米国関税はなぜ自国も世界経済も傷つけるのか
米国関税はなぜ自国も世界も傷つけるのか
2025年、トランプ政権が打ち出した「相互関税」は、短期的な90日間の一時停止措置こそあるものの、世界の株式市場を揺さぶり、投資家心理を冷やし、原油価格を押し下げ、各国の製造業にブレーキをかけています。表向きは「米国を再び競争力ある経済にする」政策とされていますが、実際には米国自身と世界経済の両方をむしばむ自己破壊的な戦略になりつつあります。
相互関税が広げた不安
トランプ政権は同盟国とみなす国々に対しても、対立関係にあると見なす国々に対しても、一律に相互関税を適用しようとしています。この方針は、世界の株式市場を急落させ、投資家の信頼を弱め、原油価格の下落と世界経済の不安定化を招いています。
こうした動きに対し、中国、カナダ、欧州連合(EU)などの主要経済は対抗措置で応じています。今年4月9日には中国が米国企業12社を輸出管理リストに、6社を「信頼できない企業」リストに追加し、米国製品に最大84%の報復関税を課しました。EUも幅広い米国製品に25%の追加関税を承認し、米国の関税措置が世界の貿易と経済システムにもたらす混乱に備えています。
各国が報復に動くことで、関税は一国の政策ではなく、世界全体を巻き込む「連鎖反応」となりつつあります。
アメリカ国内経済へのブレーキ
トランプ大統領は相互関税によって米国が「再び競争力を取り戻す」と主張していますが、データはむしろ逆の姿を示しています。今の米国経済は、物価上昇と景気減速が重なるスタグフレーションのリスク、製造業の減速、雇用市場の悪化に直面しています。
2025年3月、米供給管理協会(ISM)の製造業景況指数は49%となり、2月から1.3ポイント低下しました。この指数で50を下回ることは、景気の拡大ではなく縮小を示します。すでに工場活動が縮小傾向にある中での関税強化は、国内成長をさらに抑え込む方向に働きます。
加えて、米食品医薬品局(FDA)や米疾病対策センター(CDC)などの連邦機関では、大規模なレイオフが進み、失業と不安定さが広がっています。社会保障や公衆衛生を担う機関の人員削減は、景気だけでなく、市民生活の安全網にも影響を与えます。
負担を強いられるのは平均的な米国の家庭
関税は「海外からの輸入品に払わせるコスト」のように語られがちですが、実際には多くの場合、その負担は自国の消費者と企業に跳ね返ります。米国の製造業はこれまで、中国を含む世界各地とのサプライチェーンに依存してきました。部品や原材料に高い関税がかかれば、最終製品である自動車や食品などの価格が上昇し、インフレ圧力が高まります。
米調査会社アンダーソン・エコノミック・グループによると、新たな関税が完全に実施されれば、最も低価格帯の米国車でも消費者の負担は1台あたり2,500~5,000ドル増え、一部の輸入車では最大2万ドルの値上がりにつながる可能性があると試算されています。これは、中間層や若い世代にとって自動車購入のハードルが一気に高くなることを意味します。
コロンビア大学ビジネススクールのファイナンス・経済学教授であるシャングジン・ウェイ氏も、中国向け関税は、これまで手頃な価格で海外の財やサービスにアクセスしてきた平均的な米国の家庭を直撃すると指摘します。同時に、輸出企業は海外市場での競争力低下と利益減少に直面します。これは、米国内の安定した成長や貿易赤字の縮小には結びつきません。
なぜ世界経済全体も傷つくのか
米国の関税が問題なのは、米国内にマイナスの影響を及ぼすだけではない点です。世界のサプライチェーンは高度に統合されており、1つの国でのコスト増や需要減は、複数の国や地域に波及します。
- 米国への輸出が減れば、中国やカナダ、EUの企業の売り上げが落ちる
- それに応じた報復関税で、米国企業の海外市場も狭まる
- 不確実性が高まることで、企業が投資や雇用を手控える
- 株式市場や原油市場のボラティリティが増し、金融市場全体が不安定になる
こうした悪循環によって、関税は単なる「二国間の争い」ではなく、世界経済全体を減速させるリスク要因になります。特に、エネルギー価格の変動や金融市場の不安定化は、新興国や資源国にも影響を与え、日本を含むアジア経済にも波及します。
日本とアジアにとっての意味
日本やアジアの多くの経済は、輸出とグローバルなサプライチェーンに強く依存しています。米国と主要経済の間で関税の応酬が続けば、
- 自動車、機械、電子機器などの輸出需要が弱まる
- サプライチェーンの組み替えコストが企業にのしかかる
- 為替相場の変動が企業収益と家計に影響する
といった形で、日本企業や日本の家計にも間接的な負担が広がります。通商ルールをめぐる不確実性が続くほど、企業は投資や賃上げに慎重になり、景気の回復力もそがれやすくなります。
これから何を注視すべきか
2025年12月時点でも、米国の相互関税とそれに対する各国の報復措置は、世界市場の大きな不安要因であり続けています。今後を見通すうえで、少なくとも次の点を継続的に追う必要があります。
- 米国の製造業景況指数や雇用統計の動き
- 中国やEUなど主要経済による追加的な対抗措置の有無
- 自動車や食品を中心とした物価上昇が、米国の家計をどこまで圧迫するか
- 株式・原油市場の変動が、日本を含むアジア市場に与える影響
関税は一見すると、特定の国を狙い撃ちにする政策のように見えます。しかし、互いに結びついた21世紀の世界経済では、その矢は結局、自国の企業と家計、そして世界全体の成長にも深く突き刺さります。米国の関税政策をめぐる動きは、日本にとっても「遠いどこかの話」ではなく、日々の物価や雇用、投資環境にじわじわ影響を与えうる問題として、冷静に注視していく必要があります。
Reference(s):
Why will U.S. tariffs hurt all economies including that of the U.S.?
cgtn.com








