米国関税ショック:トランプ流保護主義が市場急落を招いたワケ
米国株式市場で3月10日に発生した大規模な急落は、単なる調整ではなく、トランプ米大統領による関税強化と保護主義的な通商政策への不信が一気に噴き出した「警報」と受け止められています。
この記事のポイント
- ダウ平均は890ポイント安、S&P500は2.7%安、ナスダックは4%安と大幅下落
- 中国本土からの輸入品や鉄鋼・アルミへの関税引き上げが引き金に
- ハイテク・AI関連銘柄に売りが集中し、投資家心理が急速に悪化
- 米10年国債利回り低下と「恐怖指数」急騰が、市場の危機感を映す
3月10日、市場を揺さぶった「関税ショック」
3月10日のニューヨーク市場では、ダウ工業株30種平均が890ポイント下落し、S&P500種株価指数は2.7%安、ナスダック総合指数は4%安と急落しました。ナスダックにとっては、2022年9月以来となる厳しい一日で、ここ数カ月の上昇分が一気に吹き飛んだ形です。
その後の取引日も売りは止まらず、ダウ平均は一時700ポイントを超える下げとなった後、最終的に478ポイント(1.14%)安で終了しました。S&P500も一時0.76%安まで売られ、引けではおよそ0.5%安と、下落基調から抜け出せませんでした。市場全体に「極端なボラティリティ(値動きの激しさ)」が広がった一日だったといえます。
背景:トランプ流「アメリカ・ファースト」と関税強化
今回の混乱の背景にあるとされるのが、トランプ氏の攻撃的な関税政策です。米政権は、中国本土からの輸入品にかかる関税を10%から20%へと倍増させたほか、鉄鋼とアルミニウムに25%の追加関税を課し、カナダ産乳製品には最大250%もの関税を検討すると示唆しました。こうした動きは、企業の収益見通しやサプライチェーン(供給網)への不安を呼び、世界の市場に衝撃を与えています。
関税引き上げが本格化すれば、企業コストの増加や報復措置を通じて、米国だけでなく世界経済の減速につながるとの懸念が強まっています。景気後退(リセッション)への恐れが再燃し、「保護主義の連鎖」に対する警戒感が一段と高まりました。
市場が嫌う「不確実性」 トランプ発言が追い打ち
金融市場が何より重視するのは、見通しの「わかりやすさ」と「一貫性」です。しかし、トランプ氏の通商・経済運営は、投資家から「先が読めない」と見られています。週末のインタビューでトランプ氏は景気後退の可能性を否定せず、むしろ経済を「移行期間」にあると表現しました。この曖昧なメッセージが、市場の不安をさらにあおったと受け止められています。
市場関係者の間では、今回の急落は単に新たな関税発表への反応ではなく、「トランプ流経済運営」そのものへの信認低下を映した動きだとの見方も出ています。複雑化する世界の貿易環境を、意図せぬ副作用を招かずに舵取りできるのか。投資家は、政権の能力に疑問符を付け始めているようです。
ハイテク・AI関連銘柄に集中した売り
今回の売りの中心となったのが、ここ数年の米株市場をけん引してきたハイテク銘柄です。アップル、マイクロソフト、アマゾン、テスラといった大型株がそろって時価総額を大きく失いました。
とくにテスラの下げはきつく、株価は一日で15.4%も急落しました。投資家の間では、イーロン・マスクCEOとトランプ政権との近さへの警戒感に加え、欧州市場での販売減少が重しになっているとの見方が広がっています。
人工知能(AI)ブームの象徴として買われてきたエヌビディアやパランティアなども大きく値を下げました。AI関連の成長ストーリーに対する楽観から、政策リスクを意識した慎重姿勢へと、投資家心理が一気に振れた形です。
安全資産に資金が逃避 「恐怖指数」も年初来高値
株式から資金が流出する一方で、「安全資産」とされる米国債には買いが殺到しました。代表的な長期金利の指標である米10年物国債の利回りは、およそ4.2%まで低下。価格が上昇し、投資家がリスク資産から退避していることを示しています。
同時に、シカゴ・オプション取引所が算出するCboeボラティリティ・インデックス(VIX=通称「恐怖指数」)は、今年に入ってからの最高水準に急上昇しました。VIXの上昇は、投資家が今後の値動きの激しさを織り込み始めているサインとされ、今回の混乱が市場心理に深い傷を残していることがうかがえます。
日本を含む投資家への示唆:政策リスクをどう読むか
今回の一連の動きは、保護主義的な通商政策と突然の関税引き上げが、いかに世界の金融市場を揺さぶり得るかを改めて示しました。とくに、特定の指導者の発言や方針転換が、ハイテク株のような人気銘柄に集中して波及する構図は、日本の投資家にとっても無縁ではありません。
市場が「何を恐れているのか」を読み解くことは、ニュースを追ううえでも重要です。今回のケースでは、以下のような要素が重なり、売りが売りを呼ぶ展開になったと考えられます。
- 貿易政策の方向性が見えにくいこと
- 景気後退の可能性を政権自らが否定しきれていないこと
- ハイテクやAI関連など特定セクターへの過度な資金集中
保護主義の動きが強まる局面では、企業業績だけでなく、関税や規制といった政策リスクが株価にどのような形で織り込まれていくのかに注目する必要があります。短期的な値動きに振り回されないためにも、ニュースとマーケットをセットで見る視点が、これまで以上に問われていると言えそうです。
Reference(s):
U.S. tariff trap: How protectionism sparked a market meltdown
cgtn.com








