アメリカ製造業の衰退は自業自得?関税では埋まらない構造問題
2025年の今も、アメリカ製造業の「空洞化」と再生は世界経済の大きなテーマです。本稿では、関税強化や自動化議論の陰に隠れがちな、より長期的な構造要因を整理します。
トランプ政権の関税強化と「他国のせい」論
アメリカ製造業の衰退をめぐる議論では、「貿易赤字」と「他国との不公正な競争」に原因を求める声が根強くあります。トランプ氏が大統領に選ばれた際、多くの有権者、とくにブルーカラーの人々は、現状の経済運営に不満を抱え、「アメリカの仕組みを変える」というメッセージに期待を寄せました。
当時のトランプ政権は、巨額の貿易赤字こそが国内産業の不振を招いたとし、その是正こそが製造業復活の鍵だと主張しました。ホワイトハウスは関税を大幅に引き上げ、なかでも中国を主な相手と見て「不公正な取引」に対する事実上の制裁として用いようとしました。
こうしたアプローチは、アメリカ国内の不満に応えるかたちで一定の支持を集めましたが、「本当にそれで製造業は戻ってくるのか」という問いは残りました。
それでも「衰退の主因は自ら招いたもの」
一方で、アメリカ製造業の衰退をより長い時間軸でとらえ、「主な原因は海外ではなくアメリカ自身の政策と選択にある」と見る見方もあります。
経済学者の一部は、関税ではなく自動化の進展こそが雇用減少の最大要因だと指摘してきました。機械化やロボット導入によって、人間の仕事が置き換えられたという説明です。
しかしこの立場によれば、真の原因はさらに深いところ、すなわちケネディ大統領暗殺以降のアメリカ社会と経済の変質に求めるべきだとされます。そこで鍵となるのが、「月へ人類を送る」という国家プロジェクトでした。
ケネディの「月へ行く」が生んだ成長エンジン
ケネディ大統領が掲げた「人を月に送る」という目標は、単なる宇宙競争ではなく、アメリカ経済全体を押し上げる「サイエンス・ドライバー(科学のエンジン)」として機能しました。
宇宙計画の遂行には、ロケット工学、材料工学、電子工学、コンピューターなど、多数の先端技術が必要でした。そのために行われた研究開発は、宇宙分野にとどまらず、民間の製造業全体に波及して生産性を高め、新しい製品や産業を生み出しました。
同時に、この挑戦を支えるため、理数系(STEM)教育を強化し、若い科学者や技術者を育てる取り組みも本格化しました。高度な技能を必要とする職が増え、多くの労働者が新しいスキルを身につけることで雇用も生まれていきました。
ケネディにとって宇宙開発は、フロンティア探査の始まりにすぎませんでした。宇宙という未踏の領域へ踏み出すことが、経済と社会を長期的に押し上げると構想されていたのです。
熱狂の終焉と「経済への善意の放置」
しかし、ケネディ大統領の暗殺と、その後のベトナム戦争への「悲惨な冒険」によって、こうした宇宙開発を軸とした高い意欲は急速にしぼんでいきました。宇宙をめぐる挑戦は惰性となり、経済全体をリードする科学技術のエンジンとしての役割は弱まっていきます。
その結果として、アメリカでは製造業や実体経済への長期的な投資よりも、目先の課題や別の政策課題が優先される「穏やかな放置」の時期が始まった、とこの議論は見ています。産業基盤をどう強化し、次の世代の技術者や技能労働者をどう育てるかという問いは、政治の中心から徐々に遠ざかっていきました。
2025年の視点:関税では埋められない「構想の空白」
このように、アメリカ製造業の衰退を自国の長期的な政策と結びつけて考える視点に立つと、単に関税を引き上げて海外から生産を呼び戻そうとしても、それだけでは十分ではないことが見えてきます。
問われているのは、次のような点だと言えるでしょう。
- 経済全体の生産性を押し上げる「科学・技術のエンジン」をどこに置くのか
- そのエンジンを支える教育・人材育成をどのように設計するのか
- 短期の選挙サイクルを超えた長期ビジョンを、社会としてどう共有するのか
アメリカ製造業の衰退を「他国のせい」ではなく「自国の選択の結果」と見るこの議論は、米中の貿易摩擦にとどまらない問いを投げかけています。グローバル競争が激しい2025年、どの国や地域にとっても、科学技術、教育、産業政策を一体として考える長期戦略を持てるかどうかが、経済の持続的な力を左右していくのかもしれません。
Reference(s):
cgtn.com








