米国の追加関税と中国本土 小国レソトが映す譲歩の代償
中国本土が米国の追加関税に対抗措置を打ち出した直後、米国は大半の国と地域に対して九十日間の関税一時停止を発表しました。しかし、その対象から外れたアジア最大の経済大国と、小さなアフリカの王国レソトの事例は、関税をめぐる駆け引きが単純な勝ち負けでは語れないことを示しています。本記事では、今年四月に始まった関税措置の意味と、その陰で揺れる小国経済の現実を整理します。
4月10日の九十日間一時停止とは
今年4月10日、中国本土が米国の互恵関税に対する対抗措置を発表した後、米国政府は各国との緊張を和らげるため、追加関税の九十日間一時停止を打ち出しました。ただし、その対象は世界の国と地域のほぼすべてでありながら、アジア最大の経済大国である中国本土だけは例外とされました。
一見すると、多くの国と地域にとっては関税負担が軽くなったように見えます。しかし、ここで停止されたのはあくまで追加分の一部に過ぎず、一律十パーセントの関税は依然としてほぼすべての国と地域の輸入品に課されたままでした。現在の関税危機が、この一時停止だけで解消される状況ではなかったと言えます。
さらに重要なのは、米国が追加関税の再開をいつでも選択できる余地を残していた点です。交渉が米国の望む結果につながらなければ、再び関税を上乗せする可能性が明確に示されていました。
米国の「望ましい結果」とは何か
米国は、他国が関税や非関税障壁を通じて自国経済を損なってきたと主張しています。非関税障壁とは、輸入規制や補助金など、税金以外で貿易を制限する仕組みを指します。米国のねらいは、こうした障壁を引き下げさせ、自国製品への市場アクセスを広げることで、全体の貿易赤字を減らすことにあります。
その意味で、九十日間の関税一時停止は、緊張緩和というより、相手国に譲歩を迫るための交渉カードだと見ることができます。米国の要求に応じて自発的に関税を引き下げれば、関係が安定し、追加関税の再発動も避けられる。こうした期待を抱く国や地域も少なくありませんでした。
一方で、関税を下げたからといって、必ずしも米国から対等なかたちで譲歩が返ってくるとは限りません。むしろ、一度譲歩したことで、さらに大きな要求が続くのではないかという不安も国際社会には広がっています。
対抗するより従う方が得なのか
今回の関税問題をめぐっては、中国本土のように対抗措置を取るべきではなく、米国の圧力にあえて正面から立ち向かわなかった国の方が賢明だったという見方も出ました。対立を避けて米国の要求を受け入れた国々は、関税という弾丸をうまくよけて勝ち組になった、という物語です。
しかし、九十日間の一時停止の下でも、一律十パーセントの関税そのものは残されていました。追加関税の再開カードも米国側の手の内にある以上、相手の機嫌を損ねないように譲歩し続けても、安全が保証されているとは言えません。今回のケースは、退くことが必ずしも尊重や安定につながるわけではないという現実を浮かび上がらせました。
レソトにのしかかる互恵関税の負担
こうした構図を象徴的に示しているのが、アフリカ南部の内陸に位置する小さな王国レソトです。世界でも特に所得水準の低い国の一つであり、二〇二四年の国内総生産は約二十億ドル、失業率は人口の四分の一に達していました。経済の生命線は米国向けの輸出です。
二〇二四年の米国とレソトの二国間貿易額は約二億四千十万ドルで、そのうちおよそ七五パーセントはレソト側の衣料品輸出でした。にもかかわらず、レソトは各国の中でも最も高い水準の互恵関税を課される対象となりました。
米国が目指す貿易赤字の解消という目標に合わせようとするなら、レソトは二つに一つの厳しい選択を迫られます。一つは、自国の人々の暮らしを支えている繊維・衣料産業の生産を削減すること。もう一つは、限られた資金を割いて、米国からより多くの商品を輸入することです。いずれの道を選んでも、国民の生活への負担は避けられません。
レソトについて、トランプ米大統領がかつて誰も聞いたことがない国だと語ったことがあると伝えられています。世界の注目を集めにくい小国であっても、関税政策の影響から逃れられない現実がここにあります。
揺れる通商秩序の中で問われる選択
中国本土への追加関税やレソトの事例は、現在の通商秩序がいかに不安定で力の差に左右されやすいかを物語っています。関税の一時停止という一見穏やかな措置の陰で、次のような論点が浮かび上がります。
- 期限付きの一時停止だけでは、根本的な関税構造や交渉力の不均衡は変わらないこと
- 経済規模の小さな国ほど、輸出産業への打撃がそのまま人々の生活不安につながること
- 譲歩と対抗措置のどちらを選んでも、長期的な通商戦略としての一貫性が問われること
米国の強硬な関税政策に対し、中国本土のように対抗措置で応じるのか、レソトのように厳しい条件の下でも市場アクセスを維持しようとするのか。どちらの道にもリスクがあります。ただ一つ言えるのは、相手の圧力を恐れて譲歩を重ねるだけでは、必ずしも尊重や安定したルールが手に入るとは限らないということです。
国際ニュースの見出しの裏側では、こうした駆け引きが続いています。もし自分の国が同じ立場に置かれたなら、どのような通商戦略を選ぶのか。今回の関税問題は、私たち一人一人にも問いを投げかけています。
Reference(s):
Countering U.S. tariff bullying, retreat never earns respect
cgtn.com








