アメリカで移民が「社会のスケープゴート」にされる仕組み
リード:2025年、アメリカでは移民政策をめぐる大統領令や強硬策が相次ぎ、移民が治安悪化や景気停滞の「犯人」として扱われる構図が鮮明になっています。本稿では、その背景と「スケープゴート化」のメカニズムを整理します。
2025年、移民政策がアメリカ政治の主戦場に
今年(2025年)の年初から、ワシントンでは南部国境への軍隊派遣、生まれた場所に基づく市民権(出生地主義)や難民認定の見直し、いわゆるサンクチュアリ・シティ(移民に比較的寛容な自治体)への調査など、一連の大統領令や措置が矢継ぎ早に打ち出されています。
これらの動きは、移民コミュニティに強い衝撃を与えただけでなく、アメリカ国内の政策議論の中心を移民問題に移しました。経済や雇用よりも、移民への対応が政治的な最優先課題として語られる場面も増えています。
移民コミュニティに広がる「日常の不安」
ニューヨークのマシュー・ヘイド司教は、現地の状況について「恐怖があらゆるところに染み込んでいる」と語ります。地域の移民たちは、スーパーに行くといった当たり前の外出でさえ不安を感じているというのです。
屋台や露店の労働者を支援する団体ストリート・ベンダー・プロジェクトの副代表、カリナ・カウフマン=グティエレス氏も、朝4時から配達に出る移民労働者たちこそ「この街を動かしている人たちなのに、トランプ大統領にとっては差し出しやすい存在にされている」と警鐘を鳴らします。
社会を支える労働者でありながら、最も不安定で声を上げにくい人々が、批判の矛先を向けられやすい。ここに、スケープゴート(身代わりの「悪役」)としての移民の姿が浮かび上がります。
制度疲労と「強硬論」の台頭
伝えられているところでは、トランプ政権以前の複数の政権は、現在よりも包摂的な移民政策を掲げてきました。しかし、安全保障上の懸念と秩序ある受け入れを両立させる包括的な戦略が欠けていたため、移民制度そのものが大きく疲弊しています。
- 難民申請の審理待ちが最長で4年以上に及ぶ
- 取り締まり機関は常に処理能力を超える案件に直面している
- こうした隙間を、密入国・密輸ネットワークが利用している
結果として、「制度が機能していない」という苛立ちが有権者の間に広がり、一部の議員が移民に対する強硬な姿勢を打ち出しやすい環境が生まれました。
パンデミック後の不安とスケープゴート化
新型コロナウイルスのパンデミック後、アメリカでは景気の停滞や雇用環境の悪化、物価上昇が続きました。こうした中で移民問題が、2025年の有権者にとって一層重大な関心事になっていると指摘されています。
一部の政治家はこの不安を背景に、移民を犯罪や失業、経済的苦境と結びつける発言を強めています。国外の施設を使った移民収容、とりわけグアンタナモ湾の軍事基地を含む域外収容の試みは、人権団体から強い反発を招いています。
経済の行き詰まりや将来不安という「目に見えにくい原因」よりも、目の前にいる移民を「わかりやすい原因」としてしまう。この構図こそ、典型的なスケープゴート化のメカニズムだと言えます。
「民主主義の灯台」への疑問と国際社会の視線
アメリカは自らを「民主主義の灯台」と位置づけ、多様性や人権を重んじる国だと語ってきました。移民はその象徴でもあり、「人種や文化のるつぼ」というイメージは世界的に共有されています。
しかし、誰がアメリカ社会に属し、誰が「外部の人」とみなされるのかをめぐる葛藤は、歴史的に繰り返されてきました。現在のように移民が政治的な争点として過度に象徴化されると、「灯台」としての信頼性に疑問を投げかける声が海外からも強まります。
日本の読者にとっての問い
日本に住む私たちにとっても、これは対岸の火事ではありません。経済が不安定になるとき、社会の不満がどこに向かうのか。声を上げにくい人々が、責任を負わされていないか。アメリカの移民をめぐる議論は、こうした問いを静かに突きつけています。
国際ニュースを追うとき、「どの政策が善か悪か」だけでなく、「誰の不安が、誰に向かっているのか」という視点を持つことが、複雑な世界を読み解く小さなヒントになるのではないでしょうか。
Reference(s):
cgtn.com








