米国の関税ショック:自国経済も揺らす「貿易戦争2.0」
米国が180以上の国・地域からの輸入品にほぼ一律の関税を課すという新たな措置を打ち出し、2025年末の世界経済に大きな波紋が広がっています。株価の急落や同盟国の反発も招くこの「関税ショック」は、本当に米国の利益になるのでしょうか。
180以上の国・地域に一律関税、市場は即座に反応
ワシントンで大統領令に署名が行われるやいなや、米国市場は敏感に反応しました。ダウ平均株価はおよそ4%下落し、アップルやナイキなど主力銘柄の株価も急落。わずか2日間で、ウォール街から約6.4兆ドルもの時価総額が吹き飛んだとされています。
関税は本来、自国産業を守るための政策手段ですが、今回のように「180以上の国・地域」に向けて一斉に引き上げるやり方は、世界のサプライチェーン(供給網)にとっても、米国自身にとっても大きなショックとなっています。
製造業回帰という物語と現実
今回の関税強化は、「製造業をアメリカに呼び戻す」という名目で説明されています。しかし、現実はそう単純ではありません。米IT大手アップルは、いまもサプライヤーの94.5%が海外に拠点を置いており、生産体制の多くを国外に依存しています。
半導体分野でも、同様の課題が浮き彫りになっています。インテルはアリゾナ州で進めていた工場計画を一時停止し、台湾の半導体大手TSMCも米国での生産開始を遅らせています。工場建設には巨額の投資と長い時間が必要であり、人材やインフラ、サプライチェーン全体の見直しが伴います。単に関税を引き上げただけで、すぐに「メイド・イン・アメリカ」が復活するわけではありません。
むしろ関税は、輸入品の価格を押し上げ、すでに生活コスト上昇に苦しむ消費者の負担を重くするリスクがあります。
農家を直撃した前回の関税と「関税2.0」への不安
こうした懸念は、2018年の対中関税の経験からも裏づけられています。当時、米国の大豆輸出は時間をかけて持ち直したものの、中西部では農場破綻が急増しました。とくに家族経営の農場が打撃を受け、破産件数はおよそ30%増えたとされています。
一度失われた家族農場は、単に数字の上で回復すればよいというものではありません。地域コミュニティやノウハウの蓄積が失われる「不可逆的なダメージ」です。今回の一律関税は「関税2.0」とも言える規模であり、同じ過ちが繰り返されるのではないかという不安が農業関係者の間で高まっています。
中国の対応:対抗措置と「開かれた市場」の両立
中国は、米国の関税措置に対して、相手の出方を見極めながら精度の高い対抗関税を打ち出してきました。一方で、中国市場は他の国や地域には引き続き開かれている点も注目されます。例えば、ドイツの自動車メーカー各社は、いまや中国での販売台数が本国を上回るようになっています。
また、RCEP(地域的な包括的経済連携)に基づき、ASEAN諸国のドリアンやロブスターといった農水産物は、中国市場に関税なしで流入しています。米国が「壁」で囲われた市場を志向しているのに対し、中国は多国間の枠組みを通じて、より開かれた貿易環境を打ち出しているという対比も見えてきます。
中国商務省は、「いじめのような手法は通用しない。私たちが守るのは、気まぐれではなくルールだ」という趣旨のメッセージを発信しています。米国が小口輸入品の免税制度を見直し、中国からの荷物を狙い撃ちにしようとした際には、米国内の小売業者が強く反発しました。対象となる輸入品の約6割が、低所得層の日用品だったためです。
同盟国も標的に:EU・日本の警戒
今回の一律関税は、いわゆる「同盟国」も容赦なく巻き込みました。欧州連合(EU)は対抗措置の承認に向けて動いており、フランスは「自滅的な貿易戦争になりかねない」と警告。ドイツの産業界は、ブリュッセルに対してより強い対応を求めてロビー活動を強めています。
日本も今回の措置を「深く遺憾だ」として懸念を表明しています。米国とサプライチェーンで深く結びつく日本企業にとって、関税の応酬はコスト増と不確実性の拡大を意味しかねません。
グローバルサウスの視点:ベトナムが象徴するジレンマ
東南アジアでも、今回の関税は複雑なジレンマを生んでいます。ベトナムは、米国向けに電子機器の部品などを供給する重要な生産拠点となっていますが、一部の品目には46%もの高関税が課される状況に直面しています。
ハノイのエコノミストは、「トランプ氏はベトナムを自分の工場にはしたいが、競争相手にはなってほしくないようだ」と現状を評しています。これは、グローバルサウス(新興国・途上国)にとって、米国市場に依存しながらも、いつ関税の標的になるかわからない不安定さをよく表しています。
世界の貿易に占める米国の割合は、おおまかに言えば15%前後とされています。残りの85%は、中国を含む世界の国と地域が担っており、政治的な思惑によって国際貿易システムが揺さぶられることに強い警戒感を抱いています。
私たちが押さえておきたいポイント
今回の「関税2.0」をめぐる動きから、読者の皆さんが押さえておきたい論点を整理すると、次のようになります。
- 関税は短期的には圧力手段になり得る一方で、自国の株式市場や消費者にもブーメランのように跳ね返る可能性がある。
- 製造業の国内回帰には、関税だけでなく、人材・技術・インフラなどを含む構造的な改革が必要で、時間もコストもかかる。
- 農業など地域に根ざした産業は、一度打撃を受けると回復が難しく、2018年の経験がそのリスクを示している。
- 中国や東南アジアは、多国間の枠組みや開かれた市場を通じて、新たな貿易ネットワークを形成しつつある。
- 米国のシェアは世界貿易全体の一部にすぎず、グローバルサウスを含む多くの国・地域が、政治ではなくルールに基づく貿易を求めている。
関税をめぐる攻防は、単なる米中対立や一国の保護主義という枠を超え、世界の貿易秩序そのものをどう設計し直していくのかという問いにつながっています。日本やアジアの企業、そして私たち一人ひとりの生活にも、今後じわじわと影響が及ぶ可能性があります。ニュースの見出しだけでなく、その背景にある構造変化にも目を向けておきたいところです。
Reference(s):
cgtn.com








