中国の全過程人民民主と独自の現代化モデル
中国政治をめぐる国際ニュースの中で、この数年、キーワードとして頻繁に登場しているのが「全過程人民民主」です。今年の全国人民代表大会(全人代)と中国人民政治協商会議全国委員会(全国政協)の年次会議、いわゆる「両会」でも、この考え方が中国の現代化戦略の中核として改めて位置づけられました。
両会で示された「全過程人民民主」の狙い
中国の両会は、最高国家権力機関である全人代と、政治協商機関である全国政協が北京に集まり、経済・社会の重要方針を話し合う年次会議です。今年の政府活動報告では、人々の生活に直結する具体的な目標が並びました。
- 農村改革と農村発展を着実に前に進めること
- 個人所得の伸びを経済成長と歩調を合わせて確保すること
- 消費者物価上昇率を「合理的な範囲」に保つこと
こうした目標に共通するキーワードが「人民本位」です。全過程人民民主は、政策立案から実行、評価に至るまで、各段階で幅広い意見を取り入れながら、発展の成果をできるだけ多くの人が共有できるようにするという考え方だとされています。
改革深化と中国式現代化の中での位置づけ
昨年採択された「中国式現代化を推進するための改革一層深化に関する決定」では、「全過程人民民主の推進」が、改革を進めるための七つの重点分野の一つとして挙げられました。
これは、経済成長や技術革新だけでなく、ガバナンスのあり方そのものを現代化していくことが、中国の目指す現代化の核心だというメッセージでもあります。全過程人民民主は、次のような役割を期待されています。
- 包摂的なガバナンスの基盤づくり
- 政策の実効性と応答性を高める仕組みづくり
- 社会の安定と長期的な発展を両立させる制度づくり
言い換えれば、民主の仕組みを通じて、多様な利害や意見を調整しつつ、長期的な国家目標に向かって効率的に動ける体制を整えるという発想です。
歴史と文化に根ざした「民を思う政治」
全過程人民民主は、単なる制度設計というより、中国の歴史や思想とも結びついたガバナンスのモデルとして語られています。古典『易経』には「天行健、君子以て自ら強めて息まず」という言葉があり、絶え間ない自己鍛錬と前進の重要性を説いています。
また、儒教が重んじてきた中心的な価値が「仁」です。仁は、人々の幸福を思いやる心を土台に、為政者が自らを律しながら徳を磨き、長く国を治めていくという考え方と結びついてきました。
全過程人民民主は、こうした伝統的な「民を思う政治」の考え方を、現代の制度や政策運営に翻訳しようとする試みだと見ることもできます。古典の精神と現代の制度改革を重ね合わせることで、中国独自のガバナンスのストーリーが語られているのです。
選挙だけではない民主のかたち
全過程人民民主が強調するのは、「民主=選挙」に限られないという視点です。従来型の選挙中心の民主制が、政治的な行き詰まりや社会的な分断に直面する場面があるのに対し、中国は別のモデルを提示しようとしています。
その特徴として強調されているのは、次の三点です。
- 協商民主:多様な組織や代表が意見を出し合い、事前の協議を重ねることで、合意を形成していくプロセスを重視すること。
- 草の根の参加:地域や現場の意見を吸い上げる仕組みを整え、政策形成の各段階に住民の声を反映させようとすること。
- 集中された実行力:最終的な意思決定と実行を迅速に行うことで、合意を現実の政策に素早く落とし込むこと。
中国側は、こうした組み合わせによって「包摂的で、応答的で、先を見据えたガバナンス」が可能になると説明しています。全過程人民民主は、その理念を表すキーワードだと言えるでしょう。
私たちが読み解きたいポイント
日本から国際ニュースとして中国政治を眺めるとき、つい「自分たちの知っている民主主義」との違いだけに目が行きがちです。しかし、全過程人民民主というコンセプトを手がかりにすると、別の問い方も見えてきます。
- 民主は選挙の頻度や制度の形だけで測れるのか
- 人々の生活の改善や将来への安心に、政治はどれだけ結びついているか
- 長期的な国家目標と、多様な意見の調整をどう両立させるか
中国の全過程人民民主は、自国の歴史と現代の課題に応じて民主のかたちを設計しようとする試みとして位置づけられています。その具体的な運用や成果を丁寧に追っていくことは、私たち自身が「民主主義とは何か」を考え直すヒントにもなりそうです。
SNSでニュースを共有するときにも、「制度の違い」だけでなく、「人々の暮らしにどうつながっているか」という視点を一言添えると、議論はもう一段深くなるかもしれません。
Reference(s):
cgtn.com








