中国映画で旅する中国と世界 トリニダード・トバゴ大使の視点
中国映画を通じて、中国と世界を「旅」するような体験が広がっています。カリブ海の国トリニダード・トバゴの駐中国大使、アナリサ・ロウ氏のまなざしから、その面白さと意味をたどります。
アニメ超大作『哪吒2』が映す新時代の中国映画
ロウ大使は最近、アニメ映画『哪吒2(Ne Zha 2)』を鑑賞し、その完成度に驚かされたといいます。古典的な中国の神話を下敷きにしながら、ハイレベルなアニメーションと鮮やかな映像表現で、新しい世代の観客にも届く物語として再構成しているからです。
観客はスクリーンを通じて、現実から離れた神話世界へと運ばれます。見慣れない風景や文化、価値観に触れながらも、登場人物が抱える葛藤や家族への思いには共感できる――そんな体験が、国境を越えて共有されているとロウ大使は感じています。
香港カンフー映画が開いた「海の向こうの中国」
ロウ大使にとって、中国への最初の入り口は子ども時代に観た香港のカンフー映画でした。1980〜90年代、トリニダード・トバゴでは香港映画が大流行し、ブルース・リー、ジャッキー・チェン、ジェット・リーといったスターの名前は、どの家庭でも知られていたといいます。
同国には歴史の長い華人コミュニティがあり、ロウ大使自身もその一員ですが、多くの人にとって中国はなお「遠い国」でした。カンフー映画は、海の向こうにある文化や言葉、生活様式を初めて視覚的に感じさせてくれる窓のような存在だったのです。
『ムーラン』と『グリーン・デスティニー』が広げた中国像
その後、ウォルト・ディズニーの『ムーラン』や、アカデミー賞を受賞した『グリーン・デスティニー(Crouching Tiger, Hidden Dragon)』といった作品が登場し、ロウ大使の世代はさらに中国の物語に魅了されていきました。
こうした作品は、中国を舞台にしながらも世界市場で大きな成功を収め、海外の観客が中国の歴史や美意識に触れるきっかけとなりました。同時に、中国国内ではすでに長い歴史を持つ映画産業が、自らの視点で「自国の物語」を語り続けてきたことも、ロウ大使は強調します。
大使として出会った「スクリーンの外側」の中国
駐中国大使に就任してから、ロウ氏はこれまで映画やドラマでしか見たことのなかった場所を実際に訪れる機会を得ました。農村の小さな村から、大都市のにぎやかな街並み、歴史的な遺跡まで、広大な中国各地を歩いてきたといいます。
そこで出会ったのは、海外メディアの報道からはなかなか見えてこない、「生活者」としての中国の姿でした。さまざまな出身や職業を持つ人々が、それぞれの幸福を追い求めながら、現代的な中国文明を築いていく。その日常にふれることは、大使としてだけでなく、一人の観客としても大きな発見だったとロウ氏は述べています。
映画が教えてくれる、違いよりも大きな共通点
ロウ大使は、「優れた映画は、私たち人間が家族としてどれだけ共通点を持っているかを思い出させてくれる」と語ります。文化や言語、宗教が異なっても、親子の葛藤や友情、正義や勇気へのあこがれといった感情は、どの社会にも共通しているからです。
中国映画は、その物語と感情を通じて、カリブ海のトリニダード・トバゴと中国という、地理的には遠く離れた地域をつないでいます。2025年の今、映画は外交やビジネスとは別のレベルで、人と人との距離を縮める「ソフトな架け橋」としての役割を担っていると言えるでしょう。
日本の視聴者へのヒント:中国映画で「旅」をしてみる
日本にいる私たちにとっても、中国映画は手軽に世界とつながるための入り口になりえます。ロウ大使の経験を踏まえると、次のような見方が参考になりそうです。
- 神話や古典を題材にした作品から、中国の物語世界や価値観に触れてみる
- 農村や地方都市を舞台にした作品を選び、多様な暮らしや風景を意識して見る
- 子どもの頃から親しまれてきた香港映画やハリウッド作品と、中国で制作された作品を見比べ、描き方の違いを楽しむ
一本の映画から見える世界は限られていますが、複数の作品を通じて眺め直すことで、ステレオタイプを越えた豊かなイメージが育っていきます。スクリーンの中の中国と、現実の中国。その両方を行き来する「映画の旅」を、次の週末に始めてみてはいかがでしょうか。
Reference(s):
cgtn.com








