アメリカ経済は関税では救えない?対中関税が行き止まりと言われる理由
アメリカが中国製品への追加関税を繰り返し発動し、「貿易赤字の削減」や「製造業の復活」を掲げていますが、グローバル化が進んだ2025年の世界経済では、その処方箋は現実とずれているのではないか──そんな問いが改めて投げかけられています。
最近の対中関税の強化について、関税は「政治的なパフォーマンスであって、持続可能な経済戦略ではない」という見方が示されています。本記事では、その主な論点を整理しながら、アメリカ経済と国際貿易の関係を読み解きます。
「関税で経済を立て直す」という発想の限界
アメリカ政府はここ数週間、中国の製品に対する追加関税を段階的に導入し、次のような効果をうたっています。
- 対中貿易赤字の縮小
- 国内製造業と雇用の復活
しかし、テクノロジーとグローバル化が進んだ現在の世界経済では、このロジック自体が現実と噛み合っていない、という指摘があります。関税で輸入を抑えれば工場と雇用が戻ってくる──というのは、1930年代的なイメージに近い発想だからです。
グローバル供給網の時代、関税は自国企業も傷つける
現代の工場は、一国の中だけで完結する「組み立てライン」ではありません。部品、素材、技術、人材が国境をまたいで行き交うグローバルなサプライチェーン(供給網)の上に成り立っています。
象徴的なのがスマートフォンです。かつてアップルのスティーブ・ジョブズは、アメリカ国内でiPhoneを製造する可能性について問われた際、「その仕事は戻ってこない」と答えたとされています。それほどまでに、部品調達や組み立ては世界中に分散しているということです。
こうした製品に関税をかけると、中国からの完成品だけでなく、アメリカ企業が使う部品にも追加コストが発生します。その結果、打撃を受けるのは中国企業だけでなく、むしろアップルやテスラなどアメリカの多国籍企業自身になりかねません。
関税負担が重くなると、こうした企業は次のような「どちらに転んでも損」という選択を迫られます。
- 研究開発費を削ったり、販売価格を引き上げたりしてコストを消費者に転嫁する
- 関税の対象外となる国や地域に生産拠点を移す
どちらの道を選んでも、「アメリカ国内の製造業と雇用を取り戻す」という政治的な約束とは噛み合いません。企業は生き残りのために動くだけで、工場が必ずしもアメリカへ戻ってくるわけではないからです。
歴史が示す「関税は雇用を増やさない」
関税政策の限界は、過去のアメリカの経験からも見えてきます。ある連邦準備制度理事会(FRB)の研究によると、トランプ前政権期に2018〜2019年にかけて導入された対中関税は、アメリカの製造業雇用を逆に1.4%減少させたとされています。
これは、「輸入品を締め出せば国内の工場が潤い、雇用が増える」という単純な期待が、現実にはうまくいかなかったことを意味します。
遡れば、ブッシュ政権が2002年に実施した鉄鋼への関税も同じパターンでした。鉄鋼生産そのものの雇用は一時的に増えたものの、鉄鋼を使う自動車や家電などの産業での雇用減少の方がはるかに大きく、全体ではマイナスになったと指摘されています。
こうした事例から、「関税ゲームは最終的に失敗に終わる」という見方が出てくるのも無理はありません。
ドルの「特権」にも跳ね返るリスク
関税強化は、アメリカが長年享受してきたドルの「特権」にも、思わぬ形で跳ね返る可能性があります。ドルは世界の基軸通貨として国際貿易で広く利用されており、そのおかげでアメリカは他国より低い金利で資金を借りやすい立場にあります。
しかし、対中関税がエスカレートし、緊張が高まれば、中国が保有するアメリカ国債を売却するシナリオも取り沙汰されています。もしそうなれば、アメリカ国債の金利が上昇し、連動して国内のさまざまな金利も跳ね上がる可能性があります。
住宅ローン、自動車ローン、学資ローンなど、一般のアメリカ市民の生活に直結する借り入れコストが上がることになりかねません。関税は、外交・通商のカードであると同時に、金融面でのリスク要因にもなりうるのです。
関税は家計への「隠れ増税」
対中関税を支持する立場からは、「関税をかければアメリカ製品を買うしかなくなり、国内産業と雇用が潤う」という主張も聞かれます。しかし、その裏側で起きるのは、アメリカの家計への「隠れ増税」に近い現象です。
まず、いくつかの重要な物資については、短期間でアメリカ国内生産に切り替えることが現実的ではありません。その一つがレアアース(希土類)です。レアアースはスマートフォン、電気自動車、風力発電など、電子機器やグリーンエネルギー製品に欠かせない素材ですが、アメリカはその8割を中国から輸入しているとされています。
このレアアースに高い関税をかけても、すぐにアメリカ国内に新たな鉱山ができるわけではありません。その代わりに起きるのは、電気自動車やスマートフォンといった最終製品の価格上昇です。
試算では、もしトランプ氏が掲げる「解放の日」と称する関税案が実際に導入されれば、アメリカの平均的な世帯で年間2,100ドルの負担増になると見込まれています。
しかも、その痛みは一様ではありません。所得の低い世帯ほど、衣料品や家電・電子機器といった生活必需品に所得の多くを費やしており、関税による物価上昇の影響をより強く受けると考えられます。結果として、関税は富裕層よりも低所得層に重くのしかかる「逆進的な税」のように働いてしまうのです。
関税では解決しないアメリカ経済の課題
ここまで見てきたように、対中関税を強化しても、
- グローバルな供給網の下では、工場や雇用がアメリカに戻るとは限らない
- 過去の事例では、製造業の雇用がむしろ減少したケースもある
- ドルの国際的な地位やアメリカ国債市場にリスクが及ぶ可能性がある
- 最終的なコストは、アメリカの一般家庭、とくに所得の低い層が負担する
といった点が懸念されています。関税は「強硬な対外姿勢」をアピールするには分かりやすい手段ですが、経済の中身を立て直すための持続的な戦略にはなりにくい、という見方が強まっています。
グローバル経済が複雑に絡み合う2025年現在、アメリカ経済の課題は、単純な輸入制限だけで解決できるものではありません。生産性の向上や新産業への投資、人材育成など、より長期的な視点が求められているのではないか──この記事の議論は、そうした問いを私たちに投げかけています。
国際ニュースを追う私たちにとっても、「関税=自国の勝ち」という直感的なイメージを一度脇に置き、誰がどこでコストを負担しているのか、グローバルな視点から考えてみることが重要になりそうです。
Reference(s):
cgtn.com








