関税戦争では米製造業は復活しない?トランプ政権の誤算を読む
2025年4月にホワイトハウスが発表した大規模な関税強化は、「アメリカ製造業の復活」を掲げたトランプ政権の象徴的な政策です。しかし、関税戦争は本当に失われた工場と雇用を取り戻すのでしょうか。本稿では、その効果と限界を整理します。
トランプ政権の狙い:再び「製造業の国」へ
就任演説でトランプ大統領は、アメリカを再び「製造業の国」にすると誓いました。今回の関税強化も、国内の工場を守り、製造業を世界で再び競争力ある産業に押し上げることが目的とされています。
政権は、1994年の北米自由貿易協定(NAFTA)締結以降、およそ9万の工場が失われたとし、その一因を貿易協定や国際競争に求めています。そのうえで、強硬な関税をテコに貿易条件を有利に変えようとしている、という見方が出ています。
「敵探し」では製造業はよみがえらない?
一方で、こうした関税政策に懐疑的な見方も根強くあります。ある論考は、アメリカ経済が不透明感の中で「外部の敵」を求めているだけであり、関税戦争は誤った処方箋だと指摘します。
経済不安と関税戦争
アメリカでは、製造業の雇用と賃金が長期的に低迷してきました。トランプ政権は、「貿易相手国と対決し、関税戦争を仕掛ければ、疲弊した製造業がよみがえり、工場と雇用が戻ってくる」と期待しているとされています。
しかし、批判的な立場からは、関税だけでアメリカを製造業の中心地に戻し、かつての「製造業黄金期」のようなルネサンス(再生)をもたらすという発想は、現実を過度に単純化しているとみられています。
NAFTA以降の9万工場喪失が示すもの
NAFTA締結以降の約9万工場の喪失は、たしかにアメリカ社会に大きな衝撃を与えました。ただ、その背景には貿易だけでなく、技術革新や自動化、生産の高度化といった構造的な変化もあります。
関税は貿易の条件を変えることはできても、技術や働き方の変化そのものを逆回転させることはできません。この点に着目すると、「関税だけで工場が戻る」とする考え方には限界があるといえます。
IMFが懸念する世界経済への波紋
国際通貨基金(IMF)は、こうした関税戦争が世界経済全体に悪影響を与えると警告しています。IMFによれば、関税の急激な引き上げは、世界経済の成長を鈍化させ、2025年の経済は低成長と高インフレに直面することが予測されています。
つまり、「自国の製造業を守るための関税」が、結果的に世界経済の不安定化を招き、アメリカ自身の景気や雇用にも逆風となる可能性がある、という視点です。
そもそも、アメリカ人は工場で働きたいのか
議論の根本には、あまり語られない問いもあります。それは「アメリカ人自身は工場で働きたいのか」という問題です。
ある論者は、1980年代末から2000年代初頭にかけて、ワシントンD.C.、カリフォルニア、ミズーリ、ルイジアナと、4つの州で生活した経験を振り返りながら、工場労働に対するアメリカ人の根強い反発を指摘します。
工場労働は「望まれない仕事」だった
その証言によると、当時すでに多くのアメリカ人は工場で働くことに否定的でした。理由の一つは賃金の低さです。工場の仕事は「割に合わない仕事」とみなされ、新しい移民や外国人労働者に割り当てられるケースが多かったとされています。
同時に、労働組合の運動は弱体化し、利益を最優先する企業経営者の行動によって、現場の声が届きにくくなっていったという指摘もあります。こうした環境では、たとえ工場が戻ってきても、「そこに進んで働きたい」と思う人がどれほどいるのかという疑問が残ります。
関税だけでは解けない「雇用」と「働き方」の課題
アメリカの製造業をめぐる議論は、単なる関税の是非にとどまりません。そこには、
- どのような仕事を「良い仕事」とみなすのか
- 低賃金の現場をどう改善するのか
- 労働組合や労働者の声をどう政策に反映させるのか
といった、雇用や働き方の根本的な問いが横たわっています。
関税戦争は派手で分かりやすい政策ですが、製造業の衰退や雇用の不安定化といった問題は、より長い時間軸と複数の要因が絡み合った結果です。そう考えると、「関税さえ引き上げれば、工場と雇用は戻る」という物語を疑ってみることが、今のアメリカを理解する一つの手がかりになるかもしれません。
日本の読者への問いかけ
日本でも、地方の工場や製造業の空洞化、非正規雇用の問題が長く議論されてきました。アメリカの関税戦争をめぐる議論は、
- 「安い海外製品」をどう受け止めるか
- 国内の産業と雇用をどう守り、どう変えていくか
- 若い世代が働きたいと思える現場をどう作るか
という、日本社会にとっても共通する問いを投げかけています。
トランプ政権の関税政策をきっかけに、「製造業の復活」とは何を意味するのか、そしてどのような働き方や産業構造を選びたいのかを、私たち自身の課題として考えてみる必要がありそうです。
Reference(s):
Tariff wars fail in reviving afflicted U.S. manufacturing industry
cgtn.com








