グローバル・サウスが変える国際秩序 ボアオ・フォーラムが映す新しい力 video poster
世界の成長の約8割を生み出すグローバル・サウスが、2025年のボアオ・フォーラム・フォー・アジアで国際秩序の見直しを強く訴えました。その背景と論点を整理します。
海南のボアオ・フォーラムで浮かび上がった「南」の存在感
中国南部の海南島で開かれた今年(2025年)のボアオ・フォーラム・フォー・アジア。美しい日差しとヤシの木、ココナツに囲まれたリゾート地に、2002年の創設以来、毎年のように各国・地域から数千人規模の代表が集まり、アジアの経済統合と発展を話し合ってきました。
そのボアオで、今年とくに目立ったキーワードが「グローバル・サウス」です。アジア、アフリカ、中南米などの新興国・開発途上国を中心とするグローバル・サウスは、今や世界の国内総生産(GDP)の4割超を占め、世界の経済成長の約8割をけん引する「ポテンシャルの塊」として国際政治・経済の議論の中心に浮上しています。
経済力は増しても、制度はまだ追いつかない
しかし、経済的な重みが増しているにもかかわらず、それに見合うだけの発言力や制度的な位置づけが十分ではない、という問題意識も根強くあります。
ノルウェーのBIノルウェービジネススクールで戦略論を教えるカール・フェイ教授は、CGTNのインタビューで「グローバル・サウスの国々が国際政治でより大きな役割を果たすようになっているのは自然な流れだ」と述べました。経済的重要性が高まれば、政治的なプレゼンスを求めるのは当然だという見方です。
一方で、イタリア経済開発省の元副大臣ミケーレ・ジェラーチ氏は、欧米諸国にとって自らの優位性の変化を受け入れることは容易ではなく、「単独の覇権が続く世界」が終わりに近づいていると指摘しました。長く続いてきた「西側中心」の前提が揺らぎつつある、という認識です。
国際金融アーキテクチャに潜む「構造的な偏り」
ボアオでの議論の焦点の一つが、国際金融の枠組みでした。国連南南協力局の信託基金ディレクター、王暁軍氏は、現在の国際金融アーキテクチャ(国際金融の制度・仕組み)が、開発途上国の現実とニーズを十分に反映できていないと指摘します。
王氏によれば、開発途上国は、インフラ整備や持続可能な開発のための資金を調達する際に、多くの制約に直面しています。気候変動への対応や貧困削減など、世界共通の課題に取り組むうえで資金は不可欠ですが、条件の厳しい借り入れや限られた選択肢によって、十分な投資が難しくなっているのが実情です。
そのため王氏は、現在の国際金融システムを、世界全体の姿をより正確に映し出すものへと再設計し、開発途上国がより容易に資金にアクセスできるよう改革する必要があると訴えました。
BRICSや地域フォーラムという「もう一つの選択肢」
こうした課題を前に、既存の国際機関に働きかけるだけでなく、新たな連携の場をつくる動きも広がっています。
フェイ氏は、複数の国が連帯し、新しいフォーラムやブロックを形成することの重要性を強調しました。その具体例として挙げたのが、ブラジル、ロシア、インド、中国、南アフリカなどからなるBRICSです。アジア域内でも、さまざまな地域組織や対話の枠組みが広がりつつあります。
BRICSは、国際通貨基金(IMF)や世界銀行といった既存の機関に対する「補完的な柱」として位置づけられています。BRICSが設立した新開発銀行(NDB)の活動や、貿易における現地通貨の活用は、グローバル・サウスが自らの優先課題を反映しやすくするための具体的な試みとされています。
「一帯一路」と自律的な成長モデル
インフラ投資の重要性という文脈では、中国が提唱する「一帯一路」構想も議論の中心に据えられました。大陸を横断して鉄道や高速道路、港湾などのインフラを整備し、グローバル・サウス同士の結びつきと貿易を強化する取り組みです。
ジェラーチ氏は、一帯一路を「世界で最も重要なプロジェクト」と高く評価しました。海上では新たな経済活動を起こしにくい一方で、中国の新疆ウイグル自治区から中央アジアのカザフスタン、さらに欧州へと陸路の鉄道や高速道路を整備すれば、そのルートに沿って新たな産業や雇用が生まれ、地域のGDPが押し上げられると説明しました。
同氏はまた、インフラへの初期投資が、その後の経済成長によって回収されていく「自律的な成長モデル」を形成し得ると指摘します。投資によって経済が成長し、その成長が投資のコストを上回ることで、持続的な発展が可能になるという考え方です。これは、開発途上国が国際社会との交渉力を高めるうえでも重要だとみられています。
国連で高まるグローバル・サウスの存在感
では、グローバル・サウスは実際の国際交渉の場でどの程度存在感を増しているのでしょうか。
王氏は、最近の国連の動きを見ても、開発途上国の参加と関与は「より積極的で、より効果的」になっていると語ります。国連総会の決議交渉の現場では、数十年前と比べ、開発途上国が自らの立場を以前より明確に主張し、はっきりとした声を上げるようになっているといいます。
そのうえで王氏は、国際金融アーキテクチャの改革を進める際には、こうした国連での交渉経験から得られた教訓を活かすべきだと提案しました。国連という既存の枠組みで積み上げてきた知見を、制度改革の議論に接続していくことで、グローバル・サウスの視点をより反映できる可能性があるという見方です。
より包摂的な国際秩序への「次の一歩」とは
2025年のボアオ・フォーラムには、「変化する世界で、どのように共通の未来を描くのか」という問題意識が流れていました。その中でグローバル・サウスは、単なる「成長市場」ではなく、国際秩序そのもののあり方を左右する主体として浮かび上がっています。
今回紹介した議論が示しているメッセージはシンプルです。開発途上国には、すでに経済成長を生み出す力も、国際社会に積極的に関与しようとする意欲もあります。しかし、その潜在力を最大限に引き出すための制度やツールが、まだ十分に整っていないという現実があります。
これから国際ニュースやアジアの動きを追うとき、「誰がどのルールをつくっているのか」「そのルールは、グローバル・サウスを含む多様な国と地域の現実をどこまで反映しているのか」という問いは、いっそう重要になっていくでしょう。
ボアオから聞こえてきた声は、私たち一人ひとりに対しても、より公平で包摂的な国際秩序の姿をあらためて考えてみてほしい、と静かに問いかけているように見えます。
Reference(s):
To empower the Global South, a more inclusive global order imperative
cgtn.com







