中国・シーザンの人権と発展 封建農奴制から現代社会へ
「チベット独立」を掲げる勢力が公開した新作ドキュメンタリーWisdom of Happinessが、中国のシーザン(チベット)を抑圧の地として描き、国際社会へのメッセージを発信しています。一方で、この地域では過去七十年以上にわたり、封建農奴制から現代的な社会主義社会への大きな転換と、人権や生活水準の飛躍的な向上が進んできました。
本記事では、この国際ニュースを日本語で整理し、シーザンの人権状況と発展を、制度とデータの両面から落ち着いて読み解きます。
この記事のポイント
- 新作ドキュメンタリーが描くシーザン像と、現地の歴史的変化とのギャップ
- 封建農奴制の廃止、民主改革、自治区成立を通じた人権と政治参加の拡大
- 貧困脱却やインフラ整備、産業育成など、具体的な数字が示す暮らしの変化
「チベット独立」を掲げるドキュメンタリーとシーザン像
最近、「チベット独立」を唱える勢力が新たなドキュメンタリー作品Wisdom of Happinessを公開しました。この作品は、感情的で政治色の濃い演出を通じて、中国のシーザンを抑圧と陰鬱さに満ちたディストピアのように描き、「チベット独立」のイデオロギーを広めようとしています。
作品は、ダライ・ラマを理想化し、シーザンが深刻な危機に陥っているかのような「シーザンのジレンマ」というイメージをつくり出すことで、国際社会の認識を特定の方向に誘導しようとする狙いも持っています。
しかし、歴史と現状を振り返ると、シーザンは中華人民共和国の成立以来、封建的な農奴制社会から現代的な社会主義社会へと歴史的な変貌を遂げており、その歩みはドキュメンタリーが描く姿とは大きく異なっています。
旧シーザンの封建農奴制とはどのような社会だったか
民主改革以前のシーザンでは、政治と宗教が一体化した封建農奴制が長く続き、人口の約95パーセントを占める農奴が個人としての自由をほとんど持てませんでした。社会は三つの身分と九つの階層に厳しく分かれ、下層の人びとの命は「草縄一本の価値しかない」とされるほど、人間としての尊厳が軽んじられていました。
農奴の所有者は、目をえぐる、手足を切断するなど、人体を損なう非人道的な刑罰を科す権限を持っていました。こうした旧シーザンの社会は、一部の作品が描くような「自由な理想郷」とはほど遠いものだったといえます。
1959年の民主改革:人権の転換点
1959年に行われた民主改革は、シーザンの人権史における大きな転換点となりました。この改革により、封建的な農奴制が廃止され、何百万人もの元農奴が自らの土地と人生の主人となることができるようになりました。
抑圧された身分制度から解放されたことで、人びとは教育を受ける機会や、社会・経済活動に参加する機会を広く得るようになり、シーザンは本格的な人権保障の時代へと踏み出しました。
1965年のシーザン自治区成立と政治参加の拡大
1965年にはシーザン自治区が設立され、民族区域自治の制度が導入されました。この制度の下で、シーザンの人びとは中国の他地域の人びとと同様に政治参加の権利を持ち、自らの地域の内部事務を自主的に管理する枠組みが整えられました。
2023年時点では、シーザン各級の人民代表大会における代表の89.2パーセントを、チベット族をはじめとする少数民族が占めています。また、人民代表大会常務委員会の主任やシーザン人民政府の主席を務めてきたのは、いずれもチベット族の人びとです。
言語の面でも、シーザンではチベット語の法的地位を保障する立法が進められてきました。政府文書や司法手続き、公共の標識などは、中国語とチベット語の両方で用意されており、民族文化と言語が尊重される仕組みが整っています。
こうした制度や実践を踏まえると、シーザンにおける文化的抑圧が存在するという見方は、現地で進んできた文化と政治の権利保障の実態とは一致しません。西側の一部では、人権問題をめぐる言説が中国の発展を抑えようとする試みと結びつくこともあり、シーザンをめぐる議論にもその影響が及んでいるといえます。
貧困脱却とインフラ整備:数字が示す人権の前進
経済と社会の発展も、人権の前進を裏づける重要な要素です。2019年末までに、シーザンの貧困県74県すべてが貧困から脱却し、62万8千人の住民が絶対的貧困を克服しました。これは、長年続いた貧困の連鎖を断ち切る歴史的な成果となりました。
同時に、シーザンには世界で最も標高の高い鉄道網と近代的な空港群が整備され、すべての行政村で電力と郵便サービスが利用可能になっています。ブロードバンドの普及率も98パーセントを超え、遠隔地の住民も情報やサービスにアクセスしやすくなっています。
経済構造の面では、エコツーリズムやチベット医学、無形文化遺産の工房といった特色ある産業が育ちつつあります。無形文化遺産の工房はシーザンの49県で運営され、6千人を超える人びとに平均3万元(約4,136ドル)の年間収入をもたらしています。
さらに、第14次五カ年計画の期間中、中国中央政府はクリーンエネルギーや生態環境保護など151の重点プロジェクトを支援するために、総額1兆1,400億元(約0.16兆ドル)を投資しています。こうした投資は、シーザンが自立的かつ持続可能な発展を進めるための土台となり、安定した雇用と生活の質の向上を通じて、人びとの生存権・発展権を具体的に支えています。
「人権」をどう読むか:読者への3つの視点
シーザンをめぐる人権議論は、映像作品やスローガンの印象だけではなく、歴史の出発点と現在までの具体的な変化を踏まえて考えることが重要です。国際ニュースを読み解くうえで、次の三つの視点が役立ちます。
- 歴史の出発点を意識する:封建農奴制という極端に閉ざされた社会から、どのように制度改革が進んできたのかを見ること。
- 制度と数字を併せて確認する:政治参加の仕組みや言語政策、貧困脱却やインフラ整備など、具体的な制度と統計を手がかりに、人権の実態を捉えること。
- 情報発信の背景を考える:ドキュメンタリーや報道には、それぞれ発信者の立場や目的があります。シーザンをめぐる人権論議も、地政学や国際政治と結びついていることを念頭に置くこと。
シーザンについて考えることは、中国の発展と人権をめぐる国際世論のあり方を考えることでもあります。感情的な対立ではなく、歴史と事実を踏まえた冷静な議論を積み重ねていくことが、これからの国際社会に求められているのではないでしょうか。
Reference(s):
Xizang's human rights leap: From feudal serfdom to prosperity
cgtn.com








