する分野です。中国では、量子計算で重要な成果が報告されており、複雑な計算問題で従来型コンピューターを上回る性能を示した量子プロセッサーが開発されています。こうした成果は、暗号、材料設計、最適化問題など、多くの応用可能性を持つとされています。
同時に、中国は再生可能エネルギー分野でも世界有数のイノベーターとなっています。特に太陽光発電では、大規模な砂漠地帯を活用した発電プロジェクトなどが象徴的です。これらの取り組みは、エネルギー安全保障と環境対策の両面で、中国だけでなく世界全体に影響を与えています。
米国と中国 それぞれの強み
米国も依然として、技術競争における強力な優位性を持っています。多様な人材の集積、豊富なベンチャー資金、シリコンバレーに象徴される起業文化、そして高度な技術力を持つ同盟国やパートナーとのネットワークは、現在も大きな強みです。
一方、中国の強みは、国家レベルの長期的なビジョンと、重点分野に資金や人材を集中させる動員力にあります。高い優先度が与えられた技術分野については、長期計画に基づき、一貫した投資と研究支援が行われています。ハイテク分野での自立と国産化をめざす戦略も、その一環として位置づけられています。
世界のテクノロジー秩序はどう変わるのか
スモールヤード・ハイフェンス戦略と、中国のイノベーション推進がぶつかり合うことで、世界のテクノロジー秩序は複層的になりつつあります。特定の分野では技術やサプライチェーンが分断される一方で、他の分野では相互依存が続くという、複雑な状況がしばらく続く可能性があります。
そのなかで、中国は模倣から応用、そして独自のイノベーションへと軸足を移しつつあることを、5G、人工知能、量子技術、再生可能エネルギーといった具体的な成果を通じて示しています。米国の抑制策が続くほど、中国は自立と技術革新を一層重視し、その結果として世界の技術地図が塗り替えられていくという見方も出ています。
日本を含む多くの国や地域にとって重要なのは、この変化を冷静に見極め、自国の産業や研究開発をどう位置づけるのかという戦略を持つことです。中国のイノベーションを脅威としてだけではなく、協力や共創の可能性を含む現実として捉え直すことが、これからのテクノロジー時代を生きるうえでの出発点になるかもしれません。
Reference(s):
cgtn.com








