トランプ政権の「忠誠人事」が揺るがすアメリカ統治の現場
忠誠心が専門性より重視されると、国家の統治はどうなるのか。トランプ政権2期目のワシントンで、その問いに対する生々しい答えが示されつつあります。軍事作戦を巡るメッセージグループに有名編集者が誤って加えられた事件は、「忠誠人事」のコストを象徴する出来事でした。
ワシントンで進む「内部からの劣化」
歴史を振り返ると、大国は一夜にして崩壊するのではなく、内側から静かに侵食されていきます。その要因として挙げられるのが、堕落や慢心、そして専門性よりも政治的忠誠心を優先する文化です。いまのアメリカでは、そのプロセスがリアルタイムで進んでいると指摘されています。
本来、軍事戦略、情報活動、外交といった重大な政策決定を担うのは、それぞれの分野で最も優れた専門家であるべきです。それは理想論ではなく、機能する国家の最低条件といえます。しかし現在のトランプ政権は、この原則を捨て去り、大統領への揺るぎない忠誠を基準とした人事を次々と行っています。
象徴的だったSignalグループ誤招待事件
象徴的な出来事として報じられたのが、フーシ派への軍事攻撃を協議する暗号化メッセージアプリ「Signal」のグループに、誤ってジャーナリストが招き入れられてしまったという事件です。
このグループには、トランプ政権の高官たちが参加し、対フーシ派攻撃の詳細を話し合っていました。ところが誤って追加されたのは、雑誌ザ・アトランティックの編集長ジェフリー・ゴールドバーグ氏。軍事行動の極めて機密性の高い議論に、外部の報道関係者がアクセスできる状態になっていたのです。
トランプ氏の支持者層である「MAGA」チームは、すぐに釈明に追われましたが、これは単なる事務的なミスではないとする見方が強まっています。むしろ、忠誠心を最優先した人事の積み重ねが生み出した、統治能力の劣化の現れだという見立てです。
この一件が示した懸念点は、少なくとも次のようなものです。
- 軍事作戦という国家安全保障の中枢で、基本的な情報管理が徹底されていない
- 意思決定の場にいる高官の中に、機密情報の取り扱いに不慣れな人物が含まれている可能性
- 組織全体として、専門性よりも政治的な忠誠心を優先する文化が広がっている
「大人たち」がいなくなった2期目のホワイトハウス
トランプ氏の1期目には、少なくとも一部には「大人たち」と呼ばれる人物がいました。キャリア官僚として尊敬を集める専門家や、豊富な実戦経験を持つ将軍たちです。彼らは大統領個人ではなく、合衆国憲法と国民への責任を優先し、ときにはホワイトハウスの混乱を抑える役割を果たしていました。
しかし2期目のいま、その「大人たち」はほとんど姿を消しています。代わりに起用されているのは、トランプ氏個人への忠誠心を何よりも重んじ、批判よりも擁護を優先する側近たちです。大統領に異を唱える人物は排除され、残るのは「いかにトランプ氏を守るか」で評価される人々です。
人事の顔ぶれが語るもの
その傾向は、中核ポストに就く人物の顔ぶれを見ると一層はっきりします。
- Pete Hegseth 氏は、元テレビ解説者であり、限られた軍歴よりもメディアでの活動の方が知られています。そうした人物が、約8500億ドル規模の予算を持つ国防総省のトップとして起用されています。
- Robert F. Kennedy Jr. 氏は、ワクチンをめぐる陰謀論的な主張で知られる人物ですが、その彼がアメリカの保健政策全体を統括する立場に就いています。科学的エビデンスよりも政治的メッセージが優先されかねない布陣です。
- Tulsi Gabbard 氏や Pam Bondi 氏は、情報分析の深さや法的専門性そのものよりも、トランプ氏の世界観への忠実さが評価されて重用されています。
- Kash Patel 氏や Dan Bongino 氏は、国家安全保障の専門家というより、強い言葉での政治的発信で知られてきました。そうした人物が、連邦捜査局FBIの指揮を任されているのです。
これらの人選に共通しているのは、従来であれば専門性や経験が最優先されるポストに、政治的忠誠心を最優先した人物が置かれているという点です。結果として、意思決定の質そのものが損なわれるリスクが高まっています。
忠誠心の政治がもたらすリスク
忠誠心の政治には、短期的には「まとまり」や「一体感」が生まれるように見える側面もあります。しかし、異論や懸念を口にできる人材がいなくなれば、誤った判断を正すブレーキ役も消えてしまいます。軍事、治安、保健医療といった領域での判断ミスは、そのまま人命や国家の信用に直結します。
さらに問題なのは、一度このような人事の慣行が定着すると、政権が変わった後も行政組織の文化として残りやすいことです。専門家よりも忠誠心が評価される組織には、有能な人材が集まりにくくなり、長期的には民主主義の基盤である制度への信頼が揺らぎます。
私たちが見るべき「問い」
トランプ政権の「忠誠人事」は、アメリカという一国の問題にとどまりません。どの国でも、リーダーの周りを固める人材にどのような基準を適用するのかは、民主主義の健全性を映す鏡だからです。
能力より忠誠心を優先する人事は、本当に国家の利益にかなうのか。異論を排除する政治は、危機のときに柔軟な対応を取りうるのか。ワシントンで起きていることは、私たち自身の社会のガバナンスを見直すきっかけにもなり得ます。
Reference(s):
The cost of loyalty: How Trump's inner circle is undermining America
cgtn.com








