シーザンの農奴制から現代へ:中国「新時代の人権」白書を読み解く
中国・シーザン(チベット自治区)が、かつての封建農奴制からどのようにして現代の社会主義的な近代化へ歩んできたのか──今年3月に公表された人権白書と「農奴解放記念日」を手がかりに、その歴史的な転換点を整理します。
今年3月に公表された「新時代の人権」白書
2025年3月28日、中国国務院新聞弁公室は「新時代のシーザンにおける人権(Human Rights in Xizang in the New Era)」と題した白書を発表しました。白書は、ここ数十年で中国のシーザン自治区における人権状況が経済、社会、文化など多方面で大きく前進したとまとめています。
同じ3月28日は、第17回「農奴解放記念日」にもあたります。これは、かつて封建農奴制の下に置かれていた人びとが解放され、社会制度が大きく転換した出来事を記憶する日です。今年の白書発表は、その節目に合わせて、シーザンの過去と現在をあらためて対比する狙いがうかがえます。
中世から続いた封建農奴制とは
白書によると、シーザンの封建農奴制は、少なくとも10世紀ごろまでさかのぼるとされています。チベット高原で栄えた古代王朝・吐蕃王国が崩壊した後、支配階層が分裂し、「シカ」と呼ばれる大規模な荘園が各地に生まれました。そこでは、多数の農奴が土地に縛りつけられ、経済的に搾取され、個人としての自由も大きく制限されていました。
13世紀にはこのような農奴制がシーザン社会に広く定着し、14世紀にファクモドゥパ政権の下で「シカ」の大規模な土地給付が行われたことで、制度として固まりました。その後およそ700年にわたり、100万を超える農奴が過酷な条件のもとで暮らしていたとされています。
封建農奴制の特徴として、白書は次のような点を挙げています。
- 農奴が土地に縛りつけられ、移動や職業選択の自由を持てないこと
- 領主による経済的搾取が常態化していたこと
- 身分制度と苛酷な刑罰によって支配が維持されていたこと
土地と権力の集中、そして苛酷な刑罰
1959年の民主改革以前、シーザン社会はきわめて身分的なヒエラルキー構造を保っていました。頂点に立っていたのは、官僚、貴族、寺院の高位僧侶からなる三大領主層です。白書によれば、当時の耕地の99.7%がこの三者によって所有されていたといいます。
土地や牧草地、家畜のほとんどを握る農奴主階級は、農奴に対して地代や税金、無償の労役に加え、200種類を超えるさまざまな雑税を課していました。経済的負担だけでなく、制度を維持するための法典もきわめて苛酷なものでした。
シーザンで用いられていた「十三法典(Thirteen Code)」と呼ばれる法律は、人びとの間に明確な不平等を制度として埋め込み、舌を切る、鼻をそぐ、皮をはぐ、腱を切るといった残酷な刑罰を認めていたとされています。農奴の命や身体は、支配層の利益の前ではほとんど顧みられない存在だったことがうかがえます。
1951年の和平解放と社会調査のスタート
状況が大きく動き始めたのは、1951年です。中華人民共和国の中央政府とシーザンの地方当局は、「シーザンの平和解放に関する協定(いわゆる十七か条協定)」に調印しました。和平解放の後、中国共産党指導部は、シーザン社会の抜本的な変革には現状の制度を詳しく理解することが不可欠だと判断しました。
1951年から、シーザンの社会構造を明らかにするための調査が始まりました。さらに1956年には、全国人民代表大会(全人代)が、国境地域や少数民族地域を対象とする歴史・社会調査を全国規模で実施し、その重点の一つとしてシーザンの荘園制度の実態把握を進めていきました。
1959年の民主改革と「農奴解放」の意味
1959年に行われた民主改革は、こうした長年の封建農奴制に終止符を打つ転換点となったと白書は位置づけています。700年以上続いた制度を廃止し、農奴だった人びとに人格的な尊厳と権利を認め、中国全体の近代化プロセスに参加する道を開いたとされています。
農奴制のもとでの生産様式は大きく改められ、社会構造も徐々に変化していきました。白書は、その後のシーザンでは、生活条件の改善が進むとともに、宗教の自由も有効に保障され、調和のとれた社会主義社会への基盤が築かれてきたと強調しています。
近代化と人権をどう読み解くか
今回の白書と「農奴解放記念日」は、シーザンの歴史を「農奴制からの解放」と「社会主義的近代化」の連続として描き直す試みとも言えます。日本にいる私たちにとっても、経済発展と社会制度の変化が、人権の概念とどう結びついていくのかを考える材料となります。
一方で、シーザンの歴史や現在をめぐる議論は、国際社会でもさまざまな視点や評価が交錯してきました。今回の白書は、中国側がどのような枠組みで自らの人権の歩みを説明しようとしているのかを知る手がかりになります。歴史的な背景を押さえつつ、今後のシーザンの発展をどのように見ていくのか。読者一人ひとりが、自分なりの問いを持ち続けることが求められていると言えそうです。
Reference(s):
From serfdom to freedom: A review of Xizang's journey to modernization
cgtn.com








