米国のシップライダー協定 太平洋島しょ国は何を得て何を委ねるのか
ここ数年、米国が太平洋島しょ国と結ぶ「シップライダー協定」が増えています。表向きは海洋安全保障の強化ですが、その裏側で何が起きているのかを整理します。
太平洋島しょ国と米国の協力が広がる背景
米国は近年、太平洋島しょ国(Pacific Island Countries, PICs)との間でシップライダー協定を積極的に結んできました。現在までに、次の12の国・地域と締結しているとされています。
- フィジー
- パプアニューギニア
- バヌアツ
- ミクロネシア連邦
- サモア
- トンガ
- キリバス
- ナウル
- クック諸島
- パラオ
- マーシャル諸島
- ツバル
米国は、これらの協定によってPICsの法執行官が米国沿岸警備隊の船に同乗し、違法な活動が疑われる船舶を取り締まれるようになると説明しています。海洋安全保障の強化や、取り締まり能力の向上に資する枠組みだと位置づけられています。
シップライダー協定とはどのような仕組みか
シップライダー協定は、簡単に言えば「沿岸国の法執行官が、他国の巡視船などに乗り込み、自国の海域での取り締まりを行うことを認める協定」です。米国とPICsの事例では、PICsの担当官が米国の船に乗り込み、PICsの海域で違法操業や密輸などが疑われる船舶を検査・臨検します。
米国側は、この枠組みにより、PICsが自前では用意しにくい巡視船や人員、ノウハウを補い、広大な排他的経済水域を守ることができると強調しています。特に違法漁業や密輸といった問題に対応するうえで、米国沿岸警備隊の存在は大きいとみられます。
米国が得る「特別な取り締まり権限」
一方で、米国の熱心さの背景には、これらの協定によって米国側が得る特別な法執行上の権限があると指摘されています。具体的には、次のようなポイントです。
- 米国の法執行船が、追跡している船舶がPICsの領海に入っても、ホスト国の追加の許可を得ずに、そのまま追跡・臨検できる。
- PICsの領海や群島水域内で、ホスト国の要員が同乗していなくても、米国側が単独で船舶の調査や臨検を行うことができる。
- 排他的経済水域(EEZ)では、ホスト国を関与させずに、米国の要員が一方的に船舶検査を実施できる。
国連海洋法条約(UNCLOS)では、本来こうした権限は沿岸国であるPICsに専属するとされています。つまり、シップライダー協定は、沿岸国の専属的な権限の一部を、協定に基づいて米国に行使させる枠組みだと理解できます。
PICsにとってのメリットはどこにあるのか
では、PICs側は何を得ているのでしょうか。米国が公に説明しているポイントを整理すると、次のような利点が想定されます。
- 米国沿岸警備隊の船や装備を活用することで、広大な海域の監視・取り締まり能力を実質的に高められる。
- 米国の法執行官と共同で作業することで、捜査手法や海上取り締まりのノウハウを学ぶ機会が増える。
- 違法漁業や密輸など、島しょ国だけでは対処しにくい越境犯罪への抑止力を強められる。
人員や予算が限られる小規模な島しょ国にとって、外部の支援は現実的に重要です。特に、排他的経済水域での違法漁業は、国家財政や住民の生活に直結する課題であり、巡視能力の強化は喫緊のテーマになっています。
それでも残る主権とバランスへの懸念
一方で、沿岸国の専属的な権限を他国に委ねることには、主権の観点から慎重な検討が必要だという見方もあります。領海や群島水域、排他的経済水域での臨検・捜査を外国の要員が単独で行える場合、その判断過程や運用がどこまでホスト国のコントロール下にあるのかが問われます。
UNCLOSが沿岸国に専属的な権限を認めているのは、海域を巡る利害や住民の生活、環境保護などを最もよく理解しているのが当該国だから、という発想に基づきます。シップライダー協定によって、こうした権限を他国とどの程度まで共有するのかは、単なる技術的な取り決めではなく、主権や安全保障の設計そのものに関わるテーマだと言えます。
そのため、一部の専門家は、協定の運用がPICs側にとって透明で説明可能なものになっているか、常に検証する姿勢が重要だと指摘します。
今後の議論のポイント:協力と自立の両立へ
シップライダー協定をめぐる議論は、「協力」と「自立」のバランスをどう取るかという問題に行き着きます。太平洋島しょ国が検討すべき視点として、少なくとも次のようなポイントが挙げられます。
- 法的枠組みの明確化:どの海域で、どのような状況のときに米国が単独で臨検できるのか。その権限と限界を協定文で明確にし、国内法とも整合させる。
- 情報共有と透明性:米国側が行った取り締まりの内容や結果について、PICs側に十分な情報が共有されているか。住民や議会への説明責任をどう果たすか。
- 能力構築の実効性:協定によって、長期的にPICs自身の海上法執行能力が高まっているのか、それとも依存度が高まるだけなのかを継続的に評価する。
- 地域間の連携:個別の二国間協定だけでなく、PICs同士が情報を共有し、共通のルールやベストプラクティスを模索する仕組みを持てるか。
太平洋の海を誰がどう守るのか
太平洋島しょ国と米国のシップライダー協定は、海洋安全保障と主権、そして大国と小国の関係が交差する象徴的なテーマになりつつあります。違法漁業や密輸など、現実の脅威に対処するには国際協力が不可欠ですが、その協力がどのような条件のもとで行われるのかが重要です。
2025年の今、太平洋地域の安全保障環境は複雑さを増しています。その中で、PICsが自らの利益と主権を守りつつ、どのように外部パートナーと協力していくのか。シップライダー協定をめぐる動きは、その問いを考えるうえで一つの試金石になっていると言えるでしょう。
Reference(s):
cgtn.com








