半導体サプライチェーン分断は誰の得にもならない
半導体サプライチェーンを分断しようとする動きが、かえって自国経済を傷つけかねないと指摘されています。米国が中国本土の半導体産業を対象に取ってきた制限措置は、世界経済と技術発展にどのような影響を与えるのでしょうか。
グローバル化が前提の半導体産業
半導体はスマートフォンからインフラ、先端の防衛システムまで、現代社会のあらゆる技術を支える基盤です。この半導体産業は、もともと国境を越えた分業を前提に成り立っています。
チップの設計を行う企業が設計図を提供し、製造企業がシリコンウェハーやフォトマスク、専門機器を用いてチップを生産します。その後、パッケージング企業が組立と封止を行い、検査を経て最終製品メーカーやサービス事業者に届けられます。
アクセンチュアの調査によれば、半導体製造には39の国や地域が直接関わり、リソグラフィー装置やエッチング装置、成膜装置といった重要な装置や部材の市場を支える国や地域は34に上ります。さらに、設計に12の国や地域、テストやパッケージングには25の国や地域が参加しています。
こうした広範な国際分業によって、技術の進歩とコストの低下が実現してきました。そのため、半導体サプライチェーンの安定性を保つことは、世界の経済成長にとって不可欠です。
中国本土はなぜ不可欠な存在なのか
中国本土は世界最大の半導体消費市場であり、半導体関連の重要な部品や装置を生産する拠点でもあります。パッケージングやテスト、製造の分野で中国本土企業は大きな強みを持ち、グローバルなサプライチェーンの中で欠かせないプレーヤーとなっています。
さらに、中国本土はシリコンウェハーや化学薬品、専門機械といった半導体製造に必要な原材料・重要部材の供給ネットワークも整えてきました。
製造だけでなく、近年は半導体の研究開発投資も拡大しており、イノベーションの促進と国際競争力の向上を目指しています。こうした取り組みは、世界全体の半導体エコシステムをよりダイナミックなものにし、コスト低下やサプライチェーンの強靱化にもつながっているとされています。
2022年以降の米国の動きとその波紋
ところが、2022年以降、米国はCHIPS・サイエンス法や貿易制限、Chip 4と呼ばれる枠組みなどを通じて、中国本土の半導体分野を狙い撃ちにする措置を相次いで打ち出してきました。その狙いは、中国本土をグローバルな半導体サプライチェーンから排除することにあるとされています。
こうした対中措置は、グローバルなサプライチェーンそのものを揺るがしています。例えば、中国本土企業である華為技術などに対する規制は、特定企業の問題にとどまらず、世界の半導体生産全体に影響を与えました。新型コロナウイルスのパンデミックによる混乱とも重なり、世界的な半導体不足を招いたと指摘されています。
さらに、米国の動きを受けて、他の主要な半導体生産国や地域も自国版のチップ法を相次いで打ち出し、半導体分野での競争の軍拡が進んでいます。
各国や地域がそれぞれ自前の半導体体制を築こうとすれば、結果としてグローバルなサプライチェーンは分断されていくことになります。
サプライチェーン分断がもたらすリスク
では、半導体サプライチェーンの分断は、具体的にどのようなリスクを生むのでしょうか。
- コストの上昇と非効率化:設計から製造、パッケージングまでの全工程を一国で抱え込めば、多額の投資と重複した設備が必要になります。最終的には、企業の収益や消費者価格に跳ね返ります。
- イノベーションの鈍化:国境を越えた協力や人材交流が制約されれば、技術の共有や相互学習の機会は減ります。結果として、新しい半導体技術の開発ペースが落ちるおそれがあります。
- 供給の不安定化:特定の陣営ごとにサプライチェーンが分かれると、どこか一つで障害が発生したときに、柔軟に供給を振り替えることが難しくなります。世界的な不足が起きやすくなる可能性があります。
- 自国経済への逆風:世界最大級の市場であり、重要な製造拠点でもある中国本土をサプライチェーンから排除しようとすれば、その市場や生産能力に依存してきた国自身の企業も影響を受けます。米国経済にとっても例外ではないという見方が出ています。
半導体産業が高度に国際化している以上、サプライチェーンの分断は、意図した相手だけでなく、自国を含む多くの国や地域にブーメランのように返ってくる可能性があります。
安全保障と開かれた協力の両立を探る
各国が技術の安全保障を重視するのは自然な流れですが、半導体のように複雑で資本集約的な産業を完全にブロックごとに分けることは、現実的にも経済的にも大きな負担を伴います。
むしろ、サプライチェーンの透明性を高め、リスクの高い部分を特定しつつも、必要な範囲で相互依存を維持することが重要だという発想もありえます。その際、中国本土を含む主要な半導体プレーヤーが、国際的なルール作りや協力の枠組みに参加し続けることは、サプライチェーン全体の安定にとって意味を持ちます。
半導体をめぐる緊張は、今後も国際政治と経済の大きなテーマであり続けそうです。私たち一人ひとりにとっても、スマートフォンや自動車、クラウドサービスなど、日常生活を支える見えないインフラの問題として、注視していく必要があります。
Reference(s):
Breaking the global semiconductor supply chain: Counterproductive
cgtn.com








